#組織論 #イノベーション #デュアル・システム
今回は、組織変革の研究で知られるジョン・P・コッターの著書『実行する組織』を取り上げます。
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本書で提唱されるのが、階層組織とネットワーク組織を組み合わせる「デュアル・システム」という組織論です。
成熟した企業が、日々の事業を着実に遂行しながら、いかにイノベーションを生み出していくのか――。これを組織という切り口から紐解きます。
なぜ「デュアル・システム」が必要なのか
デュアル・システムという組織形態を理解するには、創業期から成熟期へと企業が成長するにつれて、組織の形がどう変わるかを押さえておくとわかりやすいです。
企業の成長とともに、ネットワーク組織から階層組織へ
創業したばかりの企業では、数人から 10 人くらいの少人数のメンバーが互いに直接つながっています。コッターは、こうした状態を「ネットワーク組織」と呼びました。組織の中心に創業者という太陽がいて、周囲を創業メンバーという惑星が回る太陽系にたとえました。
ネットワーク組織では、役割や指揮命令系統はきっちりとは決まっていません。目の前に仕事があれば、その場にいる人がその都度判断し、自分ができることを引き受けます。このように、ネットワーク組織は、創業期の少人数組織をイメージするとわかりやすいです。
ところが企業が成長し、社員も仕事も増えてくると、同じやり方では組織がまわらなくなります。そこで役割ごとに部門をつくる、責任者を置き、どの部門が何を担い、誰が何に責任を持ち、どこまで権限を持つのかを決めていきます。
こうしてできるのが「階層組織」です。いわゆるピラミッド型の組織で、官僚組織とも言います。
階層組織では、計画、予算、人員配置、実行、業績評価などの一連のマネジメントを通じて、多くの人が同じ会社で働いていても業務を安定して進められます。企業が大きくなるにつれてネットワーク組織から階層組織へ移るのは自然な成長です。
階層組織だけでは、新しい機会を見つけて素早く動きにくくなる
階層組織は、決められた業務を効率よく確実に遂行することに強みがあります。しかし、外部環境の変化が速くなり、新しい市場機会や予想外の脅威が次々に現れると、階層組織には難しさが生じます。
新しいことを始めるたびに、既存の部門間で調整し、承認を取り、予算を確保し、担当を決めるわけですが、規模の大きな企業ほど関係者が増えるため、機会を見つけてから行動に移すまでに時間がかかってしまうわけです。
この問題を解決するためにコッターが提案するのが「デュアル・システム」です。大規模な事業を安定して回す階層組織を活かしながら、新しい機会を追い、変化を起こすネットワーク組織も社内につくり、2 つの組織形態を両立させるというアプローチです。
「デュアル・システム」とは何か
デュアル・システムの「デュアル」とは、階層組織とネットワーク組織という 2 つを指します。
コッターは、階層組織とネットワーク組織の違いを、マネジメントとリーダーシップの違いに当てはめて説明します。
マネジメントは、計画を立て、予算を組み、人を配置し、実行に移し、業績を確認し評価しながら、組織が計画的に成果を出せるようにします。マネジメントにより規模の大きな企業が安定して事業を続けられるようになります。
それに対してリーダーシップは、大きな方向性を示し、メンバー (フォロワー) の意欲を引き出し、新しい機会を捉え、まだ答えのない状況で人を動かします。ここでいうリーダーは CEO や管理職といった役職者に限りません。状況に応じて自ら判断し、人を巻き込みながら前へ進める人を指します。
ネットワーク組織では、普段の担当業務をこなすだけで終わらず、「今の自分に何ができるか」を考えて人は能動的に動きます。自分から役割を引き受ける人が増えるほど、新しい機会への反応は速くなります。
こうしたネットワーク組織を階層組織から切り離さず、同じ会社の中でネットワーク組織を存在させるのが、デュアル・システムの特徴です。
ネットワーク組織をいかに運営するか
とはいえ、ネットワーク組織をつくっただけで、社員が自発的に動き始めるわけではありません。
コッターは、ネットワーク組織が階層型の管理に引き戻されないための考え方として、 5 つの原則と 8 つのアクセラレータを示しました。
5 つの原則で、ネットワーク組織の土台をつくる
デュアル・システムを成功させる 5 つの原則は、次のように整理できます。
- 社内のさまざまな部門から、多くのチェンジ・エージェント (変化を主導する人) を動員する
- 社員が「やりたい」と自ら手を挙げられる環境をつくる
- 論理や数字とともに、人の感情にも働きかける
- 特定の役職者に頼らず、多くの人がリーダーシップを発揮する
- 階層組織とネットワーク組織の間で情報と活動が行き来する状態を保つ
最初の原則では、変革に関わるチェンジ・エージェントを社内のさまざまな場所へ広げます。新しい機会を見つけるには、多くの目や頭脳、人脈があったほうが情報が集まりやすくなります。
参加の仕方も特徴的です。上司から「あなたはこのプロジェクトの担当なのでお願いします」と指名される形より、社員が「自分もやりたい」と名乗りを上げる状態を重視します。自分で参加を決めた人なら、細かな指示を待たずに、自分に何ができるかを考え動いてくれることでしょう。
そしてネットワーク組織を実現するための 5 つ目の原則は、階層組織とネットワーク組織を接続させて機能させることです。ネットワーク組織が社内で孤立すると、既存事業が持つ情報や人材、資源を活かしにくくなるので、階層組織とネットワーク組織の間で情報と活動が行き来する状態を保つことが大事です。
こうした原則を日々の事業活動に落とすのが、 8 つのアクセラレータです。
8 つのアクセラレータで、変革を動かし続ける
5 つの原則がネットワーク組織の基本的な考え方だとすれば、 8 つのアクセラレータは組織や事業活動を前へ進める活動です。
- 危機感を高め、大きな機会の実現へ意識を向ける
- コア・グループをつくる
- ビジョンを掲げ、戦略イニシアチブを決める
- 志願者を増やす
- 障害を取り除きながら、戦略イニシアチブを進める
- 短期的な成果を生み、共有する
- 勢いを緩めず、さらに変革を進める
- 新しい行動を組織に定着させる
1 から 8 までを一度通過して終える手順より、複数を並行して動かし、必要に応じて繰り返す活動として位置づけられています。
たとえば短期的な成果が出た後も、そこで活動を終えません。新しい志願者を増やし、別の障害を取り除き、次の成果へつなげていくわけです。環境変化が続く限り、ネットワーク側も動き続けます。
ただし、社員の自発性に任せれば自然に回るわけでもありません。ネットワーク組織を会社の正式な活動として機能させるには、経営陣の関わり方も問われます。
経営陣が方向を示し、ネットワーク組織の自律性を促す
ネットワーク組織が自発性を重視するといっても、経営陣の関与が少なくてよいわけでは決してありません。経営陣には、ネットワーク組織の発足を公式的にオフィシャルとして認め、後ろ盾となり、階層組織との調整を担います。
本書に登場するある企業では、コア・グループと営業担当の執行役員会との会議が、通常業務の合間に組み込まれていました。コア・グループが役員に進捗を報告するような形になり、対等な意見交換が減るにつれて、メンバーの意欲も落ちていきます。
そこで経営側の関わり方を改めたとのことです。経営陣は大きな方向を示し、ネットワーク組織のことをパートナーとして信頼し、細かな活動の管理はメンバーに任せたのです。
評価や報酬についても、階層組織と同じ仕組みを細かく当てはめないほうがいいでしょう。必要な指標は各チームが活動に合わせて決め、自ら引き受けた仕事への責任と、活動への意欲を重視します。
では、社員はなぜ本来の業務を持ちながら、ネットワーク組織にも自ら参加しようと思ってもらうためにはどうすればいいのでしょうか? そこで大きな意味を持つのが、コッターの言う「大きな機会」です。
社員が自ら参加したくなる環境をつくる
ネットワーク組織への参加は、社員の自発的な意思を基本にします。自分から手を挙げる人を増やすには、「この活動に関わりたい」と思える理由が社内で共有されていることが大切です。
コッターは危機感にも質があると考えました。忙しさや焦りばかりが増える「偽の危機感」では行動が散らばりやすく、外部で起きている変化に目を向けて行動へ移る「真の危機感」を重視します。
さらに、人々の力を同じ方向へ向ける役割を「大きな機会」に持たせます。「今、私たちにはこんな機会があり、ここへ向かう意味がある」と示せば、社員は何のためにネットワーク組織へ参加するのかを理解しやすくなります。
興味深いのは、コッターが最初からビジョンや戦略目標を掲げることより、「大きな機会」を示すことを重視している点です。ビジョンやミッションは抽象的な言葉になりやすく、社員から見れば自分が何に参加するのかがつかみにくいものです。だからこそのわかりやすい機会を重視するわけです。
「機会の提言」には 3 つの要素があります。① なぜその機会があるのかがわかる論理性、② 実現したいと思える前向きな感情、③ 誰でも覚えて人に話せる明快さです。
社員が「会社から言われたからやる」と感じる状況では、ネットワーク組織も階層組織と似た状態になります。「自分もこの機会に関わりたい」と思う人が部門や役職を越えてつながり、自分にできる役割を引き受けていく環境が、ネットワーク組織を活性化させます。
企業が成長すると、目標、役割、責任、権限を明確にし、階層を通じて意思決定と実行を進めるピラミッド組織になります。大規模な事業を確実に動かすには、この階層組織が力を発揮します。
同時に、イノベーションを起こす場面では、新しい機会に気づいた人が言われる前に自ら手を挙げ、部門や役職を越えてつながり、自分にできることを引き受けて動くネットワーク型の組織が求められます。
『実行する組織』が提案するデュアル・システムは、ネットワーク組織を階層組織に接続し、成熟した企業の中にイノベーションを起こし続けるための組織論です。
まとめ
- 企業の成長に伴い、創業期の「ネットワーク組織」から、部門・役職・責任・権限を明確にする「階層組織」へ移る。ピラミッド型の階層組織により、大規模な事業を安定して運営するようになる
- コッターが提唱する「デュアル・システム」は、日常業務を確実に遂行する階層組織と、新しい機会を捉えて変革を進めるネットワーク組織を同じ会社の中で両立させる組織形態
- ネットワーク組織では、自ら参加した社員が部門や役職を越えてつながり、状況に応じてリーダーシップを発揮する。5 つの原則と 8 つのアクセラレータが活動を支える
- 経営陣は方向性や後ろ盾を示しつつ、細かな活動はメンバーに委ねる。ネットワーク組織には階層型の管理手法を持ち込まず、自発的に動ける環境を維持する
- 社員の参加と自律を促すには、危機感とともに「大きな機会」を示すといい。論理性・前向きな感情・明快さを備えた機会の提言によって、参加する意味を打ち出し共有する
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