出典: Sharp
今回は、「マーケティングとは知覚 (パーセプション) をめぐる戦いである」 という話です。
おもしろいと思った補聴器を取り上げ、マーケティングに学べることを解説しています。
✓ この記事でわかること
- シャープのかっこいい補聴器 「メディカルリスニングプラグ」 とは?
- 聴くことへの不 (ペイン)
- マーケティングとはパーセプションをめぐる戦いである
- メディカルリスニングプラグに学べること
よかったら最後までぜひ読んでみてください。
シャープの補聴器 「メディカルリスニングプラグ」
ご紹介したいのは、シャープの補聴器です。名前は 「メディカルリスニングプラグ」 です (商品サイトはこちら) 。
出典: マイナビニュース
特徴はデザインで、ワイヤレスイヤホンのような良い意味で補聴器っぽくなく、黒色が基調でかっこいいデザインです。
以下は、メディカルリスニングプラグを取り上げた日経新聞の記事からの引用です。
シャープが昨年9月に発売したワイヤレスイヤホン型の補聴器 「メディカルリスニングプラグ」 がユニークな存在として気を吐いている。スタイリングから店頭訴求まで、従来のイメージを覆す一気通貫のデザインで、欧米諸国に比べて装着率が低いといわれる国内市場の掘り起こしを狙う。
引き締まった黒を基調とした外観に思わず手が伸びる。最新のワイヤレスイヤホンと思いきや、説明を受けるまで補聴器とは気づかなかった。耳に装着するとデジタルガジェットのようで格好いい。
ベージュ色のイメージが根強い従来の補聴器とは一線を画すスタイリッシュなデザイン。そんな姿形が、40 ~ 50代のビジネスパーソンを中心に 「ポジティブに使ってみたい」 という意識を促す。
メディカルリスニングプラグの紹介動画もつけておきますね。
一般的な補聴器の値段は両耳で30万円、一方のメディカルリスニングプラグは税込で10万円超です (税抜き 99,800円) 。
聴くことへの不
メディカルリスニングプラグの開発の狙いは、仕事などで相手の話や声を聞きにくいことを、なんとかしたいという思いがありました。
先ほどの日経の記事からの引用すると、
ビジネスシーンを想定したのは、「聞こえる」 ことの価値を強く実感してもらえると考えたからだ。デザインとマーケティング部門が共同で行った調査で判明したのは、「仕事のなかで突然聞こえなくなるという状況がとても深刻だということ」 (菊池氏) 。
また、補聴器への課題感として、従来の補聴器には見た目からも使うことへの抵抗感がありました。
同時にこだわったのが補聴器に見えない外観作り。聞こえづらさを感じている人が多いにもかかわらず、利用が増えない要因のひとつに見た目の格好悪さがある。それが結果として補聴器を装着することへの抵抗感を生んでいた。
デザインでそうしたネガティブな要因を払拭できれば装着率は上がり、利用者の裾野を広げることができるのではないか。そこで開発陣は、日常的に利用が広がるワイヤレスイヤホンスタイルのデザインの採用を決断する。
今までにない見た目と体験のデザイン
メディカルリスニングプラグは黒色のクールなデザインです。見た目のかっこよさだけではなく耳へのフィット感にもこだわっています。
出典: Sharp
パッケージデザインも工夫が施されています。
黒を基調にキーカラーにオレンジが入ったパッケージで、本棚への収まり具合などを意識して新書と同サイズになっています。隠すのではなくあえて見せるデザインにし、補聴器へのポジティブな商品イメージを打ち出しています。
充電ケースのデザインにも反映され、スライド式の USB 端子を内蔵しパソコンにつなげて充電をする時も、ビジネスシーンで映えるデザインに仕上がっています。
ビジネスシーンや、プライベートでも補聴器をどう使うかの様々な体験を想定し、それらに合うようデザインが施されています。
パーセプションの書き換え
メディカルリスニングプラグをマーケティングの観点で捉えると、本質は 「見た目と体験のデザインを新しくし、人々の補聴器への価値認識 (パーセプション) を書き換えること」 にあります。
従来の補聴器は一般的にはベージュ色で、いかにも補聴器という見た目です。補聴器を積極的に使いたいとは思いにくく、利用への足かせになっていました。
一方のメディカルリスニングプラグは、ワイヤレスイヤホンのように 「これなら普段から使いたい」 と思わせる印象的なデザインです。さらに見た目だけではなく、購入から利用までの体験全体も日常での具体的なシーンを想定してデザインが丁寧にされています。
メディカルリスニングプラグは、補聴器への価値認識を新しいものに変えにいく意欲的な商品なのです。
「マーケティングとはパーセプションをめぐる戦いである」
売れるもマーケ 当たるもマーケ - マーケティング 22 の法則 という本に書かれていて印象的だったことが、今回の話につながります。
次のような言葉です。
Marketing is not a battle of products, it's a battle of perceptions.
マーケティングは商品の戦いではなく、パーセプション (知覚) をめぐる戦いである。
今回のメディカルリスニングプラグの事例はまさにこれです。
補聴器のイメージをデザインで変え、仕事やプライベートでも普段から使いたいと思えるものに仕上がっています。
もちろんワイヤレスイヤホンのような形なので、メディカルリスニングプラグが補聴器だと知らない人は、会議中にイヤホンをつけていることに最初は違和感を抱くこともあるでしょう。また、今のメディカルリスニングプラグは男性が好む印象なので、女性にとっては従来の補聴器のほうがいいと思うかもしれません。
あらゆるシーンや、女性も含めた全ての聞き取りにくい人に完璧に適しているわけではないでしょう。しかし、メディカルリスニングプラグは、人々の補聴器への価値イメージを変えようとしていることには注目に値し、今回の事例には 「マーケティングとはパーセプションをめぐる戦いである」 に勝利するヒントがあります。
まとめ
今回はシャープの補聴器を取り上げ、マーケティングに学べることを見てきました。
最後にまとめです。
メディカルリスニングプラグのデザイン
- ワイヤレスイヤホンのような良い意味で補聴器っぽくなく、黒色が基調でかっこいいデザイン
- 従来の補聴器のネガティブな要因を払拭し、利用者の裾野を広げることを狙う商品
マーケティングと価値認識
- マーケティングとはパーセプションをめぐる戦いである
- メディカルリスニングプラグは、見た目と体験のデザインを新しくし、人々の補聴器への価値認識 (パーセプション) を書き換える
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