投稿日 2020/05/26

本田宗一郎に学ぶ、顧客への向き合い方 (マーケターとしての姿勢)




今回は、マーケティングについてです。


この記事でわかること


  • 本田宗一郎のマーケティング感覚
  • 消費者の声の本質 (スマホへの不満から)
  • 効果的なマーケティングリサーチ例 (第三者的な質問)
  • マーケターの姿勢で大事なこと


この記事でわかるのは、本田宗一郎のマーケティング感覚に学ぶ、マーケターとして大事な姿勢です。

具体的には、顧客にどのように向き合えばいいのかを掘り下げています。

マーケティングのものの見方や考え方は、ビジネスで汎用的なスキルです。ぜひ記事を最後まで読んでいただき、お仕事での参考にしてみてください。


本田宗一郎のマーケティング感覚


最初にご紹介したいのは、やりたいことをやれ という本です。





この本に、本田宗一郎のマーケティングへの考え方が書かれていて、興味深く読みました。

以下は該当箇所からの引用です。

大衆は批評家である

市場調査は、ある意味で有効だと思う。たとえば、既成の製品の評判を探ろうという場合である。

だからといってそれを基礎に改良品を出して売れるかといえば、それは判らない。ましてや独創的な新製品をつくるヒントを得ようとしたら、市場調査の効力はゼロとなる。

大衆の知恵は、決して創意などは持っていないのである。大衆は作家ではなく批評家なのである。作家である企業家が、自分でアイデアを考えずに、大衆にそれを求めたら、もう作家ではなくなるのである。

大衆が双手を挙げて絶賛する商品は、大衆のまったく気のつかなかった楽しみを提供する、新しい内容のものでなければならない。大衆に求められるのは、世にあるものの批評だ。

(引用: やりたいことをやれ (本田宗一郎) )

顧客は、目に見えていたり、自覚できていることにしか批評できません。顕在的な不満で、これまでの延長で考えがちです。

この例を、初めてスマートフォンを手にした人の感想から具体的に見ていきましょう。


初めてスマホを見た人の反応


まずはこちらの動画をご覧ください。

初めてタッチパネルのスマホを手にした人たちの声です。




街頭インタビューでは、スマホへの次のような声 (不満やニーズ) がありました。


スマホへの不満
  • 携帯はボタンがあるほうが使いやすい
  • 画面に指紋がつく。タッチパネルは絶対いらない
  • iPod があるのでスマホは不要
  • スマホにはワンセグがない


もし携帯電話の作り手が、こうした消費者の声をそのまま受けとっていたら、どうなっていたでしょうか?

タッチパネル式のスマホは生活者に受け入れられないと判断され、当時の携帯電話がそのまま続けられていたでしょう。

先ほどの引用で、本田宗一郎はこう言っていました。

大衆は作家ではなく批評家なのである。作家である企業家が、自分でアイデアを考えずに、大衆にそれを求めたら、もう作家ではなくなるのである。

ではどうすれば、顧客の奥にある気持ちや潜在的な不満を知ることができるのでしょうか?


効果的なマーケティングリサーチ例


ご紹介したいのは 買い物客はそのキーワードで手を伸ばす という本に書かれていた、マーケティングリサーチの方法です。





取り上げるられている方法は、「あなたはどう思うか」 と直接尋ねるのではなく、第三者的な立場を設定した質問です。

ビーフシチューの具体例で、第三者的な質問を3パターンご紹介します。


[質問例 1] ○○ はあなたのことをどう思っていると思いますか?


本書ではハウス食品のシチューを例に、具体的に説明されています。物 (シチュー) を人にたとえてもらう質問と回答例は、以下です。

質問
 「ビーフシチュー」 が仮に意思を持っているとすれば、あなたのことをどのように思っていると思いますか?理由を含めて50字以上で自由にお書きください。

回答例
 「忙しいときにしか使ってくれない」 と思っている
 「特別な日には私の出番」 と思っている

アンケート回答者には、ビーフシチューは自分のことをどう思っているのかを考えてもらいます。

これにより、消費者がビーフシチューを潜在意識下でどのように扱っているのかが見えてきます。

回答例の1つ目 「忙しいときにしか使ってくれない」 は、「ビーフシチューはすぐに作ることができる料理」 である一方で、「手抜きをしている後ろめたさ」 が読み取れます。

2つ目の回答 「特別な日には私の出番」 は、シチューは記念日などで食べたい料理なので、日常の献立にはなりにくいというイメージを持たれています。


[質問例 2] ○○ を人間にたとえると、どのような人になりますか?


2つ目の例は、物を人間にたとえて描写してもらう質問です。

質問
 「ビーフシチュー」 を人間にたとえるとどのような人になるでしょうか?理由を含めて50字以上で自由にお書きください。

回答例
上質なスーツをまとまった老紳士
太ってにっこりとしているお母さん

1つ目の回答例 「上質なスーツをまとまった老紳士」 から、回答者はビーフシチューのことを、「フォーマルな料理」 「あらたまった気持ちになって食べる」 というイメージを抱いていることがわかります。


[質問例 3] 文章の空白を埋める質問


3つ目の例です。文章の空白を埋めてもらう質問です。

ビーフシチューが、恋人にフラれてしまった状況をイメージしてもらいます。

質問
仮にあなたが 「ビーフシチュー」 になったとします。そんなあなたは大好きな恋人にフラれてしまいました。そのフラれ文句は、「ビーフシチューさん、あなたの ( ① ) は大好きだったけれど、( ② ) が好きになれなかったんだ」 。
① と ② にはどのような言葉が入ると思いますか?それぞれ20字以上でお答えください。

回答例
① (大好きだったこと):ワインが合うようなオシャレな雰囲気
② (好きになれなかったこと):毎日家で食べる気にはなれないところ

この回答者のビーフシチューへのイメージは、ビーフシチューには特別感があるものの、日々のおかずには使いにくいという不満を潜在的に感じていることが見えてきます。


いかがだったでしょうか?

直接的に聞くのではなく、第三者的に質問をするという工夫をすれば、本人も普段は意識していない心理を掘り下げることができます。

ではあらためて、マーケターが生活者や顧客に向き合うためには、どのような姿勢でいればいいのでしょうか?


マーケターとして大事なこと


私がいつも意識したいと思っていることがあります。

それは顧客インサイトを見出す時に 「人間を理解しようとする」 です。

たとえリサーチの位置付けがサービスや商品の市場調査だとしても、根幹として持っておくのは人間理解です。

サービスやプロダクトを使うのは、結局のところは人です。表面的にプロダクトについてであったとしても、本質は人間を理解するということなのです。

もう1つ意識しておきたいのは、答えを出すのは自分であるです。

顧客の声はあくまできっかけであり、スタートポイントにすぎません

顧客から、自分が求める回答そのものを直接教えてもらうのではなく、マーケターが自分で解釈をし、自ら答えを出す姿勢が大事なのです。


まとめ


今回はマーケティングについて見てきました。

顧客の声をどう解釈するか、顧客への向き合い方マーケティングマーケターとしての大事な姿勢です。

最後に今回の記事のまとめです。


1.
顧客は、目に見えていたり自覚できていることを批評する。これまでの延長で、顕在的な不満が出てくる。
既成商品・サービスの評判を知るならいいが、全く新しいことへの答えは出てこない。


2.
相手に 「あなたはどう思うか」 と直接的に聞くのではなく、第三者的に質問をすれば、本人も普段は意識していない心理を掘り下げることができる。
質問例: ○○ (商品やサービス) を人間にたとえると、どのような人になりますか?


3.
マーケターとして大事なこと
  • 人間を理解しようとする
  • 答えを出すのは自分。顧客の声はあくまできっかけ、スタートポイント





やりたいことをやれ (本田宗一郎)





買い物客はそのキーワードで手を伸ばす (上田 隆穂, 兼子良久, 星野浩美, 守口 剛)

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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。