投稿日 2024/02/20

お客さんの 「買いたい」 をつくるマーケティング戦略と KPI 設計

#マーケティング #KPI #本

今回のテーマは 「マーケティングの KPI」 です。


顧客の 「買いたい」 をつくる KPI マーケティング (佐藤義典) という本を取り上げ、効果的な KPI のつくり方、マーケティングの成功につながる KPI 運用を紐解いていきます。

本書の概要


この本からは、マーケティング活動における KPI (Key Performance Indicator: 重要業績評価指標) の設計方法を学べます。

本書は、現場の実務で役に立つ KPI のつくり方と運用方法を、具体的なマーケティングの事例からわかりやすく解説しています。


売上は追わない


お客さんの 「買いたい」 気持ちをつくる


著者の佐藤義典さんは、売上を KPI にすることが時には不正を助長すると指摘します。その理由として、「 (KPI を達成するために) 売れさえすれば何をしてもいい」 という考え方に至ってしまう危険性を挙げています。

適切なマーケティング活動ができているかを評価するために重視すべきは、お客さんが自社商品を 「買いたい」 と思う気持ちをつくっているかです。

お客さんに買いたいと感じてもらう自分たちの行動量を増やし、お客さんの買いたいという反応を増やすことが大事なのです。

買いたい気持ちをつくるために、追いかけるべき 「行動量指標」 は2つです。

✓ 行動量指標 (先行指標) 
  • 独自の強みをつくる。強みを強化する
  • 強みを伝えきる

行動量指標を追いかけることで、結果的に売上の向上につながります。「結果として」 売上が上がるという捉え方が大事です。

KPI の設計方法


KPI の上位にある KGI (Key Goal Indicator) とも併せると、KPI の全体像は次のようになります。

✓ KGI / KPI の全体像
  • ゴール指標 (KGI) : 結果としての売上向上 (= ゴール達成) 
  • 反応量指標 (KPI) : 結果 KPI 。行動の結果としてのお客さんの 「買いたい」 という反応量 (= ゴール達成の進捗指標) 
  • 行動量指標 (KPI) : アクション KPI 。お客さんの 「買いたい」 をつくった自社の行動量 (= 行動の進捗指標) 

特徴的なのは KPI を 「行動量指標」 と 「反応量指標」 に分けていることです。

成果につながる行動に注力し、アクションによって生まれるお客さんの 「買いたい」 という反応量を評価します。そして、「自分たちの行動」 と 「お客さんの反応」 を積み上げた先に最終的なゴール指標 (KGI) である売上向上に結びつきます。

流れは 「行動 KPI → お客さんの変化 KPI → KGI」 です。

次のように、行動 KPI の主語は自社、お客さんの変化 KPI の主語は顧客というのがポイントです。

  • 自社主語 KPI: お客さんの態度や行動を変える行動指標 (お客さんへの働きかけ) 
  • 顧客主語 KPI: 自分たちの行動により起こるお客さんの反応や変化 (購入意向など) 


戦略と KPI


戦略の 「急所」 を把握する


この本に出てくるユニークな表現に、戦略の 「急所」 というキーワードがあります。

マーケティングの文脈で 「戦略の急所」 とは、お客さんが 「あなたから買いたい」 と強く感じるポイントです。「あなたから買いたいボタン」 と表現することもできるでしょう。

お客さんの買いたい気持ちを高めるためには、独自性と具体性の2つがポイントです。

  • 独自性: 他にはない独自の魅力がある
  • 具体性: 機能やうれしさなどのベネフィットがわかりやすい

急所の典型例は、たとえば次のようなことです。

  • 知ればわかる: 商品の特徴を理解すれば、高い確率で買ってもらえる
  • 見ればわかる: 製造方法や構造を見たり、実際の使い方を見ることで、商品が買われる
  • 話せばわかる: 対面での商談を実施したり、直接お客さんにストーリーも伝えれば、買ってもらえたり契約を取れる
  • 見積りを出せば決まる: 適切な見積もりを提示すれば、価格面で競争に勝てる

戦略から始まる流れの全体像は、「戦略 → 行動 → 急所を刺す → 買いたい気持ち → 売上」 という流れです。マーケティング施策などの行動から急所をグサリと突き、お客さんの心を捉え、お客さんの 「買いたい」 をつくるのです。

事例に見る急所と KPI


この本では、ウタマロ石鹸やクラゲ水族館などの事例を挙げ、KPI 設計や急所の捉え方をわかりやすく解説しています。

ウタマロ石鹸とクラゲ水族館を、

  • 急所
  • 買いたいをつくる行動
  • 行動量 KPI
  • 反応量 KPI

に当てはめると、それぞれ次のような KPI 設計になります。

✓ ウタマロ石鹸
  • 急所: ウタマロ石鹸を一度でも使えば、他の石鹸にはない汚れの落ち具合がわかる
  • 買いたいをつくる行動: ウタマロ石鹸を実際に試してもらう
  • 行動量 KPI: サンプルの石鹸を配布した回数, 渡したターゲット顧客の人数
  • 反応量 KPI: ウタマロ石鹸のサンプルを試し、汚れが取れきれいになったことを実感した人の数

✓ クラゲ水族館
  • 急所: 展示するクラゲの種類数を増やせば入館数が増える
  • 買いたいをつくる行動: クラゲの展示数を増やす
  • 行動量 KPI: クラゲを増やすための一連の行動 (水槽を増やす, 新しいクラゲを繁殖, ノウハウを学ぶなど) に費やした時間 (人日) 
  • 反応量 KPI: クラゲを増やしたことで喜んでいただいた人の数

戦略と実行


本書で提示される、戦略から実行、そして効果検証までをつなぐ語呂合わせで覚えやすいフレームが 「せすじ効果」 です。

  • せ: 戦略
  • す: 数字
  • じ: 実行
  • 効果: 施策の効果検証

戦略をつくったら KPI にして数字に落とし込み、実行します。やりっぱなしで終わらず、実行結果を KPI に沿って効果検証するという一連の流れです。

このプロセスを進める中で、問題を的確に捉え、問題解決をやり抜くために、以下の3つを徹底するといいでしょう。

  • どこが・何が問題? (問題設定) 
  • ではどうする? (解決策) 
  • あれどうなった? (実行と成果をしつこくフォロー) 


まとめ


今回は、顧客の 「買いたい」 をつくる KPI マーケティング (佐藤義典) という本を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • マーケティングではお客さんの 「買いたい」 という気持ちをつくることが大事。独自の強みをつくり、強みを強化し、強みを伝えきることで、その結果として売上向上につながる

  • 売上などの KGI への流れは、急所の把握 → 急所を狙う行動の見極めと実行 → 行動量 KPI → 反応量 KPI → KGI

  • 急所とは、お客さんが 「あなたから買いたい」 と感じるポイント。急所を狙った自社のアクションに注力し、行動量を追いかける。行動からお客さんの 「買いたい」 という反応量を増やした先に売上がある



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。