投稿日 2024/02/11

片道レンタカー 「カタレン」 の秀逸なビジネスモデル。三方よしの共創から生まれる価値とは?

#マーケティング #ビジネスモデル #共創

今回は、ビジネスモデルがおもしろいと思ったレンタカーサービス 「カタレン」 を取り上げます。

お客さんと協力し合う 「共創」 から、新しいレンタカーの価値をつくっている事例です。

カタレンには 「三方よし」 があり、売り手よし、買い手よし、そして世間よしのビジネスモデルとなっています。カタレンから学べることをぜひ一緒に掘り下げていきましょう。

中長距離の片道レンタカー 「カタレン」 


スタートアップの Pathfinder が提供している、中長距離のレンタカー 「カタレン」 の仕組みがおもしろいです。

格安にできる仕組み


カタレンの最大の特徴は、片道専用のレンタカーだということです。


カタレンの仕組みは、「 (別の利用車が片道で乗り捨てた) レンタカーの回送車」 を次の利用者にレンタカーとして使ってもらい、もとのエリアに戻してもらいます。

秀逸なのは、乗り捨てた車の回収をお客さんに 「代行」 してもらうことで、高額な乗り捨て手数料を無料化したことです。これにより東京と大阪などの中長距離での格安でのレンタカーサービスを実現しています。

レンタカーは片道だけ利用して目的地での乗り捨てを選ぶと、その分だけ料金は高くなります。ある大手レンタカー会社を例に挙げると、東京で借りて大阪で返却した場合、乗り捨て手数料として4万4000円もかかります (基本料金は12時間までで約6000円) 。

これは車を元の店舗に戻すためのコストが発生するためで、レンタカー会社にとっても無駄な作業です。

そこでカタレンでは、東京と大阪間の基本料金を10時間5000円 (平日) に設定し、乗り捨て手数料無料の片道専用レンタカーを提供しています。東京 - 大阪間の移動を希望する人とマッチングし、「回送車」 を利用者に戻してもらうことで実現しました。

例えばのカタレンの使い方のイメージは、往路は新幹線で移動し、現地のお土産など買い物をして復路はカタレンのレンタカーで帰ったり、あるいは、行きはカタレンを利用して途中で 「道の駅」 に寄りながら楽しみ、帰りは新幹線でくつろいで帰るというものです。

カタレンの比較優位


では、カタレンの仕組みやビジネスモデルを整理してみましょう。

  • 市場規模: 片道のレンタカー市場規模は1000億円 (レンタカー全体の 10%) 、将来的には3000億円と推計されている (参考)

  • 片道乗り捨て手数料の無料化: 利用者に 「回送車」 を使って戻してもらうことで乗り捨ての回収コストを吸収

  • 格安の料金設定: カタレンでは例えば東京 - 大阪間の基本料金を10時間5000円に設定。大手レンタカーで片道で乗り捨てると4万円以上かかる

  • 予約の簡便性: LINE の公式アカウントから簡単に予約でき、手間が省ける

  • スマホアプリでの鍵の操作: レンタカーの鍵の解錠・施錠はスマホアプリを使う。ユーザーへの利便性が高い

  • 大手レンタカー企業との提携: ニコニコレンタカーとの提携しサービスの拡充を図っている。他の大手レンタカー企業との提携も検討中

  • 新しい移動のスタイルの提案: 旅行の行きと帰りで異なる交通手段を組み合わせるなど、新しい旅行や移動のスタイルを提供している

これらの特徴を持つカタレンは、一般的なレンタカーと比べて、コスト面や利便性、新しい移動スタイルの提案などで優位性を持っています。

お客さんの移動や旅行への新しい選択肢を提供するサービスです。


 「共創」 からの 「三方よし」 というビジネスモデル


カタレンの特徴は、提供者と利用者が協力することでサービスが成立している点にあります。価値を一緒につくる 「共創」 が、カタレンのサービスの本質です。

共創とは、異なる背景や立場を持つ企業や人々が1つの目的に向かって力を合わせ、新しい価値を生み出すことです。カタレンでは、車を提供するレンタカー企業と、その車を利用するお客さんが協力し合うことで他にはないレンタカーサービスになっています。

また、カタレンの仕組みには、「三方よし」 の理念を見ることができます。

三方よしとは、売り手よし、買い手よし、世間よしです。カタレンが提供するレンタカーサービスは、売り手であるカタレン、買い手であるレンタカー利用者、そして社会全体の三者が恩恵を受けるビジネスモデルなのです。

では三方よしの3つで順番に当てはめて見ていきましょう。

[売り手よし] カタレンへの恩恵


一般的にレンタカー企業は、「乗り捨て車の回送問題」 を抱えています。

しかしカタレンでは、従来のレンタカー事業では解決しきれなかった回送車の問題が、利用者の協力によって解消されます。サービス利用者であるお客さんに回送車をレンタカーサービスとして使ってもらうという解決方法です。

これによって、運用コストが削減され、収益性は向上するでしょう。

[買い手よし] 利用者への恩恵


お客さんにとってもカタレンからの恩恵があります。

通常のレンタカーと比べてレンタル料金が低価格で利用できます。往路と復路で異なる交通手段を選べるなどの柔軟性や移動の自由度が高く、今まではできなかった旅行ができます。

[世間よし] 社会全体の恩恵


カタレンのレンタカーサービスの恩恵は、社会全体にも広がります。

もともとは回送車がお客さんを乗せずに走るところを、レンタカーとしてお客さんの移動に使われることで、その分だけ CO2 排出量が減り環境に優しいサービスとなっています。また、道路混雑の緩和にもつながります。

他には、これまでにはない移動方法や旅行スタイルが生まれることで、地域社会や観光産業が活性化します。また、新たな共創の形が出てくる可能性もあるでしょう。例えば、地域特産品の販売や観光地への誘導などが考えられます。

新しい観光文化が形成され、社会全体へのポジティブな影響が期待できます。

* * *

このように、カタレンは提供者、利用者、そして社会全体に恩恵があり、ともに成長・発展する 「三方よし」 の理念が体現されています。それぞれのステークホルダーが共創的な関係をつくることで、持続可能なビジネスモデルになるでしょう。


まとめ


今回は、回送車をレンタカーに使い、格安の中距離レンタカーサービスを実現した 「カタレン」 から、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • カタレンの特徴は、回送レンタカー車を別のお客さんへのレンタカーとして活用し、回収をお客さんに代行してもらっていること。回送コストをサービスに転換することで格安レンタカーを実現

  • お客さんと協力し合う 「共創」 から、新しいレンタカーの価値をつくっている。従来の中距離レンタカーサービスと比べて料金が安く、柔軟な移動や旅行ができる

  • カタレンには 「三方よし」 がある。売り手、買い手、そして社会全体に利益をもたらすビジネスモデルとなっている


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。