投稿日 2024/02/15

アメリカでの破産申請した 「売らないお店」 のショーフィールズが日本上陸を無期延期。マーケティングへの教訓

#マーケティング #顧客体験 #顧客接点

今回は、ニューヨークの 「 (商品を) 売らないお店」 として脚光を浴びていたショーフィールズの事例を取り上げます。

事例からマーケティングに学べることを掘り下げ、活かせる教訓を紐解きます。

NY の売らないお店 「SHOWFIELDS」 


D2C 百貨店とも呼ばれた、ニューヨーク発の小売店 「SHOWFIELDS (ショーフィールズ) 」 の日本上陸が無期限延期になりました。アメリカでの破産申請により、日本どころではなくなったという状況です。

ショーフィールズは自らを 「世界一おもしろいお店」 と称し、新興ブランドの商品を展示・販売するビジネスを運営していました。「売らない店」 と位置づけ、商品体験型の小売というビジネスモデルです。

新規性が注目を集め、日本の大手総合商社である双日の出資を受け、日本上陸が計画されていました。

事業不振の理由


事業不振理由の1つが 「顧客体験の形骸化」 です。

以前は、俳優をスタッフに起用し、演技をしながらユーモアたっぷりに商品を紹介していくショーがありました。来店客はショーを見る中で自然と商品のことを知ったり、理解し、楽しかったという体験が、そのまま商品に対する好意的な印象になるという効果も生まれていました。

しかしショーは廃止され、スタッフからの物語性のある商品説明もなくなりました。「気になった商品があればオンラインで調べてください」 と言わんばかりのタブレット端末頼りの接客で、店内の特徴的な施設も単なる飾り物になってしまったのです。

形骸化した展示物や接客


その象徴が店内の 「滑り台」 です。

かつてはニューヨークのショーフィールズの1号店は、店内に設置された大きな滑り台が名物でした。

ショーの参加者は最初に1人ずつ、滑り台で階下に降り、「アメリア・ショーフィールズという司会役の女性宅を巡りながら、彼女の家に仕えるさまざまな案内人から商品を紹介される」 という設定が施された世界に飛び込むことが出発点となっていました。

ところがショーの廃止後は、滑り台はスタッフからのただ 「滑ってみますか?」 と勧められるだけの存在になったのです。

来店客とスタッフのコミュニケーションが減れば、接客によってわかる来店客の反応などの定性データも得られません。本来は、出店企業やブランドに共有されるはずだった顧客情報の提供ですが、これも機能しなくなります。

ブランドにとってもショーフィールズにわざわざ高い出店料を支払ってテナントになる価値は見出せないでしょう。

 「売らないお店」 の本来の価値


ショーフィールズの話から考えさせられるのは、「売らないお店」 の存在意義です。

商品を売っていないからこそ、通常の店舗よりもさらに顧客体験の多様さやクオリティ、いかに 「Wow」 という驚きを与えられるかが大事です。商品を直接売らない分、わざわざそのお店に足を運びたくなる楽しさ、そこでしか得られないワクワク感を生み出し続けられるかが本来の価値です。

ショーフィールズのようなお店では、お客さんが商品を購入するのではなく、店舗が提供する独特な体験自体を求めて訪れるようになる場所だったはずです。


ショーフィールズからの教訓


独自の価値があるか


ショーフィールズの事例から問われるのは、目新しいコンセプトで一時的に注目を集めたとしても、結局のところはそのコンセプトを実現する顧客体験に 「他にはない独自の価値があるか」 です。

提供する価値に 「強み」 と言えるほどの競争優位があり、持続可能にしていくことの重要性を学べる事例です。

商品という 「売り物」 だけでなく、お店が提供する体験、お客さんとのタッチポイントでの顧客体験の1つ1つが、お客さんとの関係性をつくり、やがては強い絆を築き、長期的なロイヤルティを獲得するための大切な要素となるのです。

これからのマーケティングへの示唆


ショーフィールズの事例は、マーケティングのトレンドとの深い関連性を持っています。

デジタル化の進展により、オンラインでの顧客体験が重視されます。しかし、ショーフィールズのようなコンセプトの店舗は、オフラインでのリアルでも独自の体験を通じてお客さんとの強い結びつきを築くことが肝になります。

特に、スタッフと来店客との対面でのやり取りは、オンラインでは再現が難しい要素でしょう。こうした体験は、お客さんの心や感情に訴えかけ、良い記憶として残ります。

ショーフィールズの事例から学べるのは、商品やサービスから提供するお客さんへのユニークな体験から、いかに感動や驚きまでを与えられるかです。これらは競争が激しくなる市場において、ブランドをつくっていくためのカギとなるでしょう。

また、体験の提供は一過性ではなく、継続的に進化し続ける必要があります。

このように、ショーフィールズからの教訓は、現代のマーケティングが直面する課題とチャンスを浮き彫りにし、示唆を与えてくれます。


まとめ


今回はニューヨークの 「売らないお店」 であったショーフィールズの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • 顧客体験の独自性: 目新しいコンセプトも実現する顧客体験に独自の価値があってこそ。長期的な競争優位を築くには、提供する体験に他にはない価値 (強み) が必要になる

  • 関係性の構築: 商品だけでなく、提供される体験がお客さんとの強い絆を築くための重要な要素。お客さんとの各タッチポイントでの良い体験が、長期的なロイヤルティにつながる

  • デジタル時代のオフライン体験: ネットでのオンラインの顧客体験が重視されるからこそ、リアルでのオフラインでの独自体験が大事になる。スタッフとお客さんの対面でのやり取りから感動など、そこでしか得られない体験価値を提供できれば、ブランドの個性を際立たせられる


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。