今回は、岡山のネクタイブランド 「SHAKUNONE」 が直面した課題に焦点を当て、どのように解決したかを見ていきます。
SHAKUNONE のアプローチからは、マーケティングの役割を学ぶことができます。
笏本縫製のネクタイブランド SHAKUNONE
出典: 日経クロストレンド
岡山の老舗縫製工場 「笏本縫製 (しゃくもとほうせい) 」 が立ち上げたネクタイブランド、「SHAKUNONE」 が7年間で売上を200倍に伸ばしたとのことです。
当初は月に一本も売れない日もあったほどの苦しい状況でしたが、お客さんの声を地道に聞き、商品の質やパッケージを改善。ブランディングと地元との連携により、危機を乗り越え成功を収めています。
笏本縫製は、どのようにお客さんの声と向き合ったのでしょうか?
手に取ったのに 「買われなかった理由」
成功の種は、現場とお客さんの中にありました。
デザインや縫製の質には、長年の OEM (相手先ブランドによる生産) で培った自信があった。なぜ売れないのか理由を探ろうと、デパートの売り場に立ち、同社のネクタイを手に取った後、買わずに去った客を追いかけ、購入に至らなかった理由を質問。「知らないブランドだから」 という答えを除くと、理由はほぼ次の2つに集約された。
1つは実際の使い手である男性客の 「生地がもう少し肉厚ならよかった」 との声。シルクのネクタイは生地が薄手で滑りのいいものが、結びやすく緩みにくい高級品とされる。それに対し、厚手のものは締めるときにごわつくが、結び目にボリュームが出やすい。「そのボリュームをかっこいいと感じ、厚手のネクタイを欲しがる人がいるのだと分かった」 (笏本氏 (引用者注: 3代目社長の笏本達宏氏) )
もう1つが贈り物として買う女性客からの 「パッケージがいまひとつ」 との意見。「当時は『商品さえよければ買ってもらえる』と思い、深く考えず PP 袋に入れて販売していた。『大事な人へのギフトだからこそ、パッケージもすてきでないと』との意見に、目からうろこが落ちた」 (笏本氏)
顧客インサイトの反映
笏本縫製は、お客さんへの理解として見出した 「興味を持ったり欲しいと思ったのに、結局は買わなかった理由」 を取り除くことに注力しました。
売り場でつかんだエンドユーザーの意見を生かすべく、改良に着手。「肉厚感」 を求める声に対応するため、ネクタイの表地に貼る芯地を厚手のものに変えながら、何種類も試作を重ね、ベストな厚さを生み出した。表地そのものは変えず、結びやすさと、適度なボリューム感を両立した。
パッケージはギフトボックスを一から製作。ネクタイの箱は、細長い薄手の直方体が一般的だが、「この形では、開ける前からネクタイと予想がつき、面白くない」 (笏本氏) 。
贈り物だからこそ、何が入っているのかとわくわくする形がいいと、宝箱を思わせる立方体を採用。「知らない都会の会社ではなく、地元の会社と連携したい」 (笏本氏) と、津山市内の紙工会社とタッグを組み、紺色の地に、ブランド名とロゴを金色で箔押ししたラグジュアリー感のあるギフトボックスを考案した。
出典: 日経クロストレンド
学べること
では笏本縫製のネクタイブランド 「SHAKUNONE」 から、学べることを掘り下げていきましょう。
手に取ったけど買わなかった人の心理
この事例のポイントは、商品を手に取ってもらえたのものの、実際は買わなかった人に、その理由を質問したことにあります。
手に取ったということは、少なくとも何か惹かれるものがあって興味があったということです。しかし、欲しい気持ちがあるのに買うのをやめてしまうほどの何か別の要因が、障壁として存在したのでしょう。結果、買うという決断には至らず、立ち去ってしまったわけです。
お客さんの声からの課題把握
店頭に立っていた3代目社長である笏本さんは、お客さんが買わずにお店を出た直後に彼ら・彼女らに接触し、購入に至らなかった理由を尋ねました。すぐに追いかけてお客さんの心理や商品への印象がまだ残っている状態を逃しませんでした。
買いにくい要因、買わなかった理由を訊いたことで、お客さんが何を求めているのか、自分たちの商品がお客さんの希望に対して何が足りないのかを把握できたわけです。
それは主に2つでした。
- 生地がもう少し肉厚ならよかったという男性からの声。厚手のものは結び目にボリュームが出やすく、そのボリュームをかっこいいと感じていたので厚手のネクタイを欲しがっていた
- 男性に贈り物をする女性客からの声として、見栄えの良いパッケージ。大事な人へのギフトだからこそ、パッケージも素敵であってほしいという想い
ネクタイの他の要素は良くても、これらが決定的な 「買いにくい要因」 となっていました。作り手には盲点だったことです。
SHAKUNONE は改良に着手し、ネクタイに肉厚感を求める声に対応するため、表地そのものは変えず、結びやすさと適度なボリューム感を両立させました。
また、パッケージは、紺色の地にブランド名とロゴを金色で箔押ししたラグジュアリー感のある宝箱のようにし、あえてネクタイだとわからないサプライズを起こせるギフトボックスを新たにつくりました。
購入障壁を取り除くことの重要性
この事例からの学びを汎用化してみましょう。
あらためてのマーケティングの役割が見えてきます。
マーケティングの果たすべき役割は、お客さんからの 「買いたい」 という気持ちをつくり、そしてお客さん自らの望む行動として買ってもらうことです。
多くの場合、商品が欲しいと思わせる理由に目が行きがちですが、欲しくなる理由に比べると見過ごされがちなのは、(本当は欲しいのに) これでは結局はいらないとなってしまう購入障壁です。
SHAKUNONE は 「買いにくい理由」 をしっかりと理解し、取り除くことで、お客さんに選ばれる状態をつくった成功例です。
まとめ
今回は、ネクタイブランドの SHAKUNONE の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 笏本縫製の SHAKUNONE は、商品に興味を示し手に取ったのに結局は買わなかったお客さんに理由を直接質問。印象や記憶がホットなうちにお客さんにとっての 「買いにくい要因」 を見出した
- マーケティングの役割はお客さんの 「買いたい」 という気持ちを生み出し、実際に買ってもらうという行動につなげること。見落としがちな購入への障壁を取り除くことが大事
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