#マーケティング #顧客体験 #仕組み化
魚離れが進む日本で、18 期連続の増収を続ける鮮魚専門チェーンがあります。新潟発の 「角上魚類」 です。
角上魚類は、23 店舗という規模ながら売上高は 461 億円に達し、営業利益率は 7% です。
今回は、角上魚類の事例から 「顧客体験の設計」 と 「裏側の仕組み」 について学びます。
魚離れの時代に成長する角上魚類
出典: PR TIMES
出典: 角上魚類
角上魚類は、消費者の魚離れが進む中でも成長を続ける鮮魚専門のチェーン店です。
その成長の全体像を見ていきましょう。
■ 18 期連続増収の鮮魚チェーン
水産庁のデータによると、食用魚介類の 1 人あたり年間消費量は 2001 年度の 40.2 kg から 2021 年度の 23.2 kg まで減少しています。魚離れは統計的にも確認できる事実です。
そんな中で角上魚類ホールディングスの連結売上高は、2020 年 3 月期の 353 億円から 2026 年 3 月期には 461 億円まで伸びました。増収は 18 期連続です。
店舗数は 23 店舗で、1 店舗あたりの売上高は 18 億円超です。2023 年の報道では、全店トップの小平店 (東京都東久留米市) は売場面積約 120 坪で年商 29 億円。坪あたり売上は食品スーパーのおよそ 5 倍にあたります。営業利益率も 7% で、生鮮食品としては高い水準です。
■ 魚を買いやすくする仕組みが成長の理由
角上魚類の成長を、鮮度がいいから、安いからと片づけてしまうと本質を見誤ります。
成長の構造を理解するには、2 つの側面から見ることが有効です。お客さんから見える顧客接点での体験設計である 「表の仕組み」 と、見えない仕入れ・物流・加工・分業といった 「裏の仕組み」 です。
表と裏の仕組み
では、この表と裏の両面から角上魚類を掘り下げていきましょう。
顧客に見える表の仕組み
角上魚類の店舗は、普通のスーパーの鮮魚売場とは違った雰囲気があります。
■ 物理的な買いにくさを取り除く
消費者の魚離れの背景には、魚が嫌いという理由よりも、さばけない、調理法がわからない、面倒といった物理的なハードルがあるからだと考えられます。この意味では 「魚離れではなく魚を好きにできていないだけ」 と見ることができます。
角上魚類はこのハードルに対して具体的な解決策を用意しています。刺身盛り合わせ、寿司、惣菜、切り身など加工済み商品を幅広く展開し、店頭では三枚おろしや内臓処理の下処理サービスも行っています。ロードサイド型店舗では魚介関連の商品数は 600 点を超え、丸魚しかない昔ながらの魚屋とはまったく異なります。
角上魚類は魚そのものを売るだけではなく、魚を食べるまでの手間を下げた状態を売っているのです。
■ 心理的な買いにくさを取り除く
魚離れが起こるのは物理的なハードルによるだけではありません。この魚はどう食べるのか、どれを選べばいいのか、失敗したくないという心理的な不安も購買のブレーキになります。
角上魚類の売場には 「親切係」 と呼ばれる知識豊富なスタッフが配置されていて、会話を通じてお客さんの選択を助けています。魚は見た目だけでは品質や食べ方が判断しにくい食べ物です。だからこそ、親切係のような接客対応が来店客にとって価値になります。
角上魚類が掲げる 「買う心 同じ心で 売る心」 は、自分がお客さんならこの魚を買いたいかと考える判断基準として現場で機能していることでしょう。
■ 買いたくなる売場体験をつくる
とはいえ、物理的・心理的なハードルを下げるだけでは人はなかなか動きませんが、角上魚類の売場には、行ってみたい、何があるか覗きたいと思わせる楽しさがあります。
鮮魚売場には 50 魚種以上が並ぶことも珍しくなく、一般的なスーパーでは見かけない魚が日替わりで登場します。品揃えの変動性が来店したいという動機をつくります。当日水揚げの魚がその日のうちに並ぶ鮮度のインパクトもあり、刺身のカットがスーパーより厚いという声が消費者からはあがります。
角上魚類が 「鮮魚の百貨店」 と形容されるのは、こうした売場体験に由来します。行くこと自体が楽しい場所になっているわけです。
売場に魅力があっても、最後の一歩を踏み出すきっかけがなければ購買にはつながりにくいです。
角上魚類ではまぐろ解体実演販売や季節限定フェアを定期的に開催し、旬の食べ方の提案やおすすめの訴求で、なぜ今日この魚を買うといいのかという文脈を添えています。
■ 魚のハードルを下げ、楽しさを上げる
角上魚類の表の仕組みは、物理的・心理的な買いにくさを取り除くことと、品揃えや売場体験で買いたくなる気持ちを引き出すことの 2 つを同時にやっています。
買いにくさの除去と、買いたい気持ちの喚起という両方をやっていることで、魚は面倒だという認識が、魚は手軽で楽しいに変わっていくのです。
顧客に見えない裏の仕組み
表の体験がどれだけ魅力的でも、それを支える仕組みがなければ持続的ではありません。重要になるのが、お客さんには見えない 「裏の仕組み」 です。
角上魚類の裏側の仕組みを見ていきましょう。
■ 仕入れと調達で鮮度をつくる
売場に並ぶ鮮度の高い魚や珍しい魚種は、裏側の調達体制があって初めて成立します。
角上魚類は新潟と豊洲の 2 拠点にバイヤーを配置し、毎朝水揚げ状況を共有しながら仕入れを決定しています。仲卸業者を介さず市場から直接買い付けるため、中間コストを抑えながら柔軟な仕入れができます。近年は西日本 (淡路島など) にも範囲を拡大し、関東では出回りにくい魚種も調達しています。
バイヤーが毎日入荷情報を社内アプリに登録し、店舗スタッフが売場づくりに活かす流れも整えられています。表の仕組みで述べた品揃えの変動性は、この調達力から生まれているのです。
■ 物流が鮮度と品揃えを支える
仕入れた魚がどれだけ新鮮でも、届くまでに時間がかかれば鮮度は落ちてしまいます。
角上魚類では自社トラックで寺泊から関越自動車道経由で配送します。朝出発すれば午前中に届くため、当日水揚げの魚がその日のうちに店頭に並べられます。
出店判断にも物流が組み込まれています。角上魚類の狭山店や鶴ヶ島店の公式発表では、関越道や豊洲へのアクセス、寺泊との結節性が出店の重要要素として書かれていました。立地選定そのものが、鮮度を維持する仕組みの一部です。
■ 加工が素材を買いやすい商品に変える
表の仕組みで述べた買いやすさを可能にしているのが、裏側の加工オペレーションです。
仕入れた魚を刺身、寿司、惣菜、切り身と複数の商品形態に加工するのは、素材を生活者が買いやすい商品に変換する作業です。
この加工には売り切りの機能もあります。丸魚として売り切れないと判断した場合、店長がその場で刺身やフライに加工して売り方を変更します。こうした現場判断などにより、角上魚類は過去の取材でロス率 0.05% とされています (スーパーの鮮魚部門の平均は 7 ~ 9% 前後) 。
鶴ヶ島市の自社加工センターでは漬け魚などの自家製商品開発も行い、惣菜や漬け魚の売上は毎年高い伸びを記録しています。
■ 分業と人材育成で専門性を回す
各店舗は鮮魚対面、刺身、寿司、惣菜、マグロなど 11 部門で構成され、部門ごとに発注や育成の権限を持っています。魚は知識、加工技術、接客力が売上に直結するため、この分業が専門性を深める土台です。
2 カ月に 1 度の覆面店舗調査と 「接客マイスター」 「レジマイスター」 制度で従業員を表彰し、評価と育成をセットで回しています。
2021 年の報道では、角上魚類の労働分配率は約 55% と小売業の目安 (33% 前後) を大きく上回る一方、営業利益率は約 9% でした。人への投資が接客力と判断力を高め、ロス削減やリピーター獲得として利益に還元される好循環です。
この構造は 「仕組み化された属人性」 です。個人の技量を分業、育成、評価で支えることで、23 店舗でも高い水準を維持しています。
■ DX がアナログな鮮魚商売を下支えする
鮮魚の商売は時間との勝負です。角上魚類ではセリ原票アプリで買付・配送の事務を短縮し誤配送を削減、仕入れデータの可視化ダッシュボードで買付精度の向上も図っています。
対面販売を主力にしたアナログな売場を、裏側のデジタル化が支えています。
■ 強みを再現性ある形に仕組み化する
裏の仕組みに共通するのは、よい魚屋の強みを複数の店舗でも維持できる形にしている点です。調達、物流、加工、分業、DX を組み合わせて、個人技だけに依存しない仕組みをつくっています。
表と裏がつながる成長の仕組み
では最後のパートでは、表と裏がどう連動して成長を生み出しているかを整理しておきましょう。
■ 表の魅力は裏の仕組みから生まれる
対面販売の安心感は人材育成があるから成立し、品揃えの豊富さは 2 拠点仕入れと物流があるから実現し、加工済み商品の充実は加工オペレーションがあるから可能です。表の体験は裏のオペレーションに紐づきます。
■ 裏は表で選ばれるために設計されている
裏の仕組みはそれ自体が目的ではありません。DX も物流も、お客さんが鮮度がいい、選びやすい、また行きたい、今日はこの魚を買いたいと思うための基盤です。裏をコスト削減だけで捉えると、角上魚類の強さは見えてきません。
■ 表と裏の一体運用が成長を支えている
表の仕組みだけでは再現性がなく、裏の仕組みだけではお客さんに魅力が伝わりません。両方が噛み合い続けているから、角上魚類は連続増収が実現しています。
20 店舗超の規模を急拡大せず質を磨く戦略も、表と裏の両輪を壊さないための判断なのでしょう。
まとめ
鮮魚専門チェーンの角上魚類を取り上げ、成長を支える表と裏の仕組みについて見てきました。
学びのポイントをまとめておきます。
- 成長企業の強みを理解するには、お客さんから見える 「表の仕組み」 と見えない 「裏の仕組み」 を分けて捉えると解像度が上がる
- 表の仕組みでは、お客さんの物理的・心理的なハードルを取り除きながら、買いたくなる体験をつくる。ハードルを下げることと楽しさを上げることの両方が大切
- 裏の仕組みでは、属人的な強みを調達・物流・加工・分業・DX で再現性ある形に仕組み化する
- 表だけでは再現性がなく、裏だけではお客さんに魅力が伝わらない。両方が噛み合って初めて持続的な成長につながる

