投稿日 2024/02/17

ハウステンボスのブランド設計。3C から独自の価値をつくる方法

#マーケティング #ブランド #バリュープロポジション

今回のテーマは、ブランドを戦略的にどうつくるかです。

ハウステンボスのブランド設計の事例から、自社の商品やサービスをいかにお客さんの心に響くものにするかの秘訣を紐解きます。

ハウステンボスのブランド設計



マーケティング会社 「刀」 を率いる森岡毅さんが、刀が運営を支援している長崎のテーマパーク 「ハウステンボス」 について、次のように語っていました。

—— 大きな伸びしろを生かすために必要なことは?

森岡: ブランドの設計、これに尽きます。刀の分析によって興味深いことが分かりました。HTB は、長崎を中心とした足元商圏でも全国圏でも、集客の伸びしろがあるのです。足元マーケットについては、TDR (東京ディズニーリゾート) の関東圏、USJ の関西圏と比べると、日帰り圏である九州北部への浸透率が相対的に低いのです。全国からの集客についても弱く、今はまだ西日本からの来場者が大半です。

この事実が意味するのは、ブランドが弱いということです。しっかりとした設計図に基づいてローカルからも全国からも集客できるブランドを築けば、もっと成長できます。大切なのは、HTB に行くとどんな体験ができるかというイメージが消費者の頭の中にできること。そのためのブランドづくりです。

 (中略) 

—— HTB のブランド設計図は、どのように構築していきますか?

森岡: 設計図はすでに HTB の皆さんと共有しています。まず考えるべきは、そのブランドが持っている、もしくは持ち得る強みをいかに活用するかです。HTB の最大の強みは、繰り返しますが荘厳な建物が生み出す非日常感です。再現されているヨーロッパの街並みは、張りぼてではなく本物の建物。約30年前で総工費が2200億円ほどでしたから、現在はその3倍でも足りないでしょう。創建に携わった人がロマンと夢を追ったから成し得たことです。

2000年代初頭に HTB が経営破綻した後は、旅行業者、エイチ・アイ・エス (HIS) の澤田秀雄社長 (当時) が、再生を引き受けて遺産を守りました。そのバトンを受け継ぐことにこそ、大きな価値があります。また単独のテーマパークとして日本一、世界でも指折りの広大な敷地も生かすべきでしょう。これらが、ベン図 (集合図) では1番目の輪になります。

2番目の輪が最も大事で、消費者が何を欲しているのか、という本質的な欲求を捉えることです。HTB に行く必然がどこにあるのかを正確に突き詰めていきました。そして3番目の輪は、競合が真似しにくい施策を実行することです。

この3つの重なりの中心にブランドの勝ち筋が見えるわけです。HTB の場合、それを一言で表すと 「憧れ」 でした。

では、森岡さんがおっしゃっているブランド設計への3つについて、さらに掘り下げて見ていきましょう。

ブランド設計の3つのポイントは以下でした。

  • 自社が持つ強みや資産
  • 消費者が根源的に求めている欲求
  • 競合が真似しにくい施策の実行

これら3つが成立するのは 「バリュープロポジション」 と呼ばれるものです。


バリュープロポジションとは


出典: lifehacker

バリュープロポジションとは、① 自社が提供できるもの、② 顧客が望んでいること、③ 競合他社が提供できない独自の価値、という3つが成立するところです。

順番に見ていきましょう。

自分たちの強み


まず、自社の持つ強みや資産を理解することが第一です。

高い技術や独自ノウハウ、ブランドイメージなど、他社と差異化できるポイントを特定します。強みや資産は競争力の源泉となります。

お客さんが求めていること (顧客インサイト) 


次に、消費者が根源的に求めている欲求、すなわち 「顧客インサイト」 を捉えます。

顧客インサイトとは、人を動かす隠れた気持ちのことです。心のホットボタンや心のツボと言ったりもします。

普段はお客さんは自身で意識していないものの、心の琴線に触れてホットボタンを押され、そうだと気づかされれば態度が変わり、行動を起こす奥にある心理です。

ちなみにニーズはより表面的ではっきりしていること、顧客インサイトは隠れていて潜在的なものです。マーケティングの成功のカギを握るのは、顧客理解において、お客さんのニーズだけではなく、奥にある顧客インサイトまでを理解することにあります。

競合にはできないこと


自分たちの強み、そして顧客インサイトを掘り当てたら、競合が真似しにくいことは何かを見出します。

他の企業が簡単には追随できない独自の戦略や施策を考え、実行できるかです。

3C との共通点


ここまで見てきたバリュープロポジションの考え方は、戦略のフレームである 3C と共通します。

3C は、Campany (自社)、Customer (顧客)、Competitor (競合) の3つの要素からなります。3C をバリュープロポジションに当てはめると、

  • 自分たちの強み → Company 自社
  • お客さんが求めていること → Customer 顧客
  • 競合にはできないこと → Competitor 競合

3C をバリュープロポジションという観点で捉えることで、ブランド設計の視点で抜けもれをなくせます。


ブランド構築


ブランディングを成功させるためには、単に商品やサービスの良さを伝えるだけではなく、お客さんの真の心を理解し、お客さんの心理や文脈に沿った価値提案をすることが重要です。

継続的な顧客理解


ブランド設計の中心であるバリュープロポジションを実現するためには、定期的な市場の分析やお客さんの声に耳を傾けることは欠かせません。

市場やお客さんを取り巻く環境は日々変化し、新しい技術や競合が生まれます。こうした変化に適応しつつ、お客さんの本質的な欲求、つまり顧客インサイトまでを捉え、インサイトに響く価値創出を続けることでブランドとしての魅力を高めることができます。

コミュニケーションの一貫性


ブランド設計の際には、スタッフや関連するパートナーとの意思疎通も重要です。一貫したブランドイメージを築くためには、インターナルという自分たちの中からの理解を強める取り組みが必要になります。

それによって、お客さんに対して一貫性のあるメッセージを発信することができ、お客さんとの信頼関係を築くことができるでしょう。

中長期での実行


ブランディングは一過性の活動ではありません。

市場やお客さんのニーズ、競合の動向を常に見つめながら、戦略から実行を続けることで長期的な成功を目指すものです。

地道なプロセスを繰り返すことで、時代の変化にも柔軟に対応し、お客さんの満足とブランドや企業の成長とを両立させることができるでしょう。


まとめ


今回はハウステンボスのブランド構築事例から、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • バリュープロポジションは、自社の強み、お客さんの本当の望み (顧客インサイト) 、競合にはできないことの3つから独自の価値をつくる。バリュープロポジションは 3C (Company, Customer, Competitor) と共通する

  • お客さんの理解は、表面的なニーズだけでなく顧客インサイトまで理解することが大事。顧客インサイトとは人を動かす隠れた気持ち

  • ブランディングは長期的な取り組み。市場やお客さんの環境は変わるため、変化に柔軟に対応しながらも、一貫したブランドメッセージを保つことで、お客さんの頭や心の中でブランドができる。


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。