#マーケティング #消費者ニーズ #本
消費者調査のアンケートの回答やヒアリング内容が、なんとなく表面的に感じられる…。
では、消費者やお客さんが本当に求めていることは、いったい何だろうか?
消費者自身すら気づいていない潜在的なニーズにどうすれば迫れるのか、そこからどう商品価値へと落とし込むのか――。そのヒントが詰まった一冊が 「消費者ニーズ」 の解像度を高める (犬飼江梨子) です。
今回は、こちらの本をもとに消費者ニーズの掘り下げ方から価値提案への展開、マーケティング力の鍛え方を掘り下げます。
本書の概要
本書のテーマは、タイトルのとおり 「消費者ニーズの解像度を高めること」 にあります。
消費者にとって自分ひとりでは調べきれないほどのいくつもの商品やサービスが溢れています。
価格や機能だけではお客さんから選んでもらうことが難しい環境で、まだ満たされていない消費者の隠れた欲求を捉える重要性を強調する本です。
著者はこれまで2万人以上の消費者インタビューを経験し、独自の 「ニーズファインディングメソッド」 を確立した方です。本書では、そのエッセンスを体系的かつ実践的に解説してくれます。
消費者が自覚していない潜在ニーズや、口では言い表せない本音の感情をいかに発掘できるか?著者いわく、アンケートなどの定量調査のみでは見えてこない顧客への洞察が、ヒット商品や顧客満足度の高い商品開発やマーケティングにつながると言います。
本書の構成は大きく5つのポイントに分かれています。
- 現代のコモディティ化時代におけるマーケティング課題
- ニーズファインディングメソッドのフレームワーク概略
- 実践編 (質問技法, 観察手法, ニーズの可視化, コンセプト設計)
- 具体的な失敗・成功事例の分析、購買意欲を高める 「購買喚起ワード」 と言語表現の応用
- 「自分ごと化」 でニーズ発見力を磨く重要性。現場主義と顧客共感の姿勢
この本は、消費者ニーズを探るためのインタビューや観察の技術をわかりやすく紹介し、発見したニーズを商品・サービスのコンセプトに落とし込むためのプロセスを解説する一冊です。
本書を読むことで、本当の消費者ニーズはどこにあるのかを探る視点や具体的な実践方法が身につくはずです。自社の商品やサービスがどうすれば消費者に選ばれる存在になるのかを考え、実現するために役立つノウハウが詰まった本です。
顧客理解からの価値提案の全体像
消費者やお客さんのことを理解し、顧客理解からお客さんへの価値を提案するために、この本で重視するのは次の4つの要素です。
- 顧客の状況
- ニーズ
- エンドベネフィット (顧客への価値)
- 価値を実現できる理由 (RTB (Reason to believe) )
順番に言うと、まず 「どの顧客のどんな状況に着目するのか」 です。
次に、その状況下で 「顧客が実際に求めているニーズ」 を発掘し、 「最終的にお客さんにもたらされる価値 (エンドベネフィット) 」 を定義し提案します。
価値の訴求には、なぜその価値が実現できるかの根拠 (RTB) も加えます。
ニーズの四象限
顧客ニーズについての分類がわかりやすかったので共有します。
本書で提示されるのはニーズのマッピング (四象限による可視化) です。顧客や消費者のニーズを探るとき、縦軸と横軸をかけ合わせ、以下のような四象限で整理するとニーズを捉えやすくなります。
- 変化・刺激ニーズ or 安定・平穏ニーズ
- 自己実現ニーズ or 他者とのつながりニーズ
この2つの軸をかけあわせることにより、4つの領域 (象限) が生まれます。
- 変化・刺激 × 自己実現
未知の世界に飛び込み、新しいスキルを身につけて成長したい。
多少のリスクがあってもワクワク感を優先し、挑戦すること自体に価値を見出す - 変化・刺激 × 他者とのつながり
おもしろい体験を他人と共有し、一緒に楽しみたい。
イベントやコミュニティに積極的に参加したり、人との新しい交流を通じて他者とのつながりができることに喜びを感じる - 安定・平穏 × 自己実現
落ち着いた環境を好み、コツコツと自分を高めていきたい欲求。
リスクの少ない選択肢を慎重に選び、確実に前進して成長を実感することにモチベーションを感じる - 安定・平穏 × 他者とのつながり
なるべく不安要素を減らし、安心感を得ながら他者との調和を重視する。
日々の生活の中で、家族や仲間との穏やかで平和な関係に価値を見出す
4つに分けましたが、人ごとにきっちりといずれかに分類されるというよりも、一人の消費者の中で複数のニーズが同居していて、4つが混在し優先度の強弱があるということです。
消費者ニーズの掘り下げ方
本書が消費者ニーズの中でも特に強調しているのは、消費者が自覚していない潜在ニーズです。
アンケート調査で 「どんな商品が欲しいですか?」 と訊いても、本当に欲しいものが返ってくることはあまりないでしょう。そうした消費者ニーズを見出すための方法として、この本ではいくつかの方法を提示します。
「なぜ?」 による深掘り
例えばインタビュー調査で対象者に、一回程度で 「それにはどんなメリットがあるか」 と訊くだけでは表面的な答えしか得られません。
そこで、さらに何度か質問を重ね 「なぜそれがメリットなのか?」 「そのメリットは何が良いのか」 「なぜそれはあなたにとって大切なのか」 と少しずつ深め、根掘り葉掘り訊いていくアプローチです。
インタビュー対象者が 「朝食をちゃんと食べるメリットは健康にいい」 と発言した奥には、「健康でいることは、仕事やプライベートを充実させる土台となる (そのメリットは何が良いのか) 」 があるのかもしれません。
さらに、「日々充実感を持っている自分を誇らしく思える、自分のことが好きでいられる (なぜそれはあなたにとって大切なのか) 」 といった、普段は家族や友人にも話さないような自分の価値観が潜んでいるのです。
感情の揺れ動きを捉える
著者は、これまでの2万人を超える消費者へのインタビュー経験から、感情が購買行動の最も強いドライバーだと言います。
ワクワク、ドキドキ、イライラ、がっかりなど、消費者が感じた喜びや不満の瞬間、感情が揺れ動くときに潜在ニーズが顔を出します。
この人はどういった状況で、どんな状態だったときに、具体的にどんな感情が動いたかを丁寧に紐解くことによって、まだ言葉にされていない本音を垣間見ることができるのです。
バイアスブレイク
常識や前提を疑うのも有効です。
例えば、ホテルは泊まる場所、ペンは一度書いたらもう消せないものといった常識を疑い、新たな用途や価値を見つけるというふうにです。
商品やサービスの現状の仕様を一度すべて洗い出し、なぜその仕様なのかを考え、もし変えたり取り除いたらどうなるかを想像してみると、新しい着想が生まれるかもしれません。
常識が前提にあるところに、意図的に固定観念を壊すという 「バイアスブレイク」 によって、売り手や買い手もバイアスで気づいていなかったニーズの種が埋まっている場合があります。
Do ニーズから Be ニーズへの昇華
ニーズにはいくつかの種類があります。
大きくは3つあり、商品など何かを手に入れたいニーズ、商品を使ったり行きたいなどの行動レベルのニーズ、そして自分のありたい姿を目指したいというより高次元のニーズです。
例えば、朝食を食べたいという Do のニーズは、最終的には 「健康的で充実した暮らしを送りたい」 という Be のニーズがあるというふうにです。
消費者の Be ニーズまで捉えられると、消費者が本当に欲しているのは 「栄養バランスの良い食生活を続けられ、自分だけではなく家族みんなが健康に心身ともに幸せに暮らすこと」 という心の中の本当の望みが見えてきます。
ニーズや顧客理解からの顧客価値への転換
消費者ニーズを捉えた段階では、まだ道半ばです。せっかく潜在ニーズを見つけても、ニーズから商品やコンセプト、広告コミュニケーションに落とし込まれなければ成果にはつながりません。
本書では、見出した消費者ニーズを具体的な顧客価値に転換するためのポイントを紹介しています。
機能からエンドベネフィットへ
商品やサービスの機能を並べるだけでは、消費者やお客さんにとってなぜそれを使うことが良いのかが伝わりません。これが意味するのは、消費者は自分で機能情報から得られる価値が何かを、売り手が翻訳しないといけないということです。
そこで 「エンドベネフィット」 という消費者目線での商品を使うことでのメリットや感情を中心に、売り手が言い換えることが必要になります。
例えば、すばやく浸透する成分という商品の機能があるなら、お客さんへのエンドベネフィットは 「忙しい朝でも短時間でしっかり潤いを与えられ、自信をもって1日をスタートできる」 と訴求します。
ターゲット・使用シーン・ ベネフィット・RTB の明確化
この本で提示する顧客価値への転換の流れは、
- ターゲット顧客 (誰が使うのか)
- 商品使用シーン (いつどのように使うのか (ニーズが表れるシーンを共有) )
- エンドベネフィット (得られる顧客価値)
- RTB (Reason to believe の略でベネフィットが実現される根拠)
これら4つをセットとすることによって、消費者には 「自分にピッタリ」 「この商品なら買っても失敗せず満足できそう」 と納得感を持ってもらえます。
マーケター自身が顧客視点を体感する
この本では、マーケター自身が自分の感情を振り返ることの大切さが強調されています。
具体的には、自分が衝動買いした商品の買った理由を冷静になりあらためて考えてみるというようにです。例えば 「衝動買いの奥には ○○ という気持ちや本音があったのかもしれない」 と見えてくるものがあります。
自分自身をひとりの消費者として見立て、自分の振る舞いや心理を掘り下げることにより、仕事で消費者ニーズを発見するための日々のトレーニングになります。実際に自分も顧客としての体験を積むことで、消費者の立場になったリアルな価値づくりに活かせます。
まとめ
今回は、書籍 「消費者ニーズ」 の解像度を高める (犬飼江梨子) を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 潜在ニーズの発掘が重要。表面的なニーズだけではなく、消費者自身も気づいていない本当の欲求となる潜在的なニーズを見抜く
- 消費者ニーズの掘り下げ方には、① なぜを繰り返す質問で本当のニーズを深掘り、② 感情の揺れ動きから言語化されていない欲求を発見する、③ バイアスブレイクで既存の常識を疑う
- 顧客理解から価値提案までの4要素は、注力顧客の状況、ニーズ、エンドベネフィット (顧客価値) 、RTB (顧客価値を実現できる根拠)
- ニーズを顧客価値へ転換し、消費者が得られる具体的な価値 (エンドベネフィット) を明確に訴求する
- マーケター自身が消費者の視点で体験し、自分の購買行動を振り返ることによって、よりリアルで刺さるコンセプトを生み出せる
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