今回のテーマは、組織の多様性とイノベーションです。
✓ この記事でわかること
- アフリカのことわざ
- 組織の多様性とは?
- なぜ多様性が重要なのか
- イノベーションの本質から考える組織の多様性
- イノベーションを起こす組織をつくる方法
よかったら最後までぜひ読んでみてください。
アフリカのことわざ
最初にご紹介したいのは、アフリカのことわざです。
If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together. 日本語にすれば、「早く行きたければ1人で進め、遠くまで行きたければ皆で進め」 。
これはビジネスにも示唆があります。
早く行きたければ1人で進め
ことわざの前半の 「早く行きたければ1人で進め」 をビジネスに当てはめてみましょう。
他人にこの仕事を振るよりも、自分がやってしまったほうが早いと思ったことはないでしょうか?特に管理職やリーダーの方であれば思い当たることがあるのではと思います。
これは短期的にという意味では真実でしょう。経験のある自分が対応したほうが、他の人、とりわけまだ実務経験の浅い若手や新しく来た人にやってもらうよりも、早くかつ高い成果が出せます。
遠くまで行きたければ皆で進め
一方で、ことわざの後半にある 「遠くまで行きたければ皆で進め」 が今回の記事で掘り下げていきたいことです。
自分1人でできる仕事には限界があります。今は自分の時間でなんとかやりくりができたとしても、いずれは頭打ちになるでしょう。ここからさらに 「遠くへ」 、つまりはメンバーで協力し相乗効果を発揮して成し遂げるためには、「皆で進め」 なのです。
ここで立ち止まって考えたいのが、皆で進むという 「皆で」 の意味合いです。これは私の解釈にはなりますが、どんな 「皆」 でも良いわけではなく、多様である組織こそ遠くまで行けると考えます。
組織の多様性
次に考えたいのが、そもそもの 「多様性のある組織」 とはどういう組織なのかです。
5つの多様性
結論から先に言うと、年齢や性別などの表面的な属性ではなく、次の5つの多様性がある組織のことです。
✓ 組織の多様性とは
- 感性や思考の多様性
- 発言の多様性
- 実践の多様性
- 失敗の多様性
- 人脈の多様性
補足
それぞれについて順番に補足をしますね。
1つ目の 「感性や思考の多様性」 とは、ものごとや体験への感じ方など、それぞれの感性を持ち合わせた人がいる組織です。感性が様々であれば、視点や切り口、考え方が多様になります。
2つ目の 「発言の多様性」 とは、自分の感性や思考から各自がそれぞれの意見を持っていることです。皆が意見を気兼ねなく自由に言える雰囲気がある組織です。心理的安全性が確保され、違いを認め合うオープンマインドがあります。
3つ目の 「実践の多様性」 は、組織内で出た様々な意見を組み合わせ、色々なパターンで新しいアイデアを実行します。実行のやり方が多様な組織です。
4つ目の 「失敗の多様性」 とは、行動が早かったり中身も様々なので確かに失敗も多いかもしれませが、、多様な失敗からの学びがそれだけ多い組織です。また、1つのやり方で失敗すれば学び、違うやり方ですぐに挑戦します。
5つ目の 「人脈の多様性」 とは、自分 (たち) だけではすぐに解決しないことも、誰に聞けばいいか、誰にサポートが得られるかを組織の誰かがすぐに思いつき、問題解決につなげられる組織です。また、適宜で組織に外部の情報や知恵が入ったり、場合によっては外部の人が組織に新しく加入します。組織が活性化しています。
なぜ多様性が重要なのか
それでは、組織における多様性はなぜ重要なのかを掘り下げていきましょう。
これも結論から言うと、組織が存続するためです。生き残り続けるためと言ってもいいでしょう。
前提として共有をしたいのは、「現状維持は実質的には後退である」 という考え方です。
皆が同じ組織、つまり多様性のない組織では変化を起こすベクトルが弱く、自ずと現状維持になってしまいます。まわりの環境は常に変化をして進んでいるのに、自分たちは止まっていると取り残されます。この状態が続けばギャップは大きくなり、いずれは浦島太郎のようになってしまうわけです。
現状維持を避けるためには、自ら変化を起こすことが必要です。先ほどの5つの多様性があれば組織の中で大小様々な変化が常に起こり、自ら変わるというイノベーションを起こす組織になれると考えます。
なぜ組織の多様性が重要なのかを整理すると、
- 皆が同じという多様性のない組織では変化へのベクトルが弱い
- 変化をしない現状維持は後退であり、いずれは淘汰される
- 多様性があれば組織内で様々な変化が常に起こり、自ら変化をしイノベーションを起こす組織になれる
イノベーションの本質
ここで、イノベーションとはそもそも何かを整理しておきましょう。
一言で定義をするなら、イノベーションとは 「未来の当たり前を創ること」 です。
未来の当たり前とは、裏を返せば今はまだ当たり前になっていない、もしくは存在すらしていないことです。
多くの人は気づいてすらいない (しかし一部の先見性のある人には見えている) 、または知っていても怪しいものだと捉えています。それが革新的であるとは思えず、未来の当たり前になることは多くの人には見えていないわけです。
しかし徐々に普及し世の中の多くの人に受け入れられると、未来ではなくてはならない、あって当たり前の存在になります。なかった昔はそれ無しにどう生活していたかわからないとすら思えます。
例えばインターネットです。かつて昭和までの時代は、インターネットはありませんでした。それでも日常生活や仕事はまわり、社会は成り立っていたわけです。しかし現在、もはやネットなしでの生活は考えられないですよね。ネットは 「未来の当たり前」 になったのです。
イノベーションが起こるのは、まだ多くの人々が思いついていない新しい要素の組み合わせからです。組織でイノベーションを起こすために必要なのは、メンバー各自が組み合わせるための異なるものを持っていることです。すなわち、多様性のある組織です。
イノベーションを起こす阻害要因
世界で最もイノベーティブな組織の作り方 (山口周 / 光文社) という本に、組織とイノベーションについて興味深いことが書かれています。
一般的に、イノベーションを起こすために目が向けられるのは、個人がどう創造性を発揮するかではないでしょうか。
しかし、本書での見立ては違います。日本人は個人としては創造性は豊かであり、ボトルネックは組織だとします。組織が個人の創造力を阻害しているのであって、問うべきはどうやって組織が個々人からのイノベーションを促進するかです。
この本が投げかけるのは、暗黙の前提への問題提起です。個人の創造力が上がれば、1人ひとりの集まりである組織も自ずと創造性を発揮すると考えがちですが、ここに疑問を呈しているのです。
ではなぜ、日本の企業はイノベーションを起こしにくい組織になっているのでしょうか?
本書に書かれているポイントは、次の3つです。
✓ イノベーションが起きにくい構造要因
- イノベーションを推進するのは良い意味での素人、具体的には新参者や若手であることが多い
- 日本人は組織内の目上の人に意見をしたり反論することに心理的ハードルを感じる (他の文化圏よりも相対的に高い)
- シニア層が若手よりも数が多く、シニアの影響が組織内で大きい
イノベーションを起こすためには多様な視点が求められます。長年その組織や業界にいた人の考え方だけではなく、若手や新しい人という 「素人」 の着想も入れて新しいアイデアをつなぎ合わせることがイノベーションには必要なのです。
イノベーションを起こす組織とは?
では、組織でイノベーションを起こすためには、どんな組織がよいのかをもう少し掘り下げてみましょう。
風通しの良いコミュニケーション
イノベーションを起こす組織になるためには、組織文化を変えることです。具体的には、組織の1人ひとりの言動を変え、上下のコミュニケーションの風通しを良くします。
組織の現場メンバーは、マネジメント層や経営層に自分の意見をしっかりと伝えます。マネジメント・経営の人間は、積極的に現場の意見を集めます。
先ほどご紹介した 「世界で最もイノベーティブな組織の作り方」 の本に書かれていて印象的だったのは、「聞き耳のリーダーシップ」 でした。リーダーはメンバーから意見が出るように促し、本音を語ってもらうよう積極的に聞きに行きます。時には耳の痛い内容であっても真摯に耳を傾けるリーダーシップです。
新しい知を創る組織の条件
イノベーションを起こす組織 - 革新的サービス成功の本質 (野中郁次郎, 西原文乃 / 日経 BP) という本に、新しい知を創る組織の条件が書かれています。
新しい知を創る場になるための条件は6つとし、以下は本書からの引用です。
新しい知を創る場にするには、いくつかの条件がある。
① 参加メンバーがその場にコミットしていること。ただ人が集まっただけでは、場はできない。
② その場が、目的をもって自発的にできていること。目的がなかったり、強制されて集まっていたりするのでは、やらされ感があるので、新しい知は創られにくい。
③ メンバー間で、感性、感覚、感情が共有されていること。メンバーそれぞれが持っている暗黙知を解放することで新しい知が創られる。
④ メンバー間の関係のなかで、自分を認識できること。自分が他のメンバーから受け容れられているという安心感や信頼感があることで、暗黙知が解放される。
⑤ 多様な知が存在していること。新しい知を創るには、多様な知が必要となる。同じ知を掛け合わせても同じ知しか出てこない。
⑥ 場の境界は開閉自在で常に動いていること。境界がいつも閉じていると、メンバーだけの知識で閉じてしまうことになり、多様性が失われてしまう。境界を開くことで、多様な知を新たに取り入れることができる。
6つの条件をまとめると、イノベーションを起こす組織の特徴は3つに集約できます。
✓ イノベーションを起こす組織の特徴
- 多様性と心理的安全性
- 主体性とコミット
- 新陳代謝が活発で常に変化が起きている
3つを順番に補足すると、
✓ 多様性と心理的安全性
- メンバーの経験やスキル・専門領域、行動特性が多様。組織に様々な知がある
- お互いに自分の思っていることを気兼ねなく言える。自分が組織に受け入れられていると感じ、組織での自分の居場所があると思える (心理的安全性)
✓ 主体性とコミット
- 組織のメンバーが、目的を持って主体的に動く (やらされ感がない)
- 自分のやることにコミットしている
✓ 新陳代謝が活発で常に変化が起きている
- 組織内で知が常に新しくなっている
- 外部に対して開けているので、新たな知が入ってくる
変化の激しい時代の学び方
それでは最後に、個人のレベルでも変化の激しい時代にどういう姿勢や行動をすればいいかを考えてみましょう。
結論としては、学び続けることです。
ではどうするかですが、ポイントになるのは誰から学ぶかです。先ほどの議論であったのは、イノベーションを推進するのは 「若手」 や 「新参者」 でした。変化の激しい時代には、若者や新しい人、外部の視点から学ぶべきです。
その業界や会社で長年かけて獲得した知見は、変化の大きい環境ではともすると古いやり方で、自分が変われない要因になりかねません。
外部環境の変化についていく、時には外部よりも自分たちが早く変化をするためには、新しい着眼点を能動的に獲得することが大事です。受け身で何も動かずただ待っているだけでは、変化に取り残されます。
自分がその業界や会社で長く同じ役割でいる状況に安住せず、意識して若者や新しい人から学ぶことが、変化の激しい時代に生き残るために必要なのです。
まとめ
今回は、組織の多様性について、イノベーションを起こすという観点から掘り下げました。
最後にまとめです。
組織の多様性とは
- 感性や思考の多様性
- 発言の多様性
- 実践の多様性
- 失敗の多様性
- 人脈の多様性
なぜ組織の多様性が重要なのか
- 皆が同じという多様性のない組織では変化へのベクトルが弱い
- 変化をしない現状維持は後退であり、変わらないままではいずれは淘汰される
- 多様性があれば組織内で様々な変化が生まれ、イノベーションを起こし自ら変わる組織になれる
イノベーションを起こす組織の特徴
- 心理的安全性と多様性: お互いに自分の思っていることを気兼ねなく言え、自分が組織に受け入れられ自分の居場所があると思える (心理的安全性) 。メンバーの経験やスキル、行動に多様性があり、組織に多様な知がある
- 主体性とコミット: 組織のメンバーが目的を持って主体的に動く (やらされ感がない) 。自分のやることにコミットしている
- 新陳代謝が活発で常に変化が起きている: 組織内で知が常に新しくなっている。外部に対して開けているので、新たな知が入ってくる
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