#マーケティング #経営 #弱者の戦略
資本力も人員も限られた中小企業が、潤沢なリソースを持つ大手と真正面から競争するのは、筋が良いとは言えません。
リソースの少ないプレイヤーには、強者ではないなりの勝ち方があります。
今回は、一度は廃業した老舗かまぼこ店 「吉開のかまぼこ」 の復活劇から、小さな会社が大きな成功をつかむ秘訣を紐解きます。
吉開のかまぼこ
130年以上の歴史を持つ老舗でありながら、一度は廃業の道をたどらざるを得なかったのが 「吉開 (よしがい) のかまぼこ」 です (参考情報) 。
廃業の理由は後継者不在でした。技術を引き継ぐ人がいないことに加え、工場立地の問題も絡んでいました。
ところが、当時大学生だった林田茉優氏が後継者探しの支援に関わったのを機に、大きく動き始めます。
どうにか M&A 候補を探し当てたものの、工場移転費用や地元住民との関係調整で折り合いがつかず破談。しかし 「自分はかまぼこを作りながら死にたい」 という先代の言葉が林田氏の心に火をつけ、現場調査と住民との対話を続けました。
そして大手 IT 企業が子会社として事業継承を決め、なんと林田氏本人が社長に就任。自ら社長として運営を担うことになったのです。
注目したいのは、若い力で老舗を甦らせたことだけではありません。吉開のかまぼこの復活後は 「完全無添加かまぼこ」 という商品をさらに磨き、高単価路線への変更を実行。この経営判断が功を奏し、メディア露出や口コミも後押しして、売上を回復させました。
では、吉開のかまぼこの事例から学べることを掘り下げていきます。
戦略の観点で見ると、ランチェスター戦略の 「弱者の戦略」 に当てはまり、大手ではないプレイヤーがどう生き残るかに示唆があります。
弱者の戦略とは
まずはランチェスター戦略の 「弱者の戦略」 について整理してみましょう。
ランチェスター戦略には大きく2つの法則があります。第一法則が 「弱者の戦略」 、第二法則が 「強者の戦略」 です。弱者と強者では戦略として 「やること」 と 「やらないこと」 が逆になります。
弱者の戦略は、局地戦・接近戦・一点集中。一方の強者の戦略は、総力戦・広域戦・全方位と反対のアプローチになります。
前者の弱者の戦略についてもう少し解像度を上げると、次の要素が実践するためのポイントです。
- 市場やカテゴリーを絞る [局地戦]
- リソースを注力する (商品・ターゲット顧客・エリア等) [一点集中]
- 直接対決する相手はなるべく少なくする [一騎打ち戦]
- エンドユーザーや顧客に直接アプローチをする [接近戦]
- 大手プレイヤーにはできない時には泥臭い打ち手 [ゲリラ戦]
吉開のかまぼこの戦略と実行
では、これらの5つのポイントを 「吉開のかまぼこ」 の事例に当てはめていきましょう。
市場やカテゴリーを絞る [局地戦]
弱者の戦略では、戦うエリアや領域を限定することが重要です。
吉開のかまぼこは、廃業後の復活時に取り扱う商品を完全無添加の 「古式かまぼこ」 に絞りました。以前は天ぷらやちくわなど複数商品を取り扱っていましたが、再開時には高級魚のエソを使った完全無添加かまぼこを選択したのです。
吉開のかまぼこは完全無添加を実現する高い製法を武器に、競争が激しい一般的なかまぼこ市場から、健康志向・高級志向を持つ限られた消費者層へと注力顧客を設定。価格は従来の3倍に変更し、日常的な食べ物ではなく、ギフトや特別な日のための高級品というポジションを狙いました。
リソースを注力する [一点集中]
限られたリソースを一点に集中させることも戦略の肝になります。
吉開のかまぼこは、限られたリソースを一点集中させることを徹底しました。商品を古式かまぼこの一種類に絞り、製造技術習得、原価管理、在庫管理に集中できました。
注力顧客を健康志向・高級志向の消費者としたことに加え、自社 EC サイトにチャネルを一本化。EC サイト上で、価格の理由や製法のこだわりを丁寧に伝え、お客さんに価値を納得してもらえることに注力しました。
商品のパッケージデザインも、従来の青系統から白地に赤の高級感あるデザインに変更し、ブランドイメージの向上にリソースを集中させました。
直接対決する相手はなるべく少なくする [一騎打ち戦]
強者と同じ土俵で多くの相手と戦うのではなく、競争相手が少ないフィールドを選ぶのが弱者の戦い方です。
一般的なかまぼこ市場では多くの競合商品が存在しますが、吉開は 「完全無添加高級かまぼこ」 という、競合の少ない市場を選択。大手メーカーと低価格市場での競争を避け、高付加価値・高単価市場で競争相手を限定しました。
価格競争を主体とする大手メーカーとの直接対決を回避できる状況へと導きました。
エンドユーザーや顧客に直接アプローチをする [接近戦]
お客さんとの距離を縮め、直接的な関係を築くことは、弱者にとって顧客基盤の土台になります。
吉開のかまぼこは、EC サイトとクラウドファンディング (マクアケ) を使って消費者や応援者とダイレクトな顧客接点を築きました。マクアケを活用したテストマーケティングを行い、直接お客さんの反応を収集。顧客ニーズが確かにあることを確認できました。
自社 EC サイトでは製品価値や価格設定の理由を説明し、お客さんとの直接的なコミュニケーションをとりました。サイトではお歳暮カタログの送付なども行っています。
また、かまぼこ板に顧客企業のロゴや名前を刻印するなど、顧客ニーズを反映したノベルティ商品も展開し、法人顧客への直接アプローチも実践しました。
このようにエンドユーザーへの "接近戦" を重視することによって、お客さんとの関係性を深め、共感や高価格帯商品への納得感を生み出しました。
大手プレイヤーにはできない時には泥臭い打ち手 [ゲリラ戦]
弱者にとっては、強者が効率を重視するために手を出せない非効率なこと、小回りが利かない部分を攻める "ゲリラ戦" も有効です。
吉開のかまぼこは泥臭い打ち手を実践しました。その最たるものが、会社の再建にあたって近隣住民との対話を重ね、工場再稼働のための課題 (騒音・臭気問題) を粘り強く解決したことです。
林田氏は週末のたびに往復3時間をかけて工場のある地域を訪れ、一軒一軒を訪問し住民と対話を重ねました。魚の臭いの臭気問題を解決するために排水溝を住民とともに自らも率先して掃除をするなど、大手企業では実施が難しい、地域密着型と言える交渉を続けました。これは大手には真似のできないようなゲリラ的なアプローチです。
また、メディアに出演し、自身のストーリーを積極的に発信することで、「24歳女子の "素人社長" がかまぼこ老舗企業を復活させた」 というストーリーで話題をつくり、広告費を抑えながらブランド認知を拡大しました。
これらの泥臭い手法の継続が、大手プレイヤーが追随できない吉開のかまぼこの競争優位性となったのです。
吉開のかまぼこの事例は、リソースが限られた状況でも、戦略次第で道を切り拓けることを示しています。
たとえ大手企業ではなくても弱者の戦略の5つのポイントを自社の状況に当てはめて考えてみることによって、新たな突破口が見つかるはずです。
まとめ
今回は、老舗企業の 「吉開のかまぼこ」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後に 「弱者の戦略」 のポイントをまとめておきます。
- 特定領域で No.1 を目指す。戦う市場や商品カテゴリーを限定し、圧倒的な No.1 のポジションを築くことに注力する [局地戦]
- 強みを一点に集中投下する。自社の限られたリソース (人・物・金・情報) を絞り込み、市場や商品、注力顧客へ集中させ、効率を最大化する [一点集中]
- 直接的な競争を回避する。価格競争や強者がひしめく戦場 (市場) を避け、価値を提供できる市場で、競争相手を限定する [一騎打ち]
- 直接的な顧客接点をつくる。お客さんとの物理的・心理的な距離を縮め、直接的なコミュニケーションや個別対応から信頼関係を深める [接近戦]
- 小回りを活かした独自戦術をとる。大手が参入しにくい手間のかかることや、ニッチなニーズに応えるなど、小規模ならではの柔軟性や機動力を活かしたゲリラ的な打ち手をとる [ゲリラ戦]
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