缶ビールを開けて、一日の終わりの幸せな瞬間が始まる。しばらくしてふと時計に目をやると、どれくらい時間が進んでいるでしょうか?
そんな日常の一コマに注目し、サントリーは新商品をヒットさせました。
今回は 「サントリー生ビール」 を取り上げ、成功するマーケティングの秘訣を紐解きます。ぜひ一緒に探っていきましょう。
サントリー生ビール
出典: サントリー
新発売したサントリー生ビールが売れています。過去最高の立ち上がりとのことです。
サントリーが4月に発売した 「サントリー生ビール」 が好調だ。
素材の味を引き出す製造工程を3回繰り返し、時間がたっても続く味わいを追求した。他社の主力品より低く抑えた価格設定も奏功。過去20年の同社の缶ビール新商品の中で最速の発売9日で販売数量100万ケースを突破した。
サントリー生ビールの開発の背景や狙いを見てみましょう。
サントリーのビールと言えば高価格帯の 「ザ・プレミアム・モルツ」 が主力だ。標準的な価格帯には、アサヒビールの 「スーパードライ」 やキリンビールの 「一番搾り」 、サッポロビールの 「黒ラベル」 が出そろうまさに群雄割拠。サントリーがビール事業を始めて60年、この土俵に乗り込むことが長年の課題だった。
ライバルが約30年前から安定したブランドを築くなか、今の、これからの消費者に求められるビールは何か。新型コロナウイルス禍を経て、家で過ごす時間が増えた。1缶を料理と一緒にじっくり飲む習慣が根付き、飲み干す時間が18年の12分から22年には18分まで伸びていた。
「時間がたってもおいしさが続く。次の一口を飲みたくなるような後味にも工夫が必要だ」 (ビールカンパニーマーケティング本部で 「サントリー生ビール」 ブランドを担当する竹内彩恵子さん) 。主原料の麦芽とホップに加える副原料を試し、トウモロコシのでんぷん部をひきわりにしたコーングリッツを採用。飲み終わりの爽快感が続くようにした。
学べること
サントリー生ビールは、過去20年のサントリーの缶ビール新商品の中で最速の発売9日で販売数量100万ケースを突破しました。
競合となる 「スーパードライ」 (アサヒビール) 、「一番搾り」 (キリンビール) 、そして 「黒ラベル」 (サッポロビール) が存在する競争が激しい市場で、後発参入での成功はどのようにして実現されたのでしょうか?
消費者の価値観の変化
その答えは、消費者の飲用シーンから見つけ出した発見にありました。
具体的には、1缶のビールを料理と一緒にじっくりと味わう時間が以前よりも増え、飲み干すまでの時間が2018年の12分から2022年では18分まで延びていました。
背景には新型コロナウイルスの影響で家で過ごす時間が増え、おうち時間をより充実させたいという消費者の生活スタイルや価値観の変化があります。
ビールが消費者にもたらす価値は、今日も1日が終わり、嫌なこともあったりはしたけど明日もまた頑張ろうと自分を受け入れたり肯定する時間だということです。
一見すると消費者がやっていることは、食後や入浴後の晩餐でビールを飲んでいる、よくある日常の1シーンです。しかし、その時の人の心をのぞけば、1日を過ごした自分へのねぎらい、リラックスや楽しみ、明日への元気づけなどがあります。
ビールをじっくり味わう時間は、素の自分になれる大切なひとときなのです。
顧客理解からの価値転換
理解した消費者の変化をもとに、サントリーは 「飲み始めて時間が経っても、変わらない生ビールの味わい」 を追求しました。
サントリー生ビールは、ビールをじっくりと時間をかけて楽しみたい消費者にとって、プルトップを開けて時間が経ってもおいしさが続くという価値をもたらしています。他社の主力品より値段を抑えた価格訴求とともに他社の商品との差異化を図りました。
価値創出のプロセス
この事例からのマーケティングへの学びを一般化すると、次の4つのステップによって価値をつくり出せるということです。
✓ 価値創出のプロセス
- 新しい現実におけるお客さんの変化 (生活スタイルや習慣, 行動, 気持ち, 価値観) を捉える
- その置かれた環境で、これまでになかったお客さんの課題感や未解決の問題を発見する
- 問題を解決する商品やサービスを考案し、お客さんにとっての価値として提案する
- 商品・サービスを使ってもらい、お客さんに価値をもたらす
このプロセスの起点になっているのは、お客さんの生活やビジネス環境、行動や心理の変化を正確に理解することです。
顧客理解にもとづいた価値の定義、価値提案、価値の実現。この順番でお客さんへの価値を生み出します。
まとめ
今回はサントリー生ビールから、学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
✓ 価値創出のプロセス
- 新しい現実において、お客さんの変化 (生活習慣, 行動, 気持ち, 価値観) を捉える
- その置かれた環境で、これまでになかったお客さんの課題感や未解決の問題を発見する
- 問題を解決する商品やサービスをつくり、お客さんにとっての価値として提案する
- 商品・サービスを使ってもらい、お客さんに価値をもたらす
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