投稿日 2024/02/14

その "不" が解消されないのはなぜ? 「おむピタ」 に学びビジネスチャンスの見つけ方

#マーケティング #顧客の不 #未解決理由

 「なぜその問題は解決されないまま、今に至るのか?」 

この視点を意識してみると、ビジネスチャンスを見つけることができます。

今回は、在宅介護の現場の "不" から生まれた介護サービス 「おむピタ」 を取り上げ、学べることを掘り下げます。

おむピタ


ご紹介したいのは 「おむピタ」 です。在宅で介護が必要な大人向けのおむつ配送サービスです。

特徴的なのは、排せつケア環境を改善するフィッティングが付いているところにあります。約60種類のラインアップの中から最適なおむつの組み合わせが提案され、自分に合ったおむつが自宅に届きます。

では 「おむピタ」 からマーケティングに学べることを掘り下げていきましょう。


その 「不」 はなぜ解決されないままなのか?


Why not yet: ビジネスチャンスの発見


多くの人にとっての 「不」 、たとえば不都合や不便、不満が残っている場合、その不は、なぜ解決されてこなかったのかという 「Why not yet」 に注目することでビジネスチャンスが見つかります。

おむピタのケースでは、大人用おむつという商品が、使い手の実情に即していないという 「不」 がありました。

おむピタの事例から学べるのは、 次のような3つの Why not yet の要因、すなわち 「その “不” はなぜ解決されないままなのか?」 を理解する着眼点です。

  • 自分が体験・経験したことがないのでわからない

  • 現場の使い方への理解の解像度が粗い。見えていない要因があるために不に気づけなかったり、解決策につながっていない

  • 作り手や売り手が良かれと思って提案・提供していることが、実はお客さんやユーザーの利用実態・ニーズと合っていない

では、3つについて、順番に 「おむピタ」 の事例に当てはめて見ていきましょう。

自分が体験・経験したことがないのでわからないから


大人用紙おむつにおける、最適なおむつが選ばれていないという 「利用者の不」 が解決されないまま残っていた1つ目の要因は、作り手の経験不足からくるものです。

働いている人はまだ自分が介護される年齢ではなく、自分が介護された体験はない人が大半です。

紙おむつの種類には、紙パンツ型、前開き型があり、身体のサイズもそれぞれで、尿量や失禁頻度、食べ物、服用している薬によっても最適な紙おむつは人それぞれで異なります。利用者にとって何を優先して選べばいいかの判断基準が売り手から示されないと、いくらお店の棚には色々なおむつが置いてあったとしても、どれを選んでいいかわからないことでしょう。

現場の使い方への理解の解像度が粗いから


2つ目の 「不」 が解消されないままだった要因は、現場の使い方への理解の解像度が粗いことです。見えていない要因があるために、不に気づかなかったり、解決策につながっていないわけです。

大人用紙おむつは、身長、体重、性別、要介護度だけでは合うサイズは実は選べません。身体の定量的な情報だけではなく、環境要因の情報も必要です。具体的には、家族が排せつケアに関わっているか、ヘルパーさんは週何回、1日何回、何時に来るか、それ以外の介護サービスをどの程度使っているのかです。

もし家族が排せつケアに関わらない場合、ヘルパーさんが朝に一度来ておむつ交換をし、夕方にもう一度訪問して交換するならば、10時間以上おむつの交換がない状況で被介護者は日中を過ごすことになります。こうした介護での状況によって同じ体型の人であっても自分に合う紙おむつは変わりますが、それが考慮されないと最適な紙おむつは選ぶことはできません。

作り手と使い手の認識ギャップがあるから


3つ目の、大人用紙おむつの不が残ったままの要因は、作り手や売り手が良かれと思って提案・提供していることが、お客さんやユーザーの利用実態・ニーズと合っていないというものです。

メーカーは、適切な時間に適切な尿量を吸収するおむつを着用することが効率的でコストも下がると考えますが、在宅介護の現場では必ずしもそうではないのが実情です。というのも、全員が全員、排せつケアに効率さを求めているかというと、そうではないからです。

実際にあった事例では、老老介護をしているある家庭では、小柄なおばあさん (妻) が大柄なおじいさん (夫) を介護していました。おむピタは、おばあさんの負担を考え、おむつ交換の回数が少なくなるように、吸収量が多い大きなおむつを提案しました。

しかし、おばあさんにとっては大きなおむつでは1人でおむつ交換をするのが大変なので、小さいおむつを使い、何回かに分けてのおむつ交換のほうがやりやすいことがわかりました。メーカー側の正論や想定と、利用者が本当に求めていることにはギャップがあったわけです。

体力のない高齢者に完璧なやり方を求めるのは、いわばメーカーのエゴだと言えるでしょう。完璧さを求めずに実態に合った提案をすることの重要性が浮き彫りになりました。


まとめ


以上のように、作り手や売り手には見えていない 「買い手の不」 や 「利用シーンの不」 を見出し、なぜそれが解決されないまま今に至っているかという 「Why not yet の構造要因」 には、ビジネスチャンスが眠っています。

では今回のまとめとして、以下の視点で掘り下げると 「その “不” はなぜ解決されないままなのか?」 を理解する着眼点になり、ビジネスへのヒントが得られます。

✓ その “不” は解決されないままになっている要因

  • 自分が体験・経験したことがないのでわからない

  • 現場の使い方への理解の解像度が粗い。見えていない要因があるために不に気づけなかったり、解決策につながっていない

  • 作り手や売り手が良かれと思って提案・提供していることが、実はお客さんやユーザーの利用実態・ニーズと合っていない


マーケティングレターのご紹介


マーケティングのニュースレターを配信しています。


気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。

マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。

レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。

こちらから無料登録をしていただくとマーケティングレターが週1回で届きます。もし違うなと感じたらすぐ解約いただいて OK です。ぜひレターも登録して読んでみてください!

最新記事

Podcast

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。