投稿日 2021/09/06

SDGs なボールペン 「スーパーグリップ G オーシャンプラスチック」 のヒット理由を、マーケティング視点で解説


今回はヒット商品を取り上げ、ヒットの秘密をマーケティングの視点で解説しています。

✓ この記事でわかること
  • SDGs なボールペン 「スーパーグリップ G オーシャンプラスチック」
  • マーケティング視点でのヒット理由分析
  • ① 二階建ての 「選ばれる理由」
  • ② 買いにくさを出さない価格設定
  • ③ 他社には真似されにくい価値の実現理由

この記事を読んでいただきたいと思うのは、マーケターの方です。特に商品コンセプトなどの商品・サービス開発に携わっている方です。他社のヒット商品から、自社のマーケティングや商品開発のヒントになればと思います。

またマーケティングに直接関わっていない方にも、ヒット商品を理由を知りたいと思った方には何か少しでも参考になればうれしいです。

スーパーグリップ G オーシャンプラスチック


今回取り上げるのはパイロットの油性ボールペンです。名前は スーパーグリップ G オーシャンプラスチック です。


特徴を一言で言うと、ボールペンの素材に海洋プラスチックごみを使っています。

海洋プラスチックとは、海に流れ込んでしまったペットボトルや包装容器などのプラスチックごみです。回収したプラスチックごみをリサイクルし、ボールペンの素材に再利用しています (ニュースリリースはこちら) 。

スーパーグリップ G オーシャンプラスチックを紹介した日経の記事には、次のように書かれています。

パイロットコーポレーションは2020年12月、海洋プラスチックごみ由来の樹脂を使ったボールペン 「スーパーグリップ G オーシャンプラスチック」 を発売した。

処分のあてがないごみをペンに再生させる取り組みだ。環境対応に取り組む企業からの法人注文のほか、個人の消費者からも人気を集めている。

マーケティング視点でのヒット理由



ではここからは、スーパーグリップ G オーシャンプラスチックがヒットした理由を掘り下げてみます。次の3つです。

✓ マーケティング視点でのヒット理由
  • 二階建ての 「選ばれる理由」
  • 買いにくさを出さない価格設定
  • 他社に真似されにくい価値の実現理由

では順番に見ていきましょう。

二階建ての 「選ばれる理由」


そもそもの話になりますが、マーケティングとは何かです。

これは私の一言の定義で、マーケティングとは 「顧客から選ばれる理由をつくる活動全般」 です。選ばれるとはお客さんに買ってもらえたり、使ってもらえることです。

選ばれる理由は、二階建てのように捉えると良いです。

✓ 二階建ての 「選ばれる理由」
  • 一階: 最低限で満たすべき基本的な要素。ボールペンで言えばペンとしての使いやすさ
  • 二階: プラスアルファでの付加価値

二階部分の 「付加価値」 をスーパーグリップ G オーシャンプラスチックに当てはめれば、海洋プラスチックごみを再利用したエコな商品であることです。今っぽい表現をすれば SDGs なボールペンです。

また海のイメージに合わせた淡いブルーのデザインも好評の理由です。


選ばれる理由の一階は基本的な性能なので他社のボールペンと大きく差はつけにくいですが、二階部分で独自性を出せれば比較優位にできます。

買いにくさを出さない価格設定


ヒットした要因で2つ目の理由だと考えるのが、価格設定です。

スーパーグリップ G オーシャンプラスチックは、スーパーグリップ G の他のシリーズと同じ価格で110円です。

通常、エコの要素が入っている製品は原材料が異なったり製造工程に工夫がいるため、コストが高くなりがちです。その分がエコ商品の値段が、エコではない商品より高くなります。

しかしスーパーグリップ G オーシャンプラスチックは、同シリーズの中で同じ110円で価格です。

この価格設定はうまいと思っていて、消費者が 「エコで良いけど普通のより高いから買うのはやめよう」 と思ってしまうような買いにくさをなくしています。購買への心理的ハードルを下げているわけです。

他社には真似されにくい価値の実現理由


3つ目のヒット理由です。

スーパーグリップ G オーシャンプラスチックの独自化要素 (比較優位) は、商品名にも入っている通り 「海洋プラスチックごみを再利用して素材に使っていること」 です。

ここで考えたいのは、このアプローチは他社がすぐに真似できてしまうかです。というのは、もし他でも簡単にできればすぐに類似商品が発売され、他社との差別化がなくなってしまいます。

私は、次の2つの理由から他社には簡単に真似されにくいと考えます。先ほど引用した日経の記事からですが、

✓ 真似されにくい価値の実現理由
  • テラサイクル社との協業
  • 海洋プラスチックごみの最適配分の技術

それぞれを補足しますね。

1つ目の 「テラサイクル社との協業」 は、テラサイクルジャパンが日本で回収したプラスチックごみを使用しています。プラスチックごみという 「原材料」 を調達する外部パートナーがいることが独自化の源泉の1つになっています。

2つ目の 「海洋プラスチックごみの最適配分の技術」 についてです。

海洋プラスチックは海に流れ込んだごみで、海水や日光にさらされています。原料としての品質は良くはなく、問題はさらされ状況が様々なので品質にバラツキがあります。これが意味するのは、原料の品質にバラツキがあるのに、製造するボールペンの品質は一定にしなければいけない難しさです。

パイロット社は、材料を最適に配合できる独自ノウハウを試行錯誤を重ねて確立しました。ここは、他社は簡単には真似できないことです。少なくともやろうとすれば時間がかかります。

以上からスーパーグリップ G オーシャンプラスチックは類似商品が出にくく、SDGs なボールペンという独自のポジションに居続けられます。


まとめ


今回は、海洋プラスチックごみを再利用した素材が使われている 「スーパーグリップ G オーシャンプラスチック」 を取り上げ、ヒット理由をマーケティングの視点で掘り下げました。

最後にまとめです。

スーパーグリップ G オーシャンプラスチック
  • ボールペンの素材に海洋プラスチックごみを使っている
  • 海洋プラスチックは、海に流れ込んでしまったペットボトルや包装容器などのプラスチックごみ。処分のあてがないごみをペンに再生させる取り組み
  • 環境対応に取り組む企業からの法人注文に加えて、個人の消費者からも人気を集めている

マーケティング視点でのヒット理由
  • 二階建ての 「選ばれる理由」 。二階部分のプラスアルファでの付加価値として、エコな商品、SDGs なボールペン。海のイメージに合わせた淡いブルーのデザイン
  • 買いにくさを出さない価格設定。同シリーズで110円と同じ値段
  • 他社に真似されにくい価値の実現理由。テラサイクル社との協業、海洋プラスチックごみの最適配分の技術は、他社は簡単には真似できない


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。