投稿日 2024/02/05

会員制バーを運営するアサヒビールの顧客理解への本気度

#マーケティング #顧客接点 #顧客インサイト

お客さんの行動の奥にある心理や感情まで、深く理解できているでしょうか?

今回は、アサヒビールのユニークな取り組みをご紹介します。

お客さんの深層心理 (顧客インサイト) に迫るマーケティングの秘訣を、ぜひ一緒に探っていきましょう。

アサヒビール 会員制 Bar



アサヒビールの顧客理解への本気度がすごいです。

定量データではわからない顧客インサイトのために、電通デジタルと 「会員制 Bar」 を開店しました。

ここでは、バーテンダーとお客さんの会話が購入や行動への 「なぜ」 を掘り下げるカギになっています。バーテンダーは会話内容を手書きでノートに書き溜め、お客さんの退店後の LINE やりとりからも顧客理解に努めているとのことです (参考記事) 。

では、アサヒビールの事例をマーケティング視点で紐解いていきましょう。

定量データと定性データのハーモニー


アサヒビールの会員制バーの取り組みは、定量データと定性データを組み合わせて、より深く消費者のことを理解することを目指してのものです。

多くの企業が Web 解析やアンケート、購入データ等の定量データを集める一方で、そのデータの背後にあるお客さんや生活者の気持ちは見過ごされがちです。定量データは確かに重要ですが、定量データからは行動などの表面的な事象は目で見えても、行動に影響を与えた心理、何に価値を見出すかの価値観まではわからず、それだけではお客さんの 「心」 までは届きません。

アサヒビールはこの点を理解し、定量データに加えて定性データを重視しているのです。

お客さんとの対話から探る 「なぜ」 


アサヒビールの会員制バーで注目したいのは、バーテンダーとお客さんとのコミュニケーションです。

お客さんが自然体でいられるこのバーは、アサヒビールにとっても価値のある 「研究調査の場」 です。お客さんとの対話からの 「なぜ」 を掘り下げることで、一般的なアンケートやインタビューでは得られない生の声や感情がこのバーにはあります。

バーテンダーはお客さんとの会話を手書きでノートに残しています。お客さんが何を求め、その奥にはどのようなライフスタイルや価値観があるのかを掘り下げるという狙いがあります。

お客さんが店を出た後も対話は終わっていません。退店後の LINE でのやりとりを通じて、お客さんとのコミュニケーションは続きます。単なるアフターケア以上の意味を持ち、お客さんが新たに気づいた点や感じたことを理解できる、これもまた価値のある定性データです。

こうして1つずつ集まる定性データは、新商品開発や既存商品の改善、マーケティングにつながります。

 「なぜ」 の先にある顧客インサイト


定量データは 「何が起こったのか」 を教えてくれますが、「なぜそれが起こったのか」 までは明らかにしません。たとえば、お客さんが特定の商品を買ったことが販売データからわかったとしても、その背後にあるニーズ、解消したい不満、価値観などの心理は定量データだけでは読み取れません。

アサヒビールの会員制バーの取り組みでは、こうした 「なぜ」 に焦点を当て、お客さんの深層心理である 「顧客インサイト」 に迫ろうとしています。

顧客インサイトとは、お客さんを動かす隠れた気持ちのことです。

別の言い方では 「心のホットボタン」 とも表現し、普段はお客さん本人は気づいていないものの、見せられたりそうだと気付かされ、心のボタンが押されれば、「欲しい」 や 「買いたい」 などと態度が変わり、行動を起こす奥にある心理、これが顧客インサイトです。

顧客インサイトを得るためには、定性的なデータ収集が不可欠です。お客さんとの直接の対話から得られるインサイトは商品開発やマーケティングの肝になります。

顧客関係の構築とリサーチが一体となった場所


商品中心であった時代とは違い、現代のマーケティングは 「お客さんの体験」 に焦点を当てることが多くなっています。アサヒビールのこの会員制バーも、商品を買うという行為自体よりも、そこでしか得られない体験を重視しています。

こうした関係をつくって見出せるのが顧客インサイトです。

アサヒビールの会員制バーは単なる販売店以上の存在となっています。お客さんがバーで楽しむ時間、バーテンダーとの会話、そして退店後のコミュニケーションといった一連の体験がアサヒビールとお客さんとの関係を強固にします。

会員制バーはお客さんとのつながりを深め、マーケティングリサーチが一体となったマーケティングフィールドなのです。


まとめ


今回はアサヒビールの会員制バーを取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • 定量データからは行動などの表面的な事象はわかって、その行動に影響を与えた心理、何に価値を見出すかの価値観まではわからず、定量データだけではお客さんの 「心」 までは行き着かない。定性データも重要になる

  • 顧客インサイトは 「お客さんを動かす隠れた気持ち」 。普段はお客さん本人は気づいていないものの、見せられたりそうだと言われ、心のホットボタンが押されれば、「欲しい」 や 「買いたい」 などと態度が変わり、行動を起こす奥にある心理

  • アサヒビールの会員制バーの取り組みでは、お客さんとの直接のコミュニケーションから 「なぜ」 に焦点を当て、お客さんの深層心理である 「顧客インサイト」 に迫ろうとしている。単なる販売店にとどまらず顧客関係の構築とマーケティングリサーチが一体となった場所


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。