投稿日 2024/02/09

ノヤン先生のマーケティング学。営業とマーケティング、組織連携の極意

#マーケティング #営業 #本

今回は、ある本を読んで考えさせられたことです。


本のタイトルは、ノヤン先生のマーケティング学 (庭山一郎) です。

読んで考えさせられたのテーマは 「企業での営業とマーケティングの組織連携」 でした。

営業チームとマーケティングチームがうまくいっていない状況で起こること、どうすれば営業とマーケで相乗効果をつくれるかを見ていきましょう。

本書の概要


この本では著者の庭山一郎さんが、物知りな鳥のミミズクである 「ノヤン先生」 になり、語り部としてマーケティングの話を幅広く披露してくれます。

テーマは多岐にわたります。STP や SWOT 分析といったマーケティングの代表的な理論やフレームワークの歴史的な発展、展示会やセミナーなどの現場で起こったエピソードや、さらにはマーケティングの視点から見えてくる日本企業の課題や未来展望までが語られます。

1つ1つのチャプターが、ノヤン先生から生徒 (読者) への1つの講義形式となっています。

この本の内容紹介には、”マーケティングの初級者には基礎から奥深いところまで隅々まで学べる 「なるほど!」 を、ベテランの方にはノヤン先生のアカデミックな語り口から生まれる 「そう来たか!」 をお届けする” 、と書かれています。

初級者の方には、マーケティングの基礎や歴史がわかりやすく書かれていて勉強になります。

中級者以上の方にはマーケティングの理論や手法ができた背景、関連する雑学的なウンチク話、あとは BtoB マーケティングの日本での現状と問題が興味深く読めます。出版は2014年ですが、2023年の現在でも BtoB マーケティングの実態や課題感は大きくは変わっていなく、参考になります。


営業部とマーケティング部


読んで考えさせられたのは、企業での営業とマーケティングの課題感や目指す関係性についてでした。

うまく連携していない場合のお互いの言い分


まずはネガティブな状況からです。

2つの部門の連携がうまくいっていなく、なにかと対立している状況では、次のような言い分が見られます。

✓ 営業から見たマーケティング
  • 営業の担当企業相手の名刺を集めて何するつもりなの?
  • 自分の担当顧客に勝手にメールを出さないでほしい
  • こっちの仕事を増やさないでほしい
  • 顧客情報の管理ができてない
  • なんであんな展示会に出展してるの?
  • 営業が稼いだお金を無駄に使い過ぎ
  • 机上の論理や屁理屈ばっかりで営業の現場を何もわかっていない
  • マーケの人たちって毎日何してるの?

✓ マーケティングから見た営業
  • お客さんの名刺を自分の所有物だと勘違いしてコピーを取らせてくれない
  • 担当企業を自分の縄張りのように思い、協力してくれない
  • せっかく展示会などで顧客リストを集めたのに、フォローの連絡をするなど活用してくれない
  • メールやテレアポするのに、なんで事前に営業にいちいち確認しなくちゃいけないの?
  • アポをとったのに訪問結果を共有してくれない
  • 導入事例などのコンテンツ作りやセミナー集客に協力してくれない
  • 既存製品の知識しかなく、新製品を売ろうとしない
  • 顧客企業の中の決まった人としか会わないので、競合に喰い込まれている

企業の中で、営業とマーケティングがうまく連携できているケースは少ないように思います。

要因は、突き詰めると価値観や立場の違いです。お互いに相手の置かれた状況、価値観やモチベーションを理解できないと、良い連携はできないわけです。

では、営業チームとマーケティングチームが良い関係性を築くためには、どうすればいいのでしょうか?

目指したい関係性


営業とマーケティングの理想の関係は、ビジネスを成功させるために協力し合っていることです。それぞれの役割とその本質を理解することが、連携を円滑にする第一歩になります。

営業の役割から順番に見ていきましょう。

営業の役割


営業の役割は製品やサービスを直接顧客に販売し、売上を得ることです。お客さんとの一対一の対話を通じて、お客さんのニーズを理解し、適切な製品やサービスを提供することが求められます。

営業の主なタスクには、お客さん (消費者や流通) との直接的なコミュニケーション、製品やサービスのデモンストレーション、契約の締結などがあります。これらの活動を通じて、営業はビジネスに直接的な収益をもたらします。

マーケティングの役割


一方のマーケティングの役割は、市場のニーズを理解し、製品やサービスの価値を広く伝えることです。

マーケティングは、広告、PR 、市場調査などを通じて製品やサービスの認知度を高め、新しいお客さんを獲得し、既存のお客さんも維持することを目指します。

マーケティングは、市場調査、広告キャンペーンの企画と実施、ブランドイメージの構築などを行います。これらの活動によりマーケティングは長期的なビジネスの成長を支え、新しいお客さんを引き寄せる役割も果たします。

サッカーでたとえると


営業とマーケティングの役割をサッカーにたとえれば、営業は最前線でゴールを狙う FW 、マーケティングは FW をアシストし、時には自らゴールを狙う MF としてゲームをコントロールする役割です。

マーケティングの要素の1つである広告や SNS という空中戦にしか目が向いておらず、成果に一喜一憂している状況というのは、サッカーの中盤で MF のプレイヤーだけが自分たちの華麗なパス回しに酔いしれているようなものです。FW は蚊帳の外で、これでは観戦しているサポーターは興ざめしてしまうでしょう。

大事なのは、全員でのサッカーからゴールを入れて点を取ることです。MF から FW へボールをつなげてこそ、つまり認知や購入意向を上げるマーケティング施策は、製品やサービスを直接的にクライアントや生活者に買ってもらう営業活動に活きるのです。

営業とマーケティングがそれぞれ別々に活動するのではありません。重要なのは、両者が連携し、お互いにパスをつなぎ合わせてビジネス全体のゴールを目指すことです。お互いの役割を理解し、尊重し合いながら共同で動くことで、部分最適ではなく全体最適が実現しビジネスに成功をもたらします。


部分最適ではなく全体最適の実現へ


営業とマーケティングの連携を実現し、全体最適を追求するためにはどうすればいいのでしょうか?

実現のためのステップ、遭遇しうる困難、そして克服方法について考えていきましょう。

目的と戦略への共通認識


まずは目的のすり合わせから始めます。営業とマーケティングが共通の目的とゴールを設定し認識をそろえ、戦略を立て、達成のためにどのようなアクションをとるかを明確にすることが重要です。

ここでのゴールを売上目標として終わるのではなく、顧客満足度の向上など、その結果としての売上達成に直接的に寄与するものを 「追いかけるべき指標」 として設定することが有効です。

ゴール目標という最終的な結果だけを見るのではなく、ゴールに至るストーリー、勝ち筋 (これをやることでゴールを達成できるという打ち手やアクション) を捉えているかも見ていくことが大事です。

情報共有の仕組み化


次に、情報共有の仕組みを確立します。

営業とマーケティングの間での情報共有の仕組みを作ることで、マーケティング活動が営業の現場のニーズに応えられるようになり、営業活動がマーケティングを強化します。

定期的なミーティングの開催や共有ツールの活用など、営業とマーケティングの組織文化を調和していく方法で実現するといいでしょう。トレーニング機会の導入や、営業とマーケティングの共同プロジェクトを通じた協働の機会を設けることも有効です。

お互いの役割と貢献を理解し、尊重する文化を育てていくのです。

コミュニケーションが重要


このような取り組みの中で、様々な困難に遭遇する可能性があります。

その1つが、既存の組織文化や慣習への執着、固執から起こる抵抗です。人々は新しいやり方に対して抵抗感を抱くものです。

克服のカギはコミュニケーションにあります。変化すべき理由とそのメリットをしっかりと伝え、全員が腹落ちして理解できるようにすることが大事です。

また、営業とマーケティングがそれぞれ異なる目標を持っている場合、その調整が難しくなることもあります。この問題にはより上位の共通のゴールを設定し、達成するためのアクションプランを共有することで解決できます。

全体最適を追求することは、必ずしも簡単な道のりではありません。各組織が個別最適をするほうがよほど楽でしょう。しかし、それでは企業全体の成長と成功には結びつきません。

全体最適化とは未来への投資です。営業とマーケティングが連携し、共に同じゴールを目指すことで、その恩恵は計り知れないものとなります。


まとめ


今回は、書籍 ノヤン先生のマーケティング学 (庭山一郎) を取り上げ、企業での営業とマーケティングの組織連携について掘り下げました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 営業とマーケティングの理想の関係は、お互いの役割を理解し、ビジネス成功のために協力すること。サッカーで言えば、営業はゴールを狙う FW 、マーケティングは FW をアシストし時には自らゴールを狙う MF として、両者が連携してゴールを目指す

  • 営業とマーケの連携を強化するためには、共通の目的とゴール設定、戦略立案、情報共有の仕組み化、そしてコミュニケーションが重要。組織文化の調和や共同プロジェクトを通じた協働の機会をつくる

  • 連携の障壁には、既存の組織文化や慣習への執着、お互いが持つ価値観、異なる目標設定がある。克服するためには共通のゴール設定と意思疎通がカギ。営業とマーケの全体最適化の実現は未来への投資であり、連携することでビジネスの成功に貢献できる



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。