今回は I-ne (アイエヌイー) の事例から学ぶ、客観性を保ちつつ効果的なデータ分析を行う方法です。
データ分析での中立性、お客さん目線での分析の重要性、そして分析結果をどう活用するかについて、その秘訣を探っていきましょう。
I-ne のデータ活用強化
I-ne は、今でこそボタニカルライフスタイルブランド 「BOTANIST」 、夜間美容ブランド 「YOLU」 をはじめ、次々に年間売り上げ100億円規模のヒットブランドを生み出していますが、2018年ごろには大量の不良在庫を抱え、経営危機に陥っていたこともありました。
かつてのアート偏重の弊害
その大きな要因はサイエンスというデータ分析の不足にあったとのことです。経営危機は、経営陣の過去の成功体験にもとづく、アート的な感性偏重で様々な経営判断をしていたことが招いた結果でした (参考記事) 。
そこで、I-ne は大西社長や経営陣を中心にマーケティング手法を抜本的に改革し、感性に偏った会社にサイエンスを取り入れました。
中立的なデータ分析専門チームを設置
I-ne がデータドリブンへと変革するために取り組んだことの1つは、組織編成です。
マーケティング本部の中に、データ分析などによって消費者理解を推進する専門チームを設置しました。
このチームは、新商品開発時の消費者調査だけでなく、売上データの分析などからのマーケティング戦略の策定などの役割も果たします。
生活者が見ている情報だけで判断
特徴的なのは、ブランド開発やブランド運営に直接的に携わらない中立的な立場で、商品の需要予測などを判断しているところです。
データは切り口によっていろんな考え方ができる。データを恣意的に読み取ってしまう可能性を極力排除するために、ブランドチームに属さない中立的なデータ分析チームを創ることで、客観性の担保に努めた。
このデータ分析チームをつくったときに I-ne が特にこだわったのが、「生活者が目にする情報だけで物事を判断する」 ことだ。もう少しかみ砕いて説明すると、生活者が店頭で見る商品情報という意味だ。商品を売るか売らないか、撤退するかしないかなどの重要な判断を、消費者に見える情報だけで判断する。
例えば、以前の購入意向調査では、商品そのものに加え、商品名、商品カテゴリー、商品開発理由など、必要以上の情報を調査対象者に与えていた。ところが、調査を受ける側は、情報を足されたことにより、その商品のコンセプトや便益の理解が進むため、バイアスがかかり、購入意向が高く出る傾向がある。
しかし、実際に小売店の店頭で売り出す際には、それほどの情報量を与えることが難しい場合がほとんど。大半の消費者は小売店の棚に並んだ商品や、棚に設置された小さな POP (販促物) からしか情報を受け取ることはない。場合によっては、商品名すら見られず、パッケージや価格だけで購入を判断されるケースも多いだろう。
「店頭を通りかかったときに、見たい、欲しいと思ってもらえないと、やはり購入には結び付かない。調査の難しさは、そこにあると感じている」 と上田氏 (引用者注: I-ne 執行役員兼マーケティング本部 本部長) は言う。
(中略)
消費者調査のデータを読み解き、正しい消費者インサイトを導き出す上でデータ分析チームが意識しているのは、調査で出てきた意見が 「個人的なもの」 なのか 「普遍的なもの」 なのかを見極めることだ。
例えば、「おしゃれじゃない」 という意見があったとすれば、それは個人的な感覚によるものだ。一方で、「シールの文字が小さくて読めない」 という意見は対象者以外にもあてはまる普遍的な課題である可能性が高い。その意見が個人のみにあてはまる内容か、あるいは広くあてはまる内容かを精査した上で、後者の場合にはその意見に基づいて改善策を講じるべきかどうかをチームで検討する。
学べること
では、I-ne がデータドリブンを進めた事例から学べることを掘り下げていきましょう。
学びを一般化すると、調査にバイアス (ものの見方への過度な偏り) が入らず中立的・客観的に評価し、商品販売やマーケティングの成功確率を高める方法に示唆があります。
ポイントは次の4つです。
- 中立的なデータ分析チームの設置
- お客さん目線でのデータ分析
- 個別性と普遍性の識別
- 評価と示唆の活用
順番に見ていきましょう。
中立的なデータ分析チームの設置
まず第一に、中立的なデータ分析チームの設置があります。
商品開発や販売を担当する部署において、その部署がデータ分析も行うと、つい自分たちの部署や施策が成功していることを前提にした分析になってしまう可能性があります。
例として、新商品の売上が好調であるかのようなデータ分析レポートをつくるというケースです。しかし中立的なデータ分析チームが販売部門とは独立した立場で分析・評価を行うことで、このようなバイアスを排除することができます。
お客さん目線でのデータ分析
次に、顧客目線でのデータを分析し示唆を出すことが重要です。
例えば、オンラインショッピングのサイトであれば、商品ページに表示される情報のみでユーザーに評価してもらうテストを行うといいでしょう。実態の購買行動をなるべく再現した環境をつくるわけです。
もし、多くの補足情報や背景知識があると、調査対象者はその影響を受けてしまい、現実の購買行動とは異なる結果が出てしまいます。
個別性と普遍性の識別
第三に、収集したデータから個別性と普遍性をしっかりと分けて捉える必要があります。
I-ne では、「おしゃれじゃない」 という意見があったとすれば、それは個人的な感覚によるものとみなし、「シールの文字が小さくて読めない」 という意見は対象者以外にもあてはまると解釈していました。
このように、お客さんの声や取っている行動、その時の心理面について、その人以外にも当てはまるものなのかをデータ分析者が客観的に判断をすることが求められます。
評価と示唆の活用
データドリブンから成功につなげるための4つ目のポイントは、分析結果を次につなげることです。
データ分析とはあくまで手段です。分析の目的があり、目的達成のために必要だからデータ分析を行うという順番なのです。ビジネスでは決して逆になる 「手段の目的化」 が起こってはいけません。
調査やデータ分析では、事前に 「サクセスクライテリア」 という成功の基準や条件を詰めておくことが大事です。例えば、ターゲット顧客への新商品コンセプト調査において、コンセプトメッセージへの好意的な反応は x% 以上のような判断基準を設けます。
他には、広告キャンペーンからのブランド認知を y% 以上というサクセスクライテリアです。ここで重要なのは、キャンペーン後に認知を評価するだけではなく、特に未達だった場合に何が要因なのかを掘り下げることです。
キャンペーンが成功したときも目標未達の場合も、そのキャンペーンからの振り返りで得られた教訓や示唆を次回への糧にするわけです。データ分析が PDCA をまわすエンジンにすることが大切です。
まとめ
今回は I-ne がデータドリブンを組織的に進めてきたという事例から、学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
- 中立性の重視: バイアスのない分析をするためには、客観的な立場にあるデータ分析者や分析チームの設置が効果的
- お客さん目線のデータ分析: 購買行動を再現するために、お客さんが実際に接する情報のみでデータ分析をする。調査への過度な情報提供はバイアスを生み、実際の行動や心理と乖離する恐れがある
- 評価と示唆の活用: データ分析は手段。分析目的から逆算した成功基準 (サクセスクライテリア) にもとづいて分析結果を評価し、得られた知見や示唆を次に活かすという PDCA サイクルを回すことが大切
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