投稿日 2023/09/18

子ども向け運動用スマートシューズ 「デジカライズ」 。行動経済学を活かすマーケティング

#マーケティング #行動経済学 #顧客心理

お客さんの購買や利用を促すためには、どうすればいいでしょうか?

今回は 「行動経済学」 をマーケティングに活用するヒントを、スマートシューズの事例に当てはめて掘り下げます。ぜひ一緒にビジネスに役立つ新たな視点を手に入れましょう。

子ども向けの運動用スマートシューズ


出典: ASCII.jp

バンダイが子ども向けの運動用スマートシューズ 「DIGICALIZED (デジカライズ) 」 を発売しました。

専用センサーユニットを靴の中のインソールの下に入れ、子どもの足の動きをリアルタイムに解析します。専用アプリでは歩数によってストーリーが展開し、楽しみながら運動習慣が身につくことを狙っています。

アプリのコンテンツは、東京大学名誉教授の深代千之氏が監修を担当。バルクールやダンスバトルなどの運動をする 「クエストモード」 と、「だるまさんがころんだ」 「大縄飛び」 など直感的に遊べる5種類のミニゲームを収録した。

深代名誉教授は、体を動かして脳にたくさんの神経パターンを作る 「運脳神経」 (造語) の提唱者。「運脳神経の発育を促す上で、繰り返し運動することは大変重要です。ただし、やみくもに運動を繰り返すのではなく、適切に運動を繰り返せる環境を整えること = 楽しく体を動かす環境を整えてあげることが重要」 としている。

学べること


では子ども向け運動用スマートシューズ 「デジカライズ」 から、学べることを掘り下げていきましょう。

行動経済学というレンズを通して見ると、学びがあります。

行動経済学


行動経済学とは、経済学と心理学を組み合わせた学問です。

従来の経済学では、人は合理的な行動をすると考えられていましたが、行動経済学では、人は必ずしも合理的な行動をするわけではないことを前提に人間の行動を捉えます。

行動経済学には様々な理論があり、たとえば以下のようなものがあります。

  • プロスペクト理論: 人は損失や不確実性を回避する傾向がある

  • アンカリング効果: 最初に提示された情報に引っ張られ、その後の判断を下す

  • バンドワゴン効果: 人は多くの人が支持しているものを好みやすい (流れやすい) 

マーケティングへの応用


行動経済学は、ビジネスにおいて様々な場面で応用されています。例えば、マーケティングでは行動経済学の知見を活かして、消費者の購買行動を促したり、商品の価格設定をしたりしています。

先ほどの行動経済学の理論をマーケティングに応用すると、次のようになります。

  • プロスペクト理論
    損失を避けたいという人間の心理を利用して、たとえば 「今なら1,000円引き」 というお得感をする情報を提示するより、「本日で1,000円引き終了」 と損失感を出すことで購入行動を喚起する

  • アンカリング効果
    価格情報を 「通常価格10,000円のところ、今なら7,000円!」 と提示する。初めに提示された10,000円がアンカー (基準点) となり、単に7,000円と表示するより価格判断に影響を与える

  • バンドワゴン効果
    すでに多くの人に商品やサービスが広く受け入れられていることを伝える。たとえば 「100万人が利用中」 や 「SNS でバズり大人気」 といった情報を示すことで、お客さんからの商品への欲しい気持ちを高める

ご紹介したスマートシューズのデジカライズは、行動経済学の理論をうまく活用しています。

具体的には、運動を楽しむために 「即時報酬の優位性」 をうまく利用しています。子どもたちは、直接的で即時的に得られる報酬 (運動をすればアプリでゲームができること) を魅力に思います。

結果として、長期的な健康効果を高めるための運動を習慣化できる仕掛けになっています。 これは行動経済学の 「現在バイアス」 を利用しています。現在バイアスは、人が現在の利益を過大評価し、未来の利益を過小評価する傾向のことです。

現在バイアスを活用するアイデア


マーケティングでも活用するためには、すぐに実現して得られる便益を提供し、それを通じて結果として中長期的な目標達成につながるといいでしょう。

具体的には、次のような仕組みです。

  • ポイントプログラム
    お客さんが商品やサービスを利用するとポイントが付与され、集めたポイントで特典を得られる仕組みは 「現在バイアス」 を利用した例。
    目先のポイント獲得への魅力がきっかけになり、結果的に継続的な利用や購入を促すことができる

  • トライアル商品
    新規のお客さんに商品やサービスの無料トライアルを使ってもらうことで、即時の満足感を提供し、商品・サービスの長期的な利用につなげる

  • ゲーミフィケーション
    達成感や報酬を得られるゲーム要素を導入することで、お客さんを引きつけ、長期的な関与やロイヤルティを構築する

行動経済学の理論を参考にお客さんの行動を捉え、自社の商品やサービスを設計することで、より魅力的な体験価値をつくり出すことができるでしょう。

その結果として、長くお客さんでいてもらえるのです。


まとめ


今回は、子ども向けの運動用スマートシューズ 「DIGICALIZED (デジカライズ) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • 行動経済学は、人が合理的でない行動をするという前提に人間の行動を捉える

  • 例えば、損失を避けたいプロスペクト理論、最初に提示された情報が判断に影響を与えるアンカリング効果、多数派に同調するバンドワゴン効果

  • 即時報酬を魅力に感じるという 「現在バイアス」 をうまく利用し、即時の便益を提供することでお客さんの態度変容や行動を促し、長期的な顧客関係をつくる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。