投稿日 2024/02/26

アビスパ福岡の戦略的投資。これが戦略の全体プロセス

#マーケティング #戦略

ビジネスで大事なのは、「やること」 と 「やらないこと」 の見極めです。

今回は、J リーグ・プロサッカーチームのアビスパ福岡の事例から、戦略とは何か、戦略的な視点での投資判断の秘訣を探ります。

2023年に躍進したアビスパ福岡


2023年、サッカー J1 のアビスパ福岡がリーグ戦過去最高の7位、カップ戦初優勝でシーズンを終えました。ビジネスとしても好調で、チケット収入額が過去最高の見通しとのことです。

アビスパ福岡の躍進の背景には、新型コロナウイルス禍で売上が落ち込むなか、債務超過転落を恐れず選手への投資を倍増させるという3年前の果敢な大型投資がありました。

当時はコロナ禍で、無観客試合や入場者数制限に伴いチケットや物販収入が落ち込み、20年シーズンの売り上げは前年度比 2% 減の15億3800万円にとどまった。にもかかわらず、21年度にはチーム人件費だけで16億4300万円と、前年度の売り上げを超える金額を計上した。コロナ前の19年度 (7億8400万円) からは倍増だ。

一般に、J1 クラブの前年度売り上げに占める翌年度のチーム人件費の割合は 40 ~ 60% 程度。100% を超えるのは極めて異例。コロナ禍の21年度でさえ20チーム中14チームが 70% 未満だった。

 (中略) 

当時、社長だった川森敬史会長は 「チーム人件費が選手に求める質や戦い方に影響すると痛感した。普通だったら前年度の売上高を超える人件費の編成は取締役会を通らないが、『投資すべきはメインコンテンツであるトップチームだ』とステークホルダーに丁寧に説明して理解を得た」 と振り返る。

戦略の本質


アビスパ福岡の事例には、戦略の本質に学びがあります。

あらためて戦略とは何でしょうか?

結論から言うと、戦略とは、目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごとです。戦略は目的達成のためのリソース配分の方針になります。

やることとやらないことにおいて、後者の 「やらないこと」 が大事です。やらないことを決めるために戦略をつくると言ってもいいくらいです。

考えられる全てを打ち手をやるような 「あれもこれも」 というのは戦略とは呼べません。「あれかこれか」 です。英語で言えば And ではなく Or という引き算の考え方をするのが戦略では大事です。


アビスパ福岡の戦略的投資


戦略の文脈でアビスパ福岡の事例を見ると、アビスパ福岡は勝つチームになり地元の人々から応援される存在になるという目的を掲げ、そのために 「トップチームのコンテンツを強化する」 という戦略をとったということです。

人件費への投資を前年度のチーム売上の 100% 以上に増加させる異例な決断をしました。J1 クラブの通常の人件費割合が売上の 40 ~ 60% 程度であることと比べると、思い切った投資です。戦略の逐次投入ではなく、一気呵成の投資判断は、明確な目的に向けた意志の表れです。

価値の源泉をつくる投資


アビスパ福岡がやったことを一般化して捉えると、戦略的に 「将来的なチームの強さの源泉」 かつ 「お客さんへの提供価値の種」 をつくるために、数年がかりで大きな投資を行ったということです。

ファンにとっての何よりの価値なのは、応援するチームが強くなり、試合で勝利をし、リーグ戦やカップ戦で優勝することです。下部リーグへの降格という悲しい出来事が起こらず、皆で応援でき勝つチームであることがサポーターや関係者への価値になります。

こうした価値提供につながる 「価値創出の "源泉" 」 としてチーム力の強化をはかり、そのためのトップチーム人件費の増加 (大規模投資) だったのです。

長期視点での投資の継続


アビスパ福岡はトップチームの強化のためにチーム人件費にお金を振り切ったわけですが、すぐに投資の効果が出るわけではありません。サッカーチームとして強くなるためには年月がかかります。

だからこそ、長い時間軸の視点から、腰を据えて覚悟を持って投資先を決めることが戦略では求められます。アビスパ福岡の事例は、長期的な成功への道を切り開くための戦略的な決断の大切さを示しています。


戦略の全体プロセス


今回のアビスパ福岡の事例から学べるのは、マーケティングの視点も入れると次のような順番で中長期で進めていくことの重要性です。

  • 目的を明確にする
  • 自分たちの向き合うお客さんは誰かを決める
  • お客さんにとっての本当の価値は何か、求めていることを理解する
  • 定義した顧客価値を実現するために、戦略的に 「やること」 と 「やらないこと」 を決め、やることにリソースをかけ投資をしていく (逐次投入は避ける) 

まずは目的があり、次に自分たちの顧客層を特定し、顧客にとっての本当の価値やニーズを深く理解することが大事です。アビスパ福岡の例では、サポーターが求めるのはチームの活躍と勝利でした。

定義された顧客価値を提供し実現するために、戦略的に 「やること」 と 「やらないこと」 を決め、選択したことに集中してリソースを投資していくことが重要です。

アビスパ福岡の場合、トップチームの強化を目指し、通常の水準を超えた人件費への投資が行われました。投資は短期的な成功ではなく、中長期的な目標達成を目指してのものでした。戦力の逐次投入ではなく一気呵成のアプローチが、効果的な戦略の展開を実現させます。アビスパ福岡は、チーム人件費への大胆な投資でこの原則を体現しました。

アビスパ福岡の事例は、ビジネスにおける戦略の本質を教えてくれます。

お客さんが求める真の価値を理解し、価値を提供するための戦略的なリソース配分を行い、目的達成に向けて強い覚悟で投資を実施し、実行することが長期的な成功へのカギになります。どのビジネスにおいても学びとなります。


まとめ


今回はアビスパ福岡の事例から、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 戦略とは、目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごと

  • 戦略では 「やらないこと」 が大事。やらないことを決めるために戦略をつくると言ってもいい。あれかこれかの引き算の考え方をする

  • 戦略の全体プロセスは、目的の明確化、顧客定義、お客さんにとっての本当の価値の見極め、定義した顧客価値を実現するために戦略的に 「やること」 と 「やらないこと」 を決め、やることに投資する。長期視点で投資と実行を継続していく


マーケティングレターのご紹介


マーケティングのニュースレターを配信しています。


気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。

マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。

レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。

こちらから登録をしていただくとマーケティングレターが週1回で届きます。もし違うなと感じたらすぐ解約いただいて OK です。ぜひレターも登録して読んでみてください!

最新記事

Podcast

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。