今回のテーマは 「共創」 です。
売り手と買い手が一緒になって価値を生み出す秘訣を、完全栄養食のベースフードの事例から紐解きます。
ベースフードのマーケティング
出典: PR TIMES
今回は、ベースフードの事例を取り上げます。
ベースフードは、1食で1日に必要な栄養素の3分の1が摂れる完全栄養食です。パンやパスタなどの主食を完全栄養食として、コンビニでも売られています。
ベースフードは、商品購入者である自社ユーザーの体験をよくするために、様々な打ち手をとっています (参考記事) 。
UGC の活用と重要性
ベースフードの施策で特徴的なのは、UGC (ユーザー生成コンテンツ) の積極的な活用をしていることです。たとえば、食や健康に関する悩みを抱えている人に対して、同じ悩みを持つ人の投稿やレビューなどの UGC を購入プロセスの中で見せています。
UGC はお客さん自身が投稿したり発信するコンテンツであり、信用しやすいという特性があります。
人は、実際に商品やサービスを使ったことのある一般的な人の体験や感想を知りたいものです。食や健康に関する製品であれば、他のユーザーのリアルな声は参考になるでしょう。
UGC を生む仕組み
ベースフードは UGC の力を最大限に引き出すために、ユーザーが自然と投稿したくなる仕組みを意図的につくっています。
たとえば 「栄養ダッシュボード」 という機能がユーザーのマイページにあり、ユーザーは自分がこれまでにベースフードの商品をどれくらい食べたのか、それによって栄養素をどれだけ摂取したのかがわかります。
自分ががんばってきた履歴が見える化されることで、達成感が生まれ、人に言いたくなるので UGC を増やすきっかけになります。
他には 「おすすめの食べ方」 「商品が届いたよ報告」 のような投稿のフォーマットを作り、はじめての人でも投稿しやすい工夫をしています。
興味深いのは、各商品について 「こういう味です」 などとベースフードから詳細に伝えていないことです。食べた人が自分の味の感想を言えるような 「余白」 を残しているわけです。
余白をつくる意図は、人によって食べた感想に違いが出るからこそ投稿する意味を生み、他のユーザーにとって価値のある情報にするためです。
お客さんさんからの声へのフィードバックと活用
ベースフードでは、投稿した内容には専任の管理栄養士がコメントをしています。自分が投稿した内容にフィードバックがあれば、また投稿したくなる気持ちになり、ベースフードへの良い印象や愛着が高まります。
反応があったり、栄養士のような専門家の人から自分のことを知ってもらったりお墨付きをもらえたりすると、よりおもしろくなって自分ゴト化していくことでしょう。
ベースフードは、ユーザーからの要望を商品開発やサービス改善につなげたら、ベースフードが独自に構築しているコミュニティ内で報告しています。「自分の意見でサービスが変わるんだ」 という意識が醸成され、積極的な発言につながります。
たとえば 「電子レンジで温める際に脱酸素剤が剥がれづらい」 という声を参考に粘着力を弱めたり、「2個入りのパンを朝食に1個食べた後、袋を開けたままでは会社に持っていきづらい」 という声を受けて、個包装にするといった改善がされました。
また、従来はパンやパスタなどの主食を商品ラインナップの中心にしてきましたが、新たにクッキーを発売したのも 「リモートワークが多くなって、片手でパソコンを操作しながら間食として食べられるものが欲しい」 という声からでした。
このように、お客さんからの UGC や商品への感想などの声を積極的に商品開発に反映しているのも、ベースフードのやり方には特徴があります。
学べること
ベースフードは、売り手と買い手が一緒に商品をつくり出し、価値を高める 「共創」 を実現しています。
注目したいのは、お客さんが自発的に発信するという UGC が生まれている仕組みのつくり方です。
この文脈でベースフードから学べるのは次の3点です。
- 余白: お客さんからの UGC を生み出す 「余白」 を入れる
- 文脈理解: お客さんからの要望へは、背景となっている利用シーンや使い方まで把握することで理解を深める
- 双方向性: お客さんからの声をフィードバックしたり、商品の改善や開発に取り入れたことを伝える
では3つのポイントを順番に見ていきましょう。
行動を生む 「余白」
ベースフードでは、商品のデザインやパッケージ、さらには商品説明のやり方にまで 「余白」 を残しています。
たとえば、食品の味に関する説明をベースフードからはあえて詳細にしていません。お客さん自身が食べた後に、自分の素直な感想を SNS などで発信してもらうためです。
意図的な空白スペースがあることで、お客さんは余白を埋めるように UGC をつくることを促す要素になっています。
要望の背後までの 「文脈理解」
お客さんからの感想、意見や要望を受ける際に、ベースフードではその背後にある 「文脈」 までしっかりと理解しようとしています。
たとえば、個包装を望むお客さんの声には、「朝食で1つ食べて、残りの1つは会社で食べたいのに持っていきづらい」 という具体的な利用シーンとともにお客さんの声を把握しました。それまでの2個がセットになったパッケージでは、どういうシチュエーションで具体的にどんな 「不」 があるのかを解像度高く理解しようとしています。
このようにお客さんからの要望について、背景となっている利用用途や使い方まで把握することで、お客さんの理解が深まります。
活用したことを伝える 「双方向性」
ベースフードではお客さんからの声を重視し、商品の改善や新しい商品開発に活かしています。さらに活用するだけではなく、どのように活かしたかをお客さんにフィードバックまでしています。
具体的な例は、脱酸素剤の粘着力を弱めたり、パンを個包装に変更したことですが、こうした改善をしっかりとお客さんに 「反映しました」 と伝えています。
お客さんは自分の発言や意見がベースフードに届き、商品開発や改善に役に立ったことが実感でき、これからも積極的に意見や要望を出したいと思うことでしょう。
* * *
以上のように、ベースフードは 「余白」 「文脈理解」 「双方向性」 の3つの要素を組み合わせ、お客さんと共に商品の価値を高めているわけです。
マーケティングにおいても、このような共創のプロセスから学べることは多く、参考になります。
まとめ
今回は、完全栄養食のベースフードのマーケティング事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後に学びのポイントとして、ベースフードがお客さんとの共創を実現できている3つの要因をまとめておきます。
- 余白: お客さんからの UGC などの、自らやりたいと思える行動を生み出す 「余白」 を入れる
- 文脈理解: お客さんからの要望は、背景となっている利用シーンや使い方まで把握することで理解を深める
- 双方向性: お客さんからの声を商品の改善や開発に取り入れ、さらに本人に伝える
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