#マーケティング #存在意義の再定義 #価値創出
市場の縮小で需要が減る中、自社の商品や技術も先細りになる…。そんな危機感を抱えていないでしょうか?
今回ご紹介するのは、老舗ライターメーカーのライテックの事例です。
事例から学べるのは、既存の枠を超えて商品の可能性を広げる発想法です。自社の強みを見つめ直し、新たな顧客ニーズと結びつけることによって、思いもよらない価値創造のチャンスが広がります。
ライテックのバーナーライター
1937年創業のライテックは、使い切りライターのメーカーです。たばこのライターという喫煙具が長らく主力商品でした。
しかし、近年は人々の喫煙率が下がり続け、ライターの市場自体も縮小傾向にあります。加えて、広告規制や子どもへのチャイルドレジスタンス機能の義務化などで、たばこへの需要はさらに下がっている状況でした。
そんな中、ライテックが目を付けたのが 「あぶり調理」 という新しいニーズです。既存のカセットボンベタイプのバーナーに比べて、小さくて火力を調整しやすく、しかも安全に使えるバーナーライターです。
ライテックがジェットライターの技術を応用して生まれたのが、バーナーライターの 「あぶり師」 です。家庭で気軽に料理をあぶることを楽しめるようにと、使い方や安全面が工夫されています。
本体の形状はあぶりやすく、小型サイズなので手が小さい人でも握りやすく携帯性にも配慮されたデザインです。使い方はキャップとロックを外し、ボタンを押すだけなのでライター感覚で使えるのが魅力です。
火力は大小が選べるようになっています。ガスバーナーよりは弱いものの、炎が広がりにくく上にまっすぐに出るため、食材をピンポイントにあぶれます。
発売当初は小売店にライターとして扱われてしまい、売場が違い思ったように広がらなかったものの、スーパーの店員や店長が 「お寿司の横に置いてあぶり寿司を提案する」 などの店頭実演をしてくれたことで売れ行きが伸びました (参考情報) 。
さらにライテックは 「あぶり師」 を使ったスイーツ店を独自に開業するなど、あぶり文化を根付かせるための取り組みを精力的に行っています。
商品の "存在意義" と "利用用途" の再定義
では、ライテックのバーナーライター 「あぶり師」 の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
従来の狭い捉え方からの脱却
ライテックは長年 「たばこに火をつけるためのライター」 という用途に向けて事業を展開していました。しかしたばこ市場そのものが縮小傾向にある以上、たばこ用のライターだけに固執していてはジリ貧です。
そこでライテックは 「そもそもライターの本質とは何か?」 という問いを持ち、ライターのことを 「火をつける技術」 と捉え直しました。
この発想転換がターニングポイントでした。自社にあるコア技術を見つめ直すことにより、自社の用途領域を 「火 = たばこ」 だけでなく、「火 = 料理をあぶる」 や 「火 = 香り付けをする」 といった新しい活用シーンに着目できたわけです。
結果として、たばこに火をつけるというひとつの用途に閉じていた道具が、新たな可能性をはらむ商品へと生まれ変わりました。
新たな視点で生活者の状況を捉え直し、顧客の困りごとを発見
マーケティングの観点で注目したいのは、生活者の目線で火を使いたい場面を探したことです。
ライテックの代表取締役社長の子どもが、「家庭であぶりたいけど、ガスバーナーは怖い」 と言っていたことがきっかけでした。普通のバーナーが 「炎が大きくて扱いづらい」 「手の小さい人には持ちにくい」 「価格もやや高い」 といった理由から、家で気軽に使いにくい存在になっていることを知りました。
そこでライテックはこれまで培ってきたライター技術を活かし、小型で携帯でき、必要な分だけ火が出せる小さなバーナーを企画開発。家庭で安心して手軽に使えるバーナーライターとして誕生した 「あぶり師」 につながったのです。
新しい市場開拓
あぷり師はライフテックにとっての新しい市場を開拓しました。
既存の領域外で活用シーンを広げる
バーナーライターのあぶり師が狙ったのは、料理をワンランク上に仕上げたいという消費者ニーズです。これは従来のたばこ用のライターとは全く異なるニーズの領域です。
ライテックはここに勝機を見出しました。たばこの喫煙率が低下する中、将来的に伸びる可能性を持つ家庭での調理シーンを選んだわけです。
新たな価値の提案
目の前で料理を炎であぶるという習慣が日本ではまだ十分に普及していない点も、ライテックにとってはチャンスでした。
あぶり寿司や炙りスイーツと聞くと特別感が生まれ、実際に火を使って目の前で仕上げるとエンタメ的な体験価値も加わります。自宅でちょっとした非日常感を演出できるという付加価値を提供できるのがライテックのあぶり師です。
ライテックはバーナーライターの販売だけにとどまらず、あぶり師を主役にしたスイーツ店舗の開業に果敢に挑戦しました。
スイーツ店の来店客のお客さんに、バーナーライターのあぶり師を実際に見てもらったり、目の前であぶられたできたてのスイーツを堪能してもらうことで、家庭でも気軽に使えそうなバーナーライターの存在を知る絶好の機会になります。自分も家で自宅でやってみたいと思ってもらえる踏み込んだプロモーションになります。
家庭内であぶる調理が楽しくなるようなイメージを広げることにより、あぶり師は商品自体の価値だけではなく、あぶりを取り入れた暮らし方や顧客価値を提案しているわけです。
マーケティングへの汎用的な示唆
では最後のパートでは、ライテックの事例から得られる汎用的な示唆を整理しておきましょう。
顧客目線からの発想転換
あぶり師の開発背景には、家庭であぶり料理をしたいものの、既存のバーナーは怖くて使いにくいという生活者目線の問題発見がありました。
こうした一人の消費者の声を聞き流すかどうかで、商品開発の行方は変わります。企業側の論理だけを押し通すのではありません。実際に使う実在する消費者がどんなシーンで困っているか、どのような不安や不便さを抱えているのかを丁寧に拾うことが、消費者理解や顧客理解を深めることにつながります。
価値や機能の本質を問い直す
ライテックが行ったのは 「ライターはたばこに火をつけるもの」 から、「火を持ち運ぶ技術」 への視点の転換でした。
自社が持つ技術や主力商品を再定義することによって、自社商品が本来持っている機能や価値は何か、消費者や企業がどんなシーンで使ってくれ、どのように役に立ちそうかをあらためて考え直すことになります。
特に長年にわたって同じ市場で商売をしていると、どうしてもその市場だけを見るばかりで視野が狭くなります。今の既存顧客層にしか目を向けていないと、もし市場の需要が縮小すれば、ビジネスも会社も衰退してしまいます。ライテックは、縮小するライター市場から抜け出すために 「火のプロ集団」 というアイデンティティ形成を目指しました。
想定顧客と利用用途を広げる
ライテックのあぶり師のように新しいアイデアを形にするには、商品自体の存在意義を再解釈することが大切になります。
これまでのライターを売るというビジネスから、家庭で手軽に安全にあぶり料理を楽しめる調理器具を提供することへと変わると、見えてくる顧客層はグッと広がります。
あぶり師は、家庭での普段の料理だけではなく、ホームパーティやアウトドアシーン、さらには飲食店のセルフあぶりメニューなどでも重宝される可能性を秘めています。こうした消費者や飲食店での利用が増えれば増えるほど、想定顧客と商品を使う用途は増えていくことでしょう。
私たちが自社のビジネスに置き換えてみれば、「今の商品やサービスは、本当はどんな価値を消費者やお客さんにもたらしているのか」 、「想定している既存顧客のほかに、魅力だと感じてくれる潜在顧客はいないだろうか」 という問いを持ち続けることが大切です。
まとめ
今回は、ライテックのバーナーライター 「あぶり師」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 既存の顧客層に加えて、潜在的な新たな顧客セグメントや利用シーンを模索する。市場そのものを柔軟に捉え、想定外の用途や顧客を発見する姿勢が大事
- 消費者・顧客の声や生活シーンを観察し、潜在的な不便や課題を理解する。顧客目線での問題発見が解決策につながる
- 自社商品やサービスの本質的な価値を固定的に捉えず、常に再定義し、新たな可能性を探求する。既存の市場や用途にとらわれない柔軟な発想が重要
- 自社の持つコア技術やリソースを、より広い文脈で捉え直し、異なる市場や領域への応用できる可能性を探る。技術の汎用性を追求することで新たな事業機会が生まれる
- 自社商品が提供できる体験や生活様式の価値を提案する。機能的価値にとどまらず、感情的・社会的価値の創出を目指す
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