投稿日 2022/01/24

吉野家の DX 論に学ぶ、DX の本質と実現方法

出典: 吉野家

今回のテーマは、DX (デジタルトランスフォーメーション) です。

✓ この記事でわかること
  • 吉野家の DX 論と、具体的な取り組み
  • DX の本質とは?
  • DX 化の前提と目的の重要性
  • 目的を見失わずに DX を実現する方法

おもしろいと思った吉野家の DX の捉え方と、具体的な取り組みをご紹介します。

吉野家から学べることとして、DX の本質、DX の実現方法、そして大局観の鍛え方を掘り下げます。

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

吉野家の DX


今回の背景は、吉野家についての記事を読んでのことです。

吉野家・伊東常務の DX 論 - 若手はカネや社内規定を気にするな|日経クロストレンド

記事には吉野家の DX への考え方、具体的にどんな DX をしているのかが興味深く書かれていました。

以下は記事から抜粋しての引用です。DX として取り組んでいる料理へのオーダーの話です。

もう1つ、めちゃくちゃ成功しているのはモバイルオーダーです。お客様を待たせる時間を減らせる、オーダーを取る時間を減らせる。来店してすぐ商品を渡せるので店に渋滞がなくなり、回転数が上がるという理屈です。

また、テークアウトが増えたことにより、商品を提供するまでの時間が長くなってしまいました。そこで、吉野家の歴史上やったことが1回もなかったのですが、全店24時間365日、オーダーごとの提供時間 (オーダーを受けてから調理完了まで、あるいはオーダーから会計まで) を1時間単位の平均提供時間リポートとして可視化することにしました。

店長、エリアマネージャー、営業部長などが簡単にデータにアクセスできるため、数値を基にボトルネックの分析や生産性の向上などの改善活動が実行しやすい環境を整えています。

もう1つデジタルの導入で興味深かったのは、調理工程のデジタル計測です。

次に今、着手中なのが牛丼のクオリティーを確保するセンシング技術の実験です。吉野家はチェーン店で、マニュアルオペレーションをやっていますが、どんなに簡単なマニュアルでも、食材が一緒でも、牛丼の味にはばらつきが出ます。

牛丼には数十工程の調理プロセスがありますが、その中で味に決定的な影響を与えるいくつかの工程をピックアップし、それをデジタル計測して数値化することにトライ中です。

そもそも DX とは何か?


あらためてですが、DX とは何でしょうか?

DX の本質


デジタルトランスフォーメーションの Transformation は、日本語訳では 「変革すること」 です。デジタルによって変革を起こすことが DX です。もう少し意訳を入れると、DX とは 「事業や経営のコア領域をデジタル化し、ビジネスモデルを進化させること」 です。

DX の対象を 「事業や経営のコア領域」 と表現したように、何を DX するのかは、その企業ごとのビジネスや戦略という前提によって異なります。

DX 化の前提と目的


吉野家に当てはめてみましょう。

吉野家では、DX としてモバイルオーダーの導入、1オーダーごとの提供時間の可視化、調理工程のデジタル計測と、デジタル化、データ化を進めています。これら全ては、「うまい、やすい、はやい」 の吉野家のビジネスモデルをより良くします。

これがもし 「はやい」 をお客への提供価値として重視していない飲食店ビジネスであれば、吉野家と同じ DX をやってもビジネスモデルの進化にはつながりません。

吉野家では全てにおいて DX を進めているわけではなく、ここをもう少し掘り下げてみましょう。

何が何でもデジタル化ではない


再び記事からの引用です。

ただ、すべてをデジタルにすればいいというわけではないと思います。

僕も現場に行くようにしていて、もっと簡単にできる方法がないかといつも見ていますが、解決方法は紙のほうがいいこともあります。

例えば、すべての従業員に対する通知を店舗にある iPad に届けて、勤務するアルバイトの人に iPad を見てもらうより、掲示板に貼ったほうが周知徹底できることもある。

僕にとっての業務改革はそういうことなんですね。

つまり、DX とはあくまで手段です。どんなビジネスモデルかという前提において、DX の目的を明確にすることが大事なのです。

では、目的を忘れてしまったり、手段の目的化を起こさないためには、どうすればいいのでしょうか?


目的を見失わない DX 実現方法


吉野家からのヒントがあります。「外の目を持つ」 「他を見る」 です。

僕は他の会社から吉野家に来た人間なので、吉野家の中で起きているいろいろなプロセスに対して違和感を持つことができます。中にいる人は、あまり違和感を持ったり、無駄だと思ったりしない。

だけど僕は、デジタルツールで違和感をもっと改善できると考えます。そういうことが DX の本質的なことだと思います。

 (中略)

内部の人間が違和感を持つには、どうすればいいのか

廣澤 違和感は、外から入ってきたから気づきやすいというのは分かります。ですが、中にいる人が気づくようになる方法はありますか。

伊東 それは、「他を見る」 ことですね。他を見て、他との違いを知るしかないでしょう。

例えば吉野家の社員だったら、当然、松屋さんとかすき家さんによく行っていますが、冷凍食品売り場とかコンビニにももっと行ってほしい。他のお店の運営など、いろんなものを見る。それで、「これはうちで使えないかな」 と気づくきっかけをつくる以外はないですね。

インプットがなければなかなか出てこないので、いろいろなものに触れるしかないと思います。

意識して外部に目を向け、その時にちょっとした違和感を見逃さないようにすると良いです。

違和感とは例えば 「なぜこの業界はそれをやっているのか」 や 「自分たちの業界や会社はなぜこれをやっていないのか」 という着眼点です。

視野を広く持つことで大局観を養えます。外の目を持ち、他を見ることによって全体感を持っておけば、木を見て森を見ずにならない、目的を見失わない DX が実現できます。


まとめ


今回は吉野家の DX の捉え方と事例から、目的に立脚した大局観のある DX の実現方法を見てきました。

最後にまとめです。

DX の本質
  • DX とは事業や経営のコア領域をデジタル化し、ビジネスモデルを進化させること
  • 何を DX するのかは、その企業ごとのビジネスや戦略という前提によって異なる
  • DX とはあくまで手段。どんなビジネスモデルかの前提において、DX の目的の明確化が大事

目的を見失わない DX 実現方法
  • 意識して外部に目を向け、違和感を見逃さないようにする
  • 例えば 「なぜこの業界はそれをやっているのか」 や 「自分たちの業界や会社はなぜこれをやっていないのか」 というひっかかり
  • 外の目を持ち、他を見ることで、目的を見失わない DX が実現できる


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。