今回は、販売手法やマーケティングの話です。
BMW MINI の 「32時間試乗サービス」 を取り上げます。
✓ この記事でわかること
- BMW MINI の32時間試乗サービスとは?
- 試乗サービスと試供品の共通点
- 32時間の意味
- MINI の32時間試乗サービスからマーケティングで学べること
この記事を読んでいただきたいと思うのは、マーケティングや販売の仕事をされている方です。BMW の販売手法から、自社のマーケティングや営業・販売のヒントになればと思っています。
また 「32時間試乗サービスとは何?」 や 「マーケティングにどんな学びがあるのか」 と思った方にも、参考になればと思います。
BMW MINI の32時間試乗サービス
BMW の小型車ブランド 「MINI」 が、おもしろいサービスをやっています。32時間の試乗サービスです (キャンペーンサイトはこちら) 。
「32時間、ミニオーナーになる」
以下は日経新聞の記事 からの引用です。
独 BMW 傘下の小型車ブランド 「ミニ」 が人気を維持している。外国メーカー車の登録台数では2020年度まで5年連続首位。
新型コロナウイルスの感染拡大で対面での接客が制約される中、車両を長時間貸し出して乗り心地などを実感してもらう新しい試乗サービスが奏功し、支持につながっている。
「32時間、ミニオーナーになる」 ―― 。20年5月に BMW 日本法人のビー・エム・ダブリュー (東京・千代田) が販売店を通じて始めた試乗サービスは、ミニを無料で32時間利用できる。
引用: 日経 2021.7.2
試乗サービスの狙い
自動車の試乗サービスは、化粧品や健康サプリでよくある試供品やサンプル品と同じです。
例えば化粧品の試供品は1回から数回分の量を無料で使ってもらい、使い心地を試してもらいます。良いと思えば買ってもらえます。意図的に有料の商品より小さい商品にして無料で配っています。
試供品と同じことを自動車販売で再現しているのが試乗サービスです。時間を限定して、実際に道路上を運転してもらい乗り心地を体験してもらいます。
32時間でできること
一般的には試乗サービスの時間は数十分程度です。運転できる範囲は、自動車販売店の周りに限定されます。
確かに車の操作感や乗り心地は体験できますが、普段の車の利用シーンではありません。普段の利用とは、例えば自宅からの買い物、送り迎え、通勤、ドライブ、遠方への移動です。通る道も自宅周辺が中心です。
一般的な数十分の試乗サービスでは、このような日常の生活シーンでの車の利用体験にはなりません。
しかし32時間あれば試乗車で家に戻り、自宅周辺で運転ができます。また家の車庫やマンションの駐車場の出し入れも試せます。車の幅は問題ないか、うまくバックで入れられるかも確かめられます。また、車庫や駐車場に停めた BMW MINI を見て所有者になった気分も味わえます。
32時間ということは、例えば土曜の午前中の10時に借りれば、最大で翌日の日曜の夜6時まです。土曜日の半日と日曜の夜までなので1日半の試乗ができます。数十分程度の販売店の周囲だけの試乗とは体験できることが全く違います。
サービス開始前の懸念
BMW の MINI が32時間の試乗サービスを始める前は、反対の声も社内であったとのことです。
以下は先ほどと同じ日経からの引用です。
長時間の試乗サービスの構想は以前からあったものの、レンタカー代わりに使われるだけで、購入にはつながらないのでないかという懸念があった。
しかし実際は顧客の車に対する深い理解につながり 「通常の試乗をした顧客に比べて購入率は高い」 (同社の MINI ディビジョンの山口智之営業部長) 。
引用: 日経 2021.7.2
利用者の声に見るブランド化
引用の最後にあったように、32時間の試乗サービスはやってみれば利用者の評価は上々のようです。
以下は、32時間試乗サービスのキャンペーンサイトに掲載されていた試乗体験者の声です。
- 一般道、渋滞路、高速道路など、色々なシチュエーションで試乗することで MINI の性能を体感でき、MINI の理解が深まった。
- 後部座席の乗り心地、エンジン音、夜に運転した感じなど、短時間の試乗では体感できないことを知ることができて良かったです。
- 実際荷物を積み降ろししたり、駐車場でのサイズ感を確認できたり、ディーゼルの走りや経済性などもよくわかりました。
- 普段の生活やよく通る道で試乗ができよかったです。翌朝、自宅駐車場の MINI を見て、まるで所有しているような気分になりました。
- 32時間乗れたので、夜じゃないと気づけない、サイドミラーの下から MINI ロゴのスポットライトが出るなどの細かい良さに出会えた。
引用: BMW MINI
32時間限定で、それもまだ買って所有者になったわけでもないのに、BMW MINI での体験から理解が深まりました。さらには、愛着や疑似所有からの誇りのような気持ちが生まれています。
これがまさにブランド化です。
こうした体験が感情移入を起こし、BMW MINI の価値イメージが購入検討者の頭の中に刻まれ、BMW MINI は他とは差異化されたブランドになっていくのです (体験 → 感情移入 → 価値イメージ形成 → ブランド化) 。
32時間試乗サービスから学べること
では、今回ご紹介した BMW MINI の32時間試乗サービスからどんなことが学べるでしょうか?
次のような問いかけを、自分たちにしてみるといいです。
✓ 学べること (自分たちへの問いかけ)
- 使ってもらえれば良さがわかることを、無料で試してもらう機会を提供できないか
- 無料体験は、売り手 (提供者側) の都合だけで時間や利用範囲を狭めてしまっていないか
- お客の利用シーンをなるべく再現するためには、どんな 「試供品」 とすればいいか
今回は自動車というモノの試乗サービスの事例でしたが、モノだけではなくアプリや Web などのサービスにも当てはまります。
試供品やサンプル品とは、提供したいユーザー体験の無料版です。体験の入口設計をうまくできれば、その商品やサービスの良さが伝わります。そこから買ってもらえ、良いユーザー体験の積み重ねの先にファンになってもらえることにつながります。
たかが試供品、されど試供品です。
まとめ
今回は BMW MINI の32時間試乗サービスを取り上げ、マーケティングや販売に学べることを掘り下げました。
最後にまとめです。
BMW MINI の32時間試乗サービス
- 一般的には試乗サービスの時間は数十分程度。運転できる範囲は自動車販売店の周りに限定される
- 32時間あれば試乗車で家に戻り自宅周辺で運転ができる。車庫・駐車場の出し入れも試せ、停めた BMW MINI を見て所有者になった気分も味わえる
- 利用者からも好評で、車への深い理解につながり通常の試乗をした顧客に比べて購入率は高い
32時間試乗サービスから学べること
- 試乗サービスとは試供品やサンプル品と同じ。試供品とは、提供したいユーザー体験の無料版
- 体験の入口設計をうまくできれば商品やサービスの良さが伝わる
- 試供品が良ければ買ってもらえ、良いユーザー体験の積み重ねの先にファンになってもらえることにつながる
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