今回は、小売の世界最大手の Walmart (ウォルマート) を取り上げます。Walmart DSP をローンチしたニュースからです。
✓ この記事でわかること
- Walmart DSP とは
- ウォルマートの狙い3つ
- 日本での似た事例
- 今後の課題
この記事を読んでいただきたいと思うのは、小売のビジネスに関わっている方です。他にはマーケティングの仕事をされていて、特に広告を担当している方です。
世界最大手の小売ウォルマートの先進的な事例と、その狙いをビジネスモデルの観点から解説していくので、自社のビジネスモデルやマーケティングを考えるヒントになればうれしいです。
Walmart DSP とは
2021年8月25日に、ウォルマートが 「Walmart DSP」 を発表しました (公式サイトはこちら) 。
Walmart DSP とは、広告主がウォルマートのデータを活用し、ウォルマート経由で広告配信ができるサービスです。
ポイントは 「活用できるデータ」 と 「広告配信先」 で、具体的には次の通りです。
✓ 活用するデータ
- ウォルマートの店頭と EC での購買データ
- 会員情報 (性別や年代など)
- ウォルマートの EC サイトやアプリの利用情報
✓ 広告配信先
- ウォルマートの EC サイトやアプリ
- ウォルマートの店頭でのデジタルサイネージ
- ウォルマートが提携している外部サイトの広告枠
Walmart DSP については、こちらの DIAMOND Chain Store の記事 (日本語) で取り上げられています。
ウォルマートの狙い
では、 Walmart DSP をローンチしたウォルマートの狙いを掘り下げてみます。
ビジネスモデルの観点から大きく3つです。
✓ ウォルマートの狙い
- 自社データのマネタイズ
- 店舗の広告メディア化
- ビジネスモデルの拡張
では順番に見ていきましょう。
自社データのマネタイズ
1つ目の狙いは、ウォルマートが持っている購買データをマネタイズ (収益化) する狙いです。
購買データの活用は、これまでもウォルマート内ではしてはいたはずですが、購買データをより積極的に活用するのが Walmart DSP です。活用してもらう相手が広告主で、Walmart DSP はウォルマートへの来店客の実際の購買データに基づいて広告配信ができる仕組みです。
ここに価値を見出すから、メーカーなどの広告主はウォルマートに広告出稿料を払うわけです。購買データという自社データのマネタイズが Walmart DSP の1つ目の意味合いです。
店舗の広告メディア化
2つ目の狙いは 「店舗の役割の再定義」 です。
お店の中にはデジタルサイネージがありますが、これを広告配信枠として活用します。ウォルマート全体でサイネージを束ね、他にはウェブサイトやアプリも含めて広告プラットフォームを構築します。
店舗の役割再定義とは、店頭の位置付けを商品を売る場としてだけではなく、来店客に有益な情報を届ける 「店舗の広告メディア化」 です。店舗をテレビや新聞・雑誌、ウェブサイトのような情報提供の場所 (メディア) と捉えるわけです。
ビジネスモデルの拡張
3つ目の Walmart DSP 狙いはビジネスモデルの観点からです。
Walmart DSP によって、ウォルマートはお客に食料品や日用品を売るビジネスから、広告メディア媒体と広告代理店という領域にビジネス範囲に広げます。
広告メディアとは、先ほど見たように自社 EC ・アプリ・店頭サイネージ・外部サイトを1つに束ねて広告表示の媒体面として扱い収益を得ます。
また、広告配信の知見がたまれば、例えば購買データを使った他ではできない広告ターゲティング構築 (例: 競合商品を買った人たち) 、魅力的なクリエイティブ制作 (動画広告) 、広告のコンサルティングまでの広告代理店としてのビジネスも狙っています。
日本での似た事例
ウォルマートの Walmart DSP と同様の事例は日本にもあります。
例えば 「ツルハ AD プラットフォーム」 で、Walmart DSP と同じスキームです。ドラッグストアのツルハが、ベンチャーのアドインテと協業で展開しています (ニュースリリースはこちら) 。
解説記事が日経クロストレンドにあります。
また他の事例では、サイバーエージェントと NTT コミュニケーションズが業務提携をし、小売の DX を支援する取り組みを発表しました (ニュースリリースはこちら) 。この中にも Walmart DSP と似た構想が入っています。
今後の課題
Walmart DSP や日本での同様の事例について、最後に今後の課題を整理しておきます。
大きくは3つです。
✓ 今後の課題
- 消費者からの信頼構築
- 広告配信枠の量と質
- 広告主と消費者への価値提供
消費者からの信頼構築
1つ目はデータを活用することへの消費者からの信頼構築です。
消費者にとっては、自分が買った商品情報、EC サイトやアプリの利用履歴が使われるのは、人によっては抵抗感があるでしょう。
こうした消費者心理を解消できるかです。個人が特定されない仕組みにすることはもちろん、わかりやすく丁寧な説明から一人ひとりに利用許諾を取り、利用目的と範囲、実際の利用状況を開示して、消費者の信頼獲得が課題です。
広告配信枠の量と質
量と質も課題です。量とは、他の広告プラットフォームと比べて、Walmart DSP を経由してどれだけ広く広告を配信できるかです。
確かに最大手のウォールマートの店舗のサイネージは、量としては少なくはないです。ウォルマートの店舗数は約 4700 店で、これは9割のアメリカ国民の半径10マイル (16km) 圏内にウォルマートの店舗が1店はある規模です。
この規模での店舗内に設置されたサイネージ、ウォルマートの EC サイトとアプリに加えて外部の配信提携サイト、つまり Walmart DSP に接続された広告配信面をどれだけ増やせるかが量の課題です。
量の拡大とともに広告枠としての質も課題です。広告主にとって広告効果が得られることです。
具体的には、広告を見た人が広告の商品やサービスの知ってもらえる認知、興味を喚起させる効果です。さらにウォルマートへの来店意向が高まり、商品・サービスへの購入意向の向上につなげられるかです。要は広告から売上が上がるかという広告効果への課題です。
広告主と消費者への価値提供
1つ目と2つ目の課題から、結局のところは Walmart DSP が広告主と消費者にどれだけの価値を提供できるかです。
広告主には広告費を払って得られるリターンがそれ以上にあるか、消費者には店頭での買い物でふと目にする店頭サイネージ情報が有益かどうか、普段使っているウォルマートの EC サイトやアプリに自然と自分に合った広告情報が出てきて、役に立つことです。
Walmart DSP が広告主と消費者への価値提供につながるかが一番の課題です。
まとめ
今回は Walmart DSP を取り上げ、ウォルマートの狙い、今後の課題を見てきました。
最後にまとめです。
Walmart DSP
- 広告主がウォルマートの購買データ等を活用し、ウォルマート経由で店頭サイネージや EC サイト・アプリ・外部サイトに広告配信ができるサービス
- ウォルマートの狙いは3つで、① 自社データのマネタイズ, ② 店舗の広告メディア化, ③ ビジネスモデルの拡張 (広告メディアと広告代理店)
今後の課題
- 利用目的と範囲を開示し消費者からの信頼構築
- 広告配信枠の量の拡大、広告効果の質の向上
- 広告主と消費者への価値提供。広告主にとっては売上増への費用対効果があり、消費者へは Walmart DSP からの情報が有益であること
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