投稿日 2022/04/16

ソニーの穴あきイヤホン 「LinkBuds」 に学ぶマーケターの役割。新しい価値提案からの市場創造

出典: Sony

今回のテーマは、マーケターの役割とは何かです。あるヒット商品から見ていきます。

✓ この記事でわかること
  • ソニーの異色の穴あきイヤホン 「LinkBuds」 
  • 特徴とユーザー体験 (提供価値) 
  • LinkBuds の本質とは?
  • 新しい価値提案からの市場創造
  • マーケターの役割

おもしろいと思ったイヤホンをご紹介し、マーケティングの観点での本質から学べることを解説しています。

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

ソニーの異色の穴あきイヤホン


今回取り上げたいのはソニーのイヤホンで、名前は 「LinkBuds (リンクバッズ) 」 です。

出典: Sony

LinkBuds の特徴


特徴は耳をふさがないイヤホンです。

出典: Sony

イヤホンの中央部分に穴があいていて、周囲の環境音も自然と耳に入ってくるヒアラブル (hearable) イヤホンです。何か別なことをやりながら、ポッドキャストやネットラジオなどの音声配信や音楽を聞ける 「ながら聞き」 に適したイヤホンです。

ユーザー体験


ITmedia に LinkBuds を取り上げた記事があり、記者が実際に使ってみた体験が書かれていました。

ソニーが放つ、異色の "穴あきイヤフォン" 「ヒアラブル機器」 が再ブレイクしそうな理由|ITmedia

以下は記事からの引用です。

筆者が試したところ、最大音圧は十分と感じる。一方で、フルオープンのため周囲がうるさい環境、例えば電車の中や混んだ駅の構内では音圧が不足していると感じるかもしれない。しかしオフィスや自宅の中などであれば問題はないはずだ。

このような仕組みで心配されるのは音漏れだが、図書館のように静かな場所で隣にいれば音が聞こえてくるだろうが、電車などの交通機関はもちろん、ちょっとしたカフェで使うのであれば、周囲の暗騒音にかき消されて誰も気付かないはずだ。

あまり高い音圧が得られないこともあるが、音漏れに関しては本当に静かな環境でなければ問題になることはないだろう。それよりも解放感に満ちた、何時間でも装着していられる感覚を得られることの方が、この製品の場合は重要となる。リング型ドライバとともに重要なのが、軽さと装着時の圧迫感の少なさだ。

LinkBuds の価値


記事に書かれていたことからも整理をすると、価値は次のようになります。

✓ LinkBuds の提供価値
  • 外部音から周囲の様子を把握できる
  • ながら聞きがしやすい
  • 軽い
  • 耳への圧迫感が少なく、長時間でも快適につけていられる


LinkBuds から学べること


ではここまで見てきた LinkBuds について、マーケティングの観点から本質は何かを掘り下げてみましょう。

LinkBuds の本質


結論をいうと、本質は 「新しい価値提案からの市場創造」 です。

従来のイヤホンで主流だったのは、周囲の音をなるべく耳に入らないようにするイヤホンでした。外部の環境音を 「雑音 (ノイズ) 」 とみなし、外部音を排除していました。具体的にはノイズキャンセリングや耳にしっかりフィットする高い遮音性を持つイヤホンです。

一方の LinkBuds は、こうした高遮音性イヤホンとは一線を画します。イヤホンにあえて穴をあけ、外部の音が自然と聞こえる設計になっています。今まで主流だったイヤホンとは、真逆の発想です。

新しい価値提案と地殻変動


LinkBuds は、イヤホン市場に地殻変動を起こしました。

地殻変動とは、その市場やカテゴリーにおける 「良い商品」 への人々の認識や価値観の変化です。

穴あきイヤホンの LinkBuds は、良いイヤホンへの新しい認識として 「周囲の音も自然に聞こえる」 「ながら聞きに使いやすい」 「長い時間でも快適につけていられる」 を加えたわけです。

マーケティングと市場創造


マーケティングの役割は市場創造です。

市場が新しく生まれたり、新しいカテゴリーができるのは、今回の文脈で表現をすれば 「新しい価値が提供された時」 です。

マーケターに求められるのは、人々や企業からの 「これが欲しい」 という明確なニーズに応えることだけではありません。まだはっきりとは自覚をされていない人々の奥にある望みや不満を汲み取り、これがマーケティングで 「顧客インサイト」 と呼ばれるものですが、奥にある本音に応える商品やサービスを提案し、新しい価値を提供します

顧客に価値をもたらし続け、提供価値にお金を払ってでも欲しいと思われれば市場ができます。ここにマーケティングの役割があるのです。


まとめ


今回はソニーの穴あきイヤホン LinkBuds を取り上げ、マーケティングの観点から学べることを見てきました。

最後にまとめです。

LinkBuds の本質
  • 本質は 「新しい価値提案からの市場創造」 
  • 従来の主流イヤホンは、周囲の音をなるべく耳に入らないようにしていた
  • LinkBuds は高遮音性イヤホンとは一線を画す。イヤホンにあえて穴を開け、外部の音が自然と聞こえる設計。今までとは真逆の発想

新しい価値提案と地殻変動
  • LinkBuds は、イヤホン市場に地殻変動を起こした。地殻変動とは、その市場やカテゴリーにおける 「良い商品」 への認識や価値観の変化
  • 良いイヤホンへの新しい認識として 「周囲の音も自然に聞こえる」 「ながら聴きに使いやすい」 「長い時間でも快適につけていられる」 を加えた

マーケターの役割
  • マーケターに求められることは、奥にある本音 (顧客インサイト) に応える商品やサービスを提案し、新しい価値の提供
  • 顧客に価値をもたらし続け、提供価値にお金を払ってでも欲しいと思われれば市場ができる


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。