#マーケティング #未顧客 #課題の可視化
良い商品やサービスでも、お客さんが自分の課題に気づいていなければ、そもそも選択肢には入りません。新しいサービスや馴染みのないカテゴリーほど、こうした 「課題に気づいてもらう」 ところからマーケティングは始まります。
洗濯機の分解洗浄を専門にする 「洗濯機のまじん」 も、開業当初は依頼がほぼゼロでした。そこからコミュニケーションの方法を変え、人気サービスに成長しています。
この事例をもとに、未顧客がどこで止まっているのかを捉え、課題への気づきから自分ごと化、購入への納得までをどうつくるか。集客や新規顧客獲得の施策を考えるときに使える 3 段階の見方として紐解きます。
洗濯機のまじん
出典: 洗濯機のまじん
洗濯機のまじんは、東海エネテック株式会社が運営する洗濯機の分解洗浄に特化した専門サービスです。
洗濯機のまじんの始まりは、20 代半ばの若者 3 人が、エアコン修理業の閑散期を埋める新しい仕事として始めたことでした。
閑散期から始まった事業
一般的にエアコン修理業には、夏に仕事が集中し、それ以外の季節は依頼が減るという構造的な課題があります。
家の中にあった金の卵
エアコンの仕事は夏場に偏ります。春や秋、冬には手が空いてしまう時間があり、洗濯機のまじんを立ち上げた若者たちもこの季節の波をどう平準化するかが経営上の悩みでした。
目をつけたのが、日本のほぼすべての家庭にある洗濯機です。エアコンの閑散期に活用できる仕事を探す中で、洗濯機の分解洗浄にたどり着きました。
外から見るとそれほど汚れていないように見えますが、実際に洗濯機を分解してみると、洗濯槽の裏側には黒カビや石けんカスがびっしりとこびりついていました。清掃前と清掃後の差は、見た人が思わず声を上げるほどです。
この 「見えないところに隠れた汚れ」 と、それを取り除いたときのインパクトに、サービスとしての可能性を感じたのが 「洗濯機のまじん」 の出発点でした。
無料で何台も分解した修行期間
とはいえ、いきなりお客さんの自宅に伺い、洗濯機を分解するわけにはいきません。彼らはまず、知人や家族に 「無料で分解させてほしい」 と頼み込み、練習を重ねました。
ここで壁にぶつかります。洗濯機はメーカーや機種ごとに内部構造が異なり、ネジの位置やパーツの外し方もバラバラです。組み立てに失敗して元に戻せなくなることもあったといいます。
しかし、何台も分解するうちに、共通のパターンが見えてきます。
分解して洗濯槽の真っ黒な汚れを見せると、ほぼ全員が驚く。そして清掃後には強い満足を示してくれる。この反応はどのお宅でも共通していました。
この 「驚き → 満足」 という同じ反応が、「これは事業にできる」 という確信につながったのです。
良いサービスなのに売れない壁
技術を身につけ、いよいよ事業をスタートさせます。しかし、サービスへの手応えとは裏腹に、集客は思うように進みませんでした。
広告を出しても依頼が来ない
開業後、広告を出して集客を試みますが、依頼はほとんど来ません。
サービスの内容や価格を訴求する、いわゆる従来型の広告アプローチをとっていましたが、反応はほぼゼロに近い状態が続きました。
サービスの品質には自信がある。価格も適正だと思う。それなのに選ばれない。多くの起業家やマーケターが経験するこの状況に、洗濯機のまじんも直面していたのです。
9 割の人は汚れを見たことがない
なぜ広告が響かないのか。彼らはその原因を掘り下げていきました。
たどり着いたのは、「そもそも多くの人は、洗濯機の内部がどれだけ汚れているかを知らない」 という事実です。
実際にアンケートを取ると、約 9 割の人が洗濯機内部の汚れを見たことがないと回答しました。
ここに問題の核心がありました。原因は価格でもサービスの質でもなく、お客さんが課題そのものを自覚していないことだったのです。
洗濯機クリーニングの必要性を感じていない人たちに、いくらサービスの価格や特長を伝えても、そもそも興味を持ってもらえません。広告が空振りしていたのは、こうした構造的な理由からでした。
「ほしい」 をつくるコミュニケーション戦略
課題の未認知が集客の壁だと分かった彼らは、コミュニケーションのアプローチを根本から切り替えます。
価格訴求から課題の可視化へ
訴求の軸を、サービスの価格や内容から、消費者の課題そのものの可視化と顕在化へ転換しました。
それまでのメッセージは 「洗濯機クリーニング、○○ 円で承ります」 というものでした。これを 「あなたの洗濯機の裏側、こんなに汚れています」 という方向に変えたわけです。
具体的には、洗濯機を分解して現れた黒い汚れのビフォーアフター動画を SNS に投稿しました。動画を見た人は 「うちの洗濯機もこうなっているかも」 と感じ、自分ごととして受け止めるようになります。
この発信が注目を集め共感を呼び、サービスは成長しました。テレビ番組でも特集されるなど、サービスの認知は広がっていきました。
現場の一言から生まれた無料分解診断
とはいえ、SNS での認知は広がりましたが、実際に依頼に踏み切る人はまだ限られていました。「うちの洗濯機もあんなに汚れているのかな。でもお金を出してまでは...」 と迷う人たちが大半だったのです。
ここで転機となったのが、現場で作業していた社員の一言です。
「汚れを実際に見てから、断る人っていないんじゃないですか」
この気づきをもとに導入されたのが無料の分解診断です。お客さんの家に行って洗濯機を分解し、内部の汚れを目の前で見せるところまでを無料にしました。もし汚れが少なくて不要だと判断されれば、お金はいただかず、そのまま元に戻して帰るという仕組みです。
実際には、自宅の洗濯槽の裏側に真っ黒なカビがこびりついているのを目にしたお客さんのほとんどが 「これは洗ってほしい」 と依頼します。
この仕組みがもたらした変化は、顧客層の広がりです。
それまでは、洗濯機の汚れをすでに気にしている少数の人たちが対象でした。しかし洗濯機の無料分解診断によって、「うちの洗濯機はどうなんだろう」 と半信半疑だった多くの人たちまで取り込めるようになりました。
結果として、約 1 か月待ちになるほどの人気を集めるサービスへと成長したのです。
事例から得られる学び
洗濯機のまじんの事例は、お客さんがサービスを利用しない理由には段階があること、そしてその段階に応じたアプローチが必要であることを教えてくれます。
お客さんが買わない理由
お客さんがサービスを利用しない理由を分解すると、3 つの段階が見えてきます。
1 つ目は 「課題を知らない」 という自覚の壁です。
人はえてして、そもそも自分に解決すべき課題があることを知りません。洗濯機のまじんの場合、約 9 割の人が洗濯機内部の汚れを見たことがない状態でした。この壁は、課題を可視化することで突破できます。
2 つ目は 「自分ごとになっていない」 という関心の壁でした。
情報としては知っていても、自分の問題だという実感がありません。SNS のビフォーアフター動画で 「うちもそうかも」 と感じ始めても、実際に自分の洗濯機を見るまでは行動には至りにくいものです。洗濯機のまじんが提供した無料分解診断のような体験が、この壁を越える力になります。
3 つ目は 「価格や品質に納得していない」 という納得の壁です。
課題は認識し自分ごと化されているものの、このサービスに費用をかける価値があるか迷っている状態です。洗濯機のまじんが当初やっていた広告は、主にこの壁に向けたものでした。
少なくない企業は 3 つ目の壁にばかり注力しがちです。しかし、1 つ目と 2 つ目の壁が残ったままでは、どれだけ価格を下げてもサービスの質を上げても、お客さんには届きません。
洗濯機のまじんがうまくいったのは、1 つ目と 2 つ目の壁に対して順番にアプローチしたからです。
「ほしい」 のためには 「気づいてもらうこと」 が大事
この事例から見えてくるのは、商品やサービスのことを 「買いたい」 「ほしい」 と思ってもらうためには、「気づいてもらうこと」 が重要だということです。
お客さんが課題を認識しておらず、自覚できていない段階では、いくら広告をしても相手には響きません。それよりも啓蒙のような活動が必要になります。
洗濯機のまじんにとって、SNS のビフォーアフター動画は広告ではなく、啓蒙のためのコンテンツでした。
そして無料分解診断は、お客さん自身が 「必要だ」 と判断し、納得感を得るための仕組みです。まだ 「買いたい」 という心理モードになっていない状態で売り手が無理やり売り込んでも効果はありません。お客さんが自分の目で見て、自分で決める。体験を通じて気づいてもらうマーケティングが、購買の動機をつくります。
まとめ
洗濯機の分解洗浄サービス 「洗濯機のまじん」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
学びのポイントをまとめておきます。
- お客さんが課題を知らない段階では、サービスの価格や品質を訴求しても響かない。まず課題の存在を知ってもらうことが先
- 見せることは気づきを促す。可視化によって課題が自分ごとに変わる
- 無料診断やお試しなど、お客さんが失敗することなく課題を実感できる仕組みの設計が有効
- お客さんが自ら 「必要だ」 と判断でき、納得感を持てる状態をつくることが、売り手にとって大切な仕事
