今回は、イマーシブ・フォート東京という2024年の春に開業を予定している新しいテーマパークを取り上げます。
マーケティングへの学びとして、消費者が行き先や買うものを決めるプロセスはどのように進むのか、なぜ特定の商品やサービスが選ばれやすいのか、そして、あらためてマーケティングの役割や本質は何かを解説します。
イマーシブ・フォート東京
出典: PR TIMES
2022年3月に閉館した、東京・お台場にあった商業施設 「ヴィーナスフォート」 が、2024年の春に新たに 「イマーシブ・フォート東京」 として開業予定です。
特徴は 「没入体験」
イマーシブの日本語訳は没入感で、 これまでのテーマパークとは一線を画す完全没入体験ができるテーマパークが誕生します。イマーシブ・フォート東京の運営はマーケティング支援会社の刀です。
イマーシブ・フォート東京では、すべての来場者が物語の主役になり、1人ひとりが他の人とは異なる体験をするテーマパークになるようです。どんな世代でも楽しめるように、感動的なストーリーやホラーなど様々な世界観を持つ12のイマーシブ体験を準備しているとのことです。
目指すポジショニング
運営会社の刀の CEO の森岡毅さんが、イマーシブ・フォート東京の目指したい 「ポジショニング」 について、次のように語っていました。
―― イマーシブ体験が従来のテーマパークの感動を超えるなら、新カテゴリーとする考えはなかった?
森岡 確かに従来のテーマパークより素晴らしい、上位互換の施設と自負しているので、新カテゴリーとして打ち出す案もありました。しかしながらレジャーというジャンルは映画や散歩まで含むので、競合が多すぎる。新カテゴリーが入るのは簡単ではない。レジャー内の最大カテゴリーであるテーマパークとして展開し、選ばれる可能性を高めるのが勝ち筋でした。テーマパークのアップデート版という位置付けです。
人は余暇の過ごし方を考えるときに、頭の中で無意識にサイコロを2度振ります。1度目にテーマパークか映画か買い物かとカテゴリーを選び、テーマパークという目が出たら、2度目のサイコロで行く施設を決める。まずは1度目の選択肢に上がることで勝負に打って出るのです。
消費者のサイコロ
イマーシブ・フォート東京のポジショニングの話は、今までになかったような新しいものを普及させるときの参考になります。
消費者やお客さんが 「経験したことがない」 や 「知らない」 ものを、いかに選んでもらうかです。
買うものを決めるサイコロ
お客さんの頭の中で、買うものがどのように選ばれるかの決定プロセスでは、無意識的にも何段階かで順を追って進みます。
たとえとして 「サイコロ」 を使って捉えてみましょう。
ここで言うサイコロのそれぞれの面には、選ぶ対象候補である商品ジャンル、企業名、商品名などが書かれています。特徴は、実際のサイコロとは違い 「買うものを決めるサイコロ」 の面は均等に出るようにはなっておらず、出やすい面と出にくい面があることにあります。
出やすい面に書かれている商品やサービス、企業は、それだけサイコロを振る人 (例: 消費者) からの興味、愛着や信頼が強く、心の中での占める割合 (マインドシェア) が大きいので、サイコロを振るとその面は出やすいわけです。
[1回目のサイコロ] 上位レイヤーの決定
サイコロのたとえを続けると、何かを買うものを選ぶ際に、サイコロを振るのは1回だけとは限らないこともおさえておきたいポイントです。
サイコロを複数回で振ることが意味するのは、お客さんの頭の中の意思決定でどんな 「選択肢のレイヤー」 で形成されているかを見極めることの重要性です。
今回のイマーシブ・フォート東京の事例では、まず消費者は 「レジャー」 という大きいくくりでどこに行くか決めます。旅行、アウトドア、テーマパーク、映画、買いものなどの階層レベルです。
これらが1つ目のサイコロの各面に記載されていて、1回目のサイコロを振って決めます。ここでたとえばテーマパークというジャンルが選ばれます。
[2回目のサイコロ] 商品・サービスの決定
次に2回目のサイコロを振ります。
今度はテーマパークというジャンルの中において、頭の中の選択肢から行きたいところを決めます。2個目のサイコロ面には、イマーシブ・フォート東京以外にディズニーランドや東京ドームシティ、東京ジョイポリス、関東圏以外も候補に入っているなら大阪の USJ などが書かれています。
2つ目のサイコロを振って出た面にある場所が、最終的な行き先になります。
人の意思決定を考慮した勝負への仕掛け
ここでのポイントは、サイコロを2回に分けて振り、そして自社商品やサービスが2個目のサイコロに入っているということです。
もし1回目のサイコロで、自社が参入しているカテゴリーやジャンル (例: イマーシブ・フォート東京の場合は 「テーマパーク」 ) が選ばれなければ、そこで勝負は終わります。
消費者の頭の中の意識決定をこのように捉えているからこそ、イマーシブ・フォート東京は自分たちのイマーシブ施設を 「新しいカテゴリー」 とはあえて打ち出さず、既存のカテゴリーである 「テーマパークの1つ」 と位置づけたわけです。
1回目のレジャーの中からまずテーマパークを選んでもらって、2回目の勝負でイマーシブ・フォート東京を選んでもらうという流れです。
マーケティングの本質
マーケティングとは
では、ここまでの内容を踏まえ、あらためて 「マーケティングとは何か」 を考えてみましょう。
結論から言うと、マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 です。これが私のマーケティングの定義で、活動全般と言っているようにマーケティングを広く捉えています。
お客さんに選ばれるとは、買ってもらえる、使ってもらえる、来店してくれる、指名されることです。商品やサービスは、お客さんから選ばれ続けることによって生き残っていけます。自分たちのビジネスも存続できます。
価値かどうかはお客さんが決める
お客さんからから選ばれるのは、提供する商品やサービスに他にはない価値があるからです。
そして大事なのは、それが価値があるかは、売り手である提供者が決めるものではないということです。
価値を認識し、価値かどうか感じるのはお客さんです。提供者側が価値だと思ってもお客さんがそうは思わなければ、それは価値ではありません。
顧客インサイトまでの理解を
お客さんとの価値の認識ギャップを埋めるためには、顧客理解が不可欠です。すでに顕在化しているニーズだけではなく、奥にありお客さん自身もまだ自覚していない気持ちまでを深く掘り下げられるかです。
奥にある気持ちとは、マーケティングの専門用語で 「顧客インサイト」 と言います。顧客インサイトは 「人を動かす隠れた気持ち」 です。
お客さんの隠れた欲求や言語化できない奥にある望みや不満を指します。普段は自身で意識していないものの、そうだと気づかされれば態度が変わり、行動を起こす心理です。心のホットボタンや心のツボと言うこともあります。
終わりなき顧客理解
お客さんの理解はどこまでいっても終わりがありません。というのは、環境は少しずつでも常に変わり、それにより人々の生活スタイル、価値観、企業のビジネス状況も変わり続けるからです。
マーケティングとは 「終わりなき顧客理解の旅」 です。
ビジネスを続ける限りはお客さんの理解をやめず、お客さんから選ばれるのを偶然に頼るのではなく、意図的に選ばれる確率を高めるためにマーケティングがあります。
まとめ
今回は、2024年に開業するイマーシブ・フォート東京を取り上げ、学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
- 消費者の意思決定は複数段階で進む。まず大きなカテゴリー (例: レジャーの中からテーマパーク) を選び、次に具体的な商品やサービスを決める (例: イマーシブ・フォート東京)
- お客さんが選ぶ商品やサービスは、頭の中で強い興味や信頼、愛着を持つものほど選ばれやすい。マインドシェアが高いほど選ばれる確率は上がる
- マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 。選ばれるためには、普段は自覚していないが、そうだと気づけば態度や行動を変えるトリガーになる 「顧客インサイト」 までを捉えることが重要
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