投稿日 2022/01/26

mirume の緑茶 「朝ボトル」 がおもしろい。1日に1本も売れない状況からの成功ストーリー

出典: mirume

今回は2つのテーマで、マーケティングと新しい挑戦についてです。

✓ この記事でわかること
  • 日本茶カフェ mirume の 「緑茶専用の朝ボトル」 とは?
  • お店の売上を1.8倍にした成功要因を、マーケティング視点で解説
  • mirume の朝ボトルに学ぶ新しい挑戦への心構え

おもしろいと思った商品を取り上げ、成功ストーリーをマーケティングの観点から掘り下げています。

さらにマーケティング以外にも学べることとして、新しいチャレンジへの姿勢をご紹介します。よかったら最後までぜひ読んでみてください。

緑茶専用の朝ボトル


今回の背景は、こちらの記事を読んだからです。

緑茶の 「朝ボトル」 を販売して、なぜ売り上げが1.8倍になったのか|ITmedia

この記事では、名古屋市西区の日本茶カフェ 「mirume (みるめ) 深緑茶房」 が、コロナ禍のさなかに始めた新サービス 「朝ボトル」 を紹介しています。

出典: mirume

朝ボトルとは


mirume のお店で茶葉が入った緑茶の朝ボトルを買い、飲み終えたらそのまま店頭の指定場所へ返すだけというものです。朝ボトルをきっかけに固定客が付き、売上が倍増したとのことです。

朝ボトルはガラス製のボトルで、容量は 300ml です。水出し緑茶で、ボトルの中に茶葉が入った状態で売られています。1度飲み終わっても、自分で水を注ぎ足せば3煎目まで飲めるようです。

出典: mirume

朝ボトルの価格は1本300円です。3回分なので 900mlと換算すれば、コンビニや自販機で売られている1本150円の 500ml のペットボトルのお茶の2本分くらいの金額感です。

売れなくてもあきらめずに続けた


先ほどの記事のタイトルには 「お店の売上を1.8倍にした」 とありましたが、朝ボトルを始めた当初は全く売れない日もあったそうです。

同じ記事からの引用です。

毎朝20本ほど用意したものの、1日1本も売れなかったことも。

そんな日が1カ月以上も続いたので、「ダメだな。もうやめようか」 という気持ちになってもおかしくなかったのに、松本さんはあきらめなかった。「お茶のファンを増やすというよりも、日常の飲み物として定着させたかった」 という熱い思いもあって、粘りに粘った。そうすると、少しずつ売れ始めたのだ。

店の前を歩くビジネスパーソンが買って、それをオフィスで飲む。珍しいボトルを目にした同僚から 「それなに?どこで買ったの?」 といった質問がでてきて、「じゃあ、ワタシも買う」 「オレもオレも」 といった流れで広がっていったのだ。こうした口コミによって、ボトルを手にする人が増えていき、1カ月半後には完売する日がでてきたのだ。

返却が 「ついで買い」 を促す


朝ボトルは1本300円、1日限定20本なので、完売しても売上は6000円です。

朝ボトルがお店全体の売上を2倍近くまで伸ばしたのは、返却が 「ついで買い」 を促したからです。

ボトルの返却は、店舗外のカウンターに設置されている穴に挿すだけでいいが、その際に "ついで買い" がうまれたのだ。

出勤前の朝は忙しいので、ボトルだけ購入する。しかし、返却時は時間があるので、店内で販売しているスイーツなどを購入する人が増えていったのだ。
朝ボトルの返却コーナー (出典: mirume)

ボトルを返却するという仕組みが、朝と夕方以降の、1日2回の来店機会をつくったわけです。利用者の来店機会が増え、店内の商品を購入することにつながりました。

新しいビジネスチャンスが生まれる


朝ボトルは、さらに好循環を起こしました。

以下は日経クロストレンドの記事からの引用です。

固定客が付いた 「朝ボトル」 だが、利用者の中には同じ会社に勤めている人たちが各自で購入していたり、同僚の分をまとめて買っていく人がいることも分かってきたという。

そこで mirume では、一定数以上の注文があれば毎朝、オフィスに 「朝ボトル」 を届けるサービスも手掛けるようになった。ところが、このサービスは 「想定外の方向に発展した」 と松本店長。「mirume からボトルを購入するので、茶葉だけ届けてほしい」 という声が出はじめたのだ。

もちろん、茶葉を販売するだけでも mirume としては十分に利益を出せる。店舗スタッフがボトルを洗う作業もなくなるので、この申し出を断る理由はない。「緑茶ボトルの店頭販売が、毎朝、茶葉を届けるサービスに発展した」 (松本店長) 

オフィスに茶葉を定期的に届けるというサブスクビジネスが、生まれたのです。


朝ボトルの成功ストーリー


では、一度ここまでのまとめとして、朝ボトルがもたらした効果を整理してみましょう。

売上を分解した要素である次の5つで効果がありました。

✓ 朝ボトルの効果
  • 新規顧客の獲得
  • 来店頻度の向上
  • ロイヤル顧客の獲得
  • 購入点数の増加
  • 商品単価アップ

それぞれを補足すると、

✓ 朝ボトルの効果 (詳細) 
  • 新規顧客の獲得。認知や興味関心を呼んだ
  • 来店頻度の向上。1日2回で定期的に来てくれる
  • ロイヤル顧客の獲得。来店が習慣になりお得意さんに
  • 購入点数の増加。返却だけで終わらず 「ついで買い」 で他の商品も買ってもらえる (クロスセル) 
  • 商品単価アップ。朝ボトルは300円だが、ついで買いの商品はそれよりも高い商品も買われる

一般的に、売上は 「客数」 と 「客単価」 に分けることができ、さらにそれぞれは次のように分解できます。

客数 = 新規客 + 既存客
客単価 = 来店頻度 × 1回来店あたり購入点数 × 1個あたり商品単価

よって、

売上 = (新規客 + 既存客) × 来店頻度 × 1回来店あたり購入点数 × 1個あたり商品単価

以上の全てにおいて、朝ボトルは貢献しているのです。


後から点と点がつながる


とはいえ、ここまで見てきた朝ボトルからの売上増への好循環は、始めから描き狙ってやったわけではありません。

むしろ逆で、朝ボトルを続けてきて振り返ってみれば、客数の増加と客単価の向上に貢献したのです。後から点と点がつながるようにです。

成功したのは、当初は全く売れなくても諦めずに粘りに粘ったからこそです。新しい挑戦がすぐにうまくいかなくても、やり抜いたことが成功を生みました。


新しい挑戦への心構え


mirume の朝ボトルにはマーケティング以外にも、新しく何かを始める、チャレンジする時への学びがあります。

朝ボトルは失敗はせずに成功をしましたが、最後に共有したい新しいチャレンジへのマインドセットとして、次のような姿勢を持っておくと良いです。

✓ 新しい挑戦への心構え
  • 新しいチャレンジは失敗する前提で始める (チャレンジ度合いが大きいほど失敗する)
  • 失敗は起こった後が大事。リカバリーと原因究明、教訓を得る
  • 失敗からの学びを次の挑戦に活かす。知識は使ってこそ価値になる


まとめ


今回は日本茶カフェ mirume の朝ボトルから、マーケティングと新しいチャレンジへの学びを見てきました。

最後にまとめです。

朝ボトルの効果
  • 新規顧客の獲得。認知や興味関心を呼んだ
  • 来店頻度の向上。1日2回で定期的に来てくれる
  • ロイヤル顧客の獲得。来店が習慣になりお得意さんに
  • 購入点数の増加。返却だけで終わらずついで買いで他の商品も買ってもらえる (クロスセル) 
  • 商品単価アップ。朝ボトルは300円だが、ついで買いの商品はそれよりも高い商品も買われる

新しい挑戦への心構え
  • 新しいチャレンジは失敗する前提で始める。チャレンジ度合いが大きいほど失敗する
  • 失敗は起こった後が大事。リカバリーと原因究明、教訓を得る
  • 失敗からの学びを次の挑戦に活かす。知識は使ってこそ価値になる


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。