投稿日 2023/09/11

心を動かすマーケティング。「ほけんの窓口」 が教える顧客インサイトとインターナルマーケティングの重要性

#マーケティング #リブランディング #顧客インサイト

自社の商品やサービスは、お客さんの心に響いていますか?提供している価値は本当にお客さんが求めているものでしょうか?

マーケティングのおもしろさは 「顧客インサイト」 を掘り当て、お客さんのインサイトにもとづく価値を世の中に生み出すことにあります。

今回は、「ほけんの窓口」 の事例から、顧客インサイトをキーワードにマーケティングへの学びをぜひ一緒に深めていきましょう。

ほけんの窓口


今回は 「ほけんの窓口」 のリブランディングの事例です。

リブランディングの背景


まずはリブランディングの背景から見ていきましょう。

堅調にビジネスを成長させてきた 「ほけんの窓口」 だが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で事態は一変した。政府は緊急事態措置として不要不急の外出を控えるよう要請し、街中からは人が消えた。中島氏 (引用者注: ほけんの窓口でマーケティング部 部長を務める中島哲嗣氏) は、「対面でのサービスを提供している我々にとっては大打撃でした。来店客数は減少し、とりわけ新規のお客様への影響が大きかったです」 と当時を振り返る。

こうした事態を打開すべく、最初に実施したのが顧客に対するヒアリングである。「ほけんの窓口」 に対する要望だけでなく、「消費者が保険をどのように捉えているか」 までを理解するよう努めた。そこでわかったことは、「お客様は保険 (加入) を “面倒くさい” と感じていること」 だったという。

 「 (こちらが考えている以上に) お客様は保険の契約手続きなどに煩わしさを感じていらっしゃる。ただし、『 (事故や火災などに備えて) 入らないといけない』という気持ちでイヤイヤ加入していることがわかりました。そうしたお客様に対して『ほけんの窓口には50種類以上の商品があり、お客様に合った商品を選んで差し上げます』といっても響きません」 (鹿毛氏 (引用者注: リブランディングを支援したマーケター / クリエイティブディレクターの鹿毛康司氏) ) 

提供価値の再定義


お客さんからの印象や見え方の実態を踏まえ、「ほけんの窓口」 の提供価値を再解釈しました。

ただでさえ外出を控えているお客様に、店舗に足を運んでもらうためには何をすべきか。鹿毛氏は 「お客様との “約束” であるブランディングを変え、店舗の役割を変えました。これまでは『保険商品を選びに行く所』でしたが、今後は『保険を勉強しに行く所』に方向転換したのです」 と説明する。

ブランディングの方向転換にあたり、これまでとは異なるプロモーション活動を行った。メディアの露出度が高いタレントのアン ミカ氏を起用し、「保険、勉強しに行こか。」 をキャッチフレーズにテレビ広告を展開。店頭にはアン ミカ氏の顔が大きく印刷されたのぼりを、「歩いていれば必ず目に入る」 ように立てた。目指すのは買い物ついでにふらりと立ち寄れる店舗作りだ。
出典: MarkeZine

抜本的変化への懸念、社長自らが全国行脚へ


リブランディングの方針は立ったものの、社内では根本的な変化に対しての不安や懸念が生まれました。

自社ブランディングを方向転換することに対し、社内では衝撃が走り、心配する声も多かったという。

 「『そもそも今までと全然違うことをやってよいのか』といった根本的な議論から、『保険を契約する場所に予約なしで来られても、かえってお客様にご迷惑がかかって現場が混乱するのでは』といった現場目線での懸念の声も上がりました」 (中島氏) 

こうした社内の懸念を払拭するため、中島氏は全国の店長を説得するために奔走した。大きな支えになってくれたのは、2022年4月に社長に就任した猪俣礼治氏だ。中島氏は当時の様子を以下のように説明する。

 「社長はブランディングの方向転換について、『これしかないんだよな』といって腹をくくってくれました。そして社長自らが全国を行脚 (あんぎゃ) し、全国店長会議を開いたり、各店舗に訪問したりして店長を説得してくれました」 (中島氏) 

社長の力を借りながら従業員に対して説いたのは 「今回の方向転換は大きなチャレンジであり、(会社のブランドを) 変化させる必要がある。ただし、顧客と真摯に向き合う姿勢は変わらない」 という姿勢だ。地道な声がけの結果、3,000名超の社員が一丸となって同じ方向を向いて進める雰囲気が醸成されたという。

 「保険商品を選びに行く所」 から 「保険を勉強しに行く所」 というブランディングの方針転換。その効果は如実に表れた。2022年9月には前年比 138% の来客数を記録。

学べること


では 「ほけんの窓口」 のリブランディング事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

マーケティングと顧客インサイト


マーケティングにおいて重要なのは、ターゲットとなるお客さんの 「顧客インサイト」 を捉えることです。

顧客インサイトとは 「人を動かす隠れた気持ち」 です。普段はお客さんは意識していないものの、そうだと気づかされると、「心のホットボタン」 が押されることで態度が変わり、行動にも影響を与える奥にある心理や本音です。

顧客インサイトについて、お客さんが直接教えてくれることはありません。というのも、お客さんは言葉にできなかったり、自覚していても本音を他人には言いたくない、あるいはそもそも気づいていない深層心理だからです。

このような顧客インサイトをマーケターは自ら発掘し、インサイトに響くような商品の魅力を価値として提案するのです。ここにマーケティングを成功させるカギがあります。

ほけんの窓口の価値提案


保険代理店である 「ほけんの窓口」 は、お客さんが保険のことを 「面倒くさい」 と感じるという、いわばマイナスの顧客インサイトを見つけ出しました。お客さんが行動を起こさない心理的障壁があったわけです。

ほけんの窓口は自らの存在意義を 「保険のことを勉強する場所」 と再定義することで、このマイナスの顧客インサイトをプラスのものへ、つまりお店に行きたくなる理由をつくり出しました。「ほけんの窓口」 はパーセプションチェンジ (お客さんからの認識や価値イメージの変容) を起こすことに成功したのです。

インターナルマーケティングから自ら変わる


この事例から学べる、もう1つ重要な成功ポイントがあります。それは 「インターナルマーケティング」 です。インターナルという社内の従業員への働きかけです。

ほけんの窓口の事例に当てはめれば、リブランディングへの社内の不安や懸念に対して社長自らが全国をまわり、直接店長や従業員にリブランディングの意義を伝える説明会を実施しました。

大きな変化を実現するためには、自分たちから変わる必要があります。

目指すべき世界観をビジョンとして描き、それを全体を貫く基本的な概念であるコンセプトに落とし込む。そして、ビジョンとコンセプトを徹底して浸透させ、1人ひとりが体現する行動を取り続ける。ここが大事なのです。

成功への道のり


なんとなく頭ではイメージはできても、具体的に行動に移し、やり続けることは容易ではありません。泥臭くて愚直な実行力が必要です。

このような一見地味な努力こそが、最終的な成功につながります。マーケティングはただの理論やテクニックではなく、理解と共感、そして行動によって形づくられるものです。

マーケティング活動の起点になるのは、お客さんの心に響き行動を喚起する 「顧客インサイト」 です。

深い顧客理解から自らの存在意義を見出し、お客さんにとっての価値に言い換えて提案する。お客さんのためには、時には自分たちからドラスティックに変化する。これらの重要性を 「ほけんの窓口」 のリブランディング事例は教えてくれます。


まとめ


今回は 「ほけんの窓口」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • マーケティングの成功のカギを握るのは、お客さんの深層心理や本音である 「顧客インサイト」 を捉え、インサイトに響く商品やサービスの価値を提案すること

  • 深い顧客理解から自らの存在意義を見出し、お客さんにとっての価値に言い換えて提案する。お客さんのためには、時には自分たちからドラスティックに変化する

  • 自分たちが変わるためには社内への働きかけであるインターナルマーケティングが大事。具体的なビジョンやコンセプトを全社に浸透させ、体現する行動を促す


マーケティングレターのご紹介


マーケティングのニュースレターを配信しています。


気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。

マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。

レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。

こちらから無料登録をしていただくとマーケティングレターが週1回で届きます。もし違うなと感じたらすぐ解約いただいて OK です。ぜひレターも登録して読んでみてください!

最新記事

Podcast

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。