投稿日 2024/02/21

北海道スキー場の "すみ分け" 価格設定。「モード」 と 「心の予算枠」 で価値を見極めよう

#マーケティング #心の予算枠 #モード

なぜ同じ商品やサービスでも、人によって、さらには状況によって感じる価値は違うのでしょうか?

価値と価格の関係は1つではありません。お客さんの価値観や置かれた状況、そのときの心理状態であるモードによって変わるものです。

今回は、北海道のスキー場の事例から、価値と価格について考察します。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

北海道のスキー場での 「すみ分け」 


世界的なスノーリゾートの1つ北海道のスキー場で、利用頻度に応じた価格設定が広がり始めています。

インバウンドの訪日外国人ら一見さんには、雪山を貸し切って滑れる200万円コースなどのプランを用意し、地元のリピーターには限定リフト券で値ごろ感を演出するといったぐあいです。

出典: 日経

いくつかの例で見比べてみましょう。

✓ 訪日外国人向けの高額プラン
  • ルスツリゾート (北海道留寿都村) : 雪山を貸し切って滑れる200万円コースなどの高額プランを提供
  • イワナイリゾート (北海道岩内町) : 日帰り200万円のプライベートツアー。キャット (雪上車) を使用し、約6時間のスキーを独占的にできる
  • 星野リゾート トマム (北海道占冠 (しむかっぷ) 村) : 2泊3日で1人あたり30万円超の宿泊プラン。貸し切りコースでのカスタマイズ可能なスキー体験を提供

✓ 地元の人向けの手頃な価格プラン
  • 加森観光 (ルスツリゾート運営) : 地元リピーター向けに25時間券を導入。シーズン中に数回来場する地元客に合わせた価格設定
  • キロロリゾート (北海道赤井川村) : 地元客向けに宿泊費に飲食代を含むオールインクルーシブ型のプランを提供
  • ニセコ東急グラン・ヒラフ (北海道倶知安 (くっちゃん) 町) : 地元客向けにリフト券の割引提供。30時間券や50時間券など、地元客の利用パターンに合わせたプランで販売
  • 星野リゾート トマム: 北海道在住者に向けて1日リフト券を3割引きの5000円で提供する地元向け割引制度 「トマとも」 を実施


価値と価格


北海道のスキー場の事例で注目したいのは、新規のお客さんとリピーター向けに価格設定を分けている点です。

ターゲット顧客ごとの価値と価格


価格感度や価格への弾力性は人それぞれ異なるため、これを考慮した価格設定は効果的です。北海道のスキー場の例では、訪日外国人向けには高額なプライベートツアーや特別な体験を提供する一方で、地元のリピーターには手頃な価格のリフト券や時間券を販売しています。

このように、異なるターゲット顧客に対してそれぞれに合ったサービス内容と価格にすることは、多様なお客さんのニーズに応える上で重要になります。

価値は相対的


価値について重要なポイントは 「価値は相対的である」 ということです。

価値の相対性は、「誰が (比べる主体者) 」 「どういう状況で」 「何と比べるか (比較する相手) 」 によって変わるという意味です。

今回の事例に当てはめれば、訪日外国人のお客さんにとっての200万円のプライベートツアーは、他の国の高級リゾートと比較すると北海道のパウダースノーでのスキー体験は魅力的なのでしょう。一方で、地元の人たちにとっては、北海道の雪やスキーをすることは日常の延長なので、インバウンドの人と同じ価格では非現実的で高すぎると感じられることでしょう。

価値と価格への感じ方は、背景にあるお客さんの価値観や比較基準にもとづいているのです。


モードの違いに見る価値と価格


では、人の 「文脈」 や 「モード (その状況や文脈における気持ち・姿勢や態度) 」 に注目し、もう少し考察を深めていきましょう。

ハレとケ


ところで日本語には 「ハレとケ」 という言葉があります。「ハレとケ」 は日本の文化人類学者である柳田國男が提唱した概念で、日本の伝統的な文化や生活の中に見られる2つの異なる世界観を表しています。

ハレは特別な日や祭りなどの非日常的な状況を指します。ハレでは特別な装いや行為、食事などが行われます。それに対し、ケは普通の状況のことです。日常的な生活や仕事、行動がなされる時です。

ハレとケを北海道のスキー場の事例に当てはめると、訪日外国人のお客さんは 「ハレ」 のモードに当たります。彼ら・彼女らにとっての旅行滞在先でのスキー体験は非日常的な特別な体験であり、より高い価格でも特別な価値への対価として妥当なものになります。

それとは対照的に、地元のローカルなお客さんは地元北海道でのスキーは日常である 「ケ」 の状況に該当し、日常的な利用シーンとなります。

 「心の予算枠」 


ここで着想を広げるためにご紹介したいのは、「心の予算枠」 という考え方です。

人は同じお金を払うのでも、頭や心の中での 「何予算なのか」 によって財布の開き方が変わります。

訪日外国人である人たちにとってのスキー体験は、特別な休暇や海外旅行中の予算枠で捉えられるため、高額でも特別な価値を見出します。これに対し、地元のお客さんは日常的な余暇や休日の遊び代のような予算枠で考えるため、手頃な価格設定を求めます。

このように価値は相対的であるがゆえに、どんなうれしさや価値なのかによってお財布事情、別の表現をすれば 「心の予算枠」 は変わるのです。

モードと心の予算枠


 「ハレとケ」 と 「心の予算枠」 を組み合わせると、ハレのときの予算枠は大きく、ケにおいては予算枠は小さくなります。

ハレでは非日常的な状況下にあり、開放的な気分から財布の紐もゆるくなりがちです。ケでは普段の日常の中にいるので、日常生活での買いものの範囲でそれぞれの値段を比較します。それだけ価格への目も厳しくなるわけです。

お客さんの 「モード」 によって妥当な価格感は変わるのです。


顧客の文脈に合わせた価値提供と価格設定を


今回の事例からの学びを汎用化すると、価値と価格は、そのお客さんのどういう状況に対して提供するのかを考える重要性が浮かび上がります。

お客さんの 「モード」 と 「心の予算枠」 を見極め、提供する価値に対して適切な価格を設定することが大事です。高額な体験を提供する際には、お客さんが特別な非日常の中で価値を感じる点を強調することがポイントです。一方で、日常的な利用に対しては、手頃な価格設定で利用回数を増やしリピートにつなげるアプローチが効果的です。

マーケティングにおいては、お客さんの文脈、すなわち価値観や心理状態とその時の状況 (モード) に合わせた価値提供と価格設定が成功のカギを握ります。


まとめ


今回は北海道のスキー場の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 価値は相対的で、「誰が」 「どういう状況で」 「何と比べるか」 によって変わる。お客さんの価値観、置かれた状況やモードにもとづいて価値かどうかが決まる

  • 価値と価格は、そのお客さんの文脈に対して提示することが重要

  • お客さんの価格感度や価格弾力性を踏まえ、お客さんの 「モード」 と 「心の予算枠」 を見極める。そして提供する価値に対して適切な価格を設定する


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。