投稿日 2024/05/29

名古屋スイーツ 「ぴよりん」 。POP と POD からのマーケティングがかわいい

#マーケティング #差異化 #POPとPOD

今回のキーワードは POP と POD です。

略語だと P と D の違いしかありませんが、マーケティングでは2つの意味合いを的確に捉え、商品やサービスに反映していくことがビジネスを成功させるカギを握ります。

今回は、名古屋発のかわいらしいスイーツを取り上げ、POP と POD の重要性を事例から解説します。

名古屋発のひよこ型スイーツ 「ぴよりん」 


出典: ぴよりん

名古屋のスイーツ 「ぴよりん」 が人気です。

愛知県の地元食材 「名古屋コーチン」 の卵を使ったプリンをバニラの香りがするババロアで包み込み、粉末状にしたスポンジがまとっています。ふんわりとした 「ひよこ」 の形に飾り付けた生スイーツです。

ぴよりんは、軟らかさと口溶けが特徴的で、ひよこの表情が1つずつ異なるというのもユニークなお菓子です。

人気スイーツとなったきっかけ


ぴよりんは、2011年に JR 東海フードサービスが開発したスイーツです。

2019年ごろから、SNS で持ち帰りの難しさを楽しむ 「ぴよりんチャレンジ」 が話題になりました。そして2021年には将棋の藤井聡太王位が 「ぴよりんアイス」 をおやつに選んだことで、注目度が全国的に広がりました (参考記事) 。

ファンを増やす継続的な活動


ぴよりんで注目したいのは、SNS や藤井聡太さんという外部要因での人気上昇の裏で、「地道な地盤固め」 と 「コラボ施策」 に取り組んできたことです。

ぴよりんが一過性のブームとして忘れ去られないように、期間限定ぴよりんの投入や他社とのコラボ商品などを積極的に展開しファンを増やしてきました。

地道な地盤固め


ぴよりんは、名古屋駅構内の店舗を中心に販売していますが、その他にも、名古屋市内や東海エリアの百貨店やスーパー、空港などで期間限定で販売しています。

また、イベントや催事にも積極的に参加をしていて、多くの人に 「ぴよりん」 を知ってもらうことを狙っています。

このように販路を開拓し着実に確保することで、中部圏のみの販売とはいえ顧客接点をつくっています (やわらかい商品特性から通販や宅配サービスは行っていない) 。

コラボ施策


ぴよりんは、有名な企業や他社商品とのコラボレーションも多く行っています。

たとえば、伊藤園とのコラボでは抹茶やほうじ茶を使ったり、2023年1月に限定販売したコラボ商品 「徳川ぴよ康」 が登場しました。

徳川ぴよ康 (出典: 日経クロストレンド

そして2023年4月には、愛知県豊橋発祥の有楽製菓のチョコ菓子 「ブラックサンダー」 とコラボした 「ブラックサンダーぴよりん」 を限定販売しています。

ブラックサンダーぴよりん (出典: 日経クロストレンド

これらのコラボは、ぴよりんが好きな人だけではなく、コラボ相手の商品のお客さんやファンにとっても魅力的で、話題性もあります。

やわらかさは変えない固い意志


コラボ商品ではぴよりんは柔軟な発想やアイデアを展開していますが、一方で 「変えないこと」 も大事にしています。

社内外から 「ぴよりんが簡単に崩れないようにもっと硬くするべきではないか」 といった声が上がることもあるそうが、やわらかさが失われれば、もはやぴよりんではなくなってしまうと考えのもと、この点だけは今後も守っていくとのことです (参考記事) 。

ぴよりんの特徴である 「やわらかさ」 という、商品の本質部分は変えないという 「固い意思」 も持ち続けているのです。


 「ぴよりん」 に学べること


では、ぴよりんから学べることを掘り下げていきましょう。

基本要素と差異化要素


マーケティングには、POP と POD という考え方があります。

出典: MarkeZine

  • POP (Points of Parity) : カテゴリーにおいて、商品やサービスが最低限で満たすべき基本要素。他社には "負けない" こと
  • POD (Points of Difference) : 自社商品・サービスの差異化になり他とは違うユニークな価値になり得る要素。他社に "勝てる" こと

POP (Points of Parity) は、あるカテゴリーにおいて商品やサービスが最低限として満たすべき基本的な要素を指します。POP は自社だけではなく競合も同じように満たすものです。

POP はお客さんがそのカテゴリーの商品を買うかどうかを考えるときに必須の条件となります。たとえば、自動車であれば安全性、食品であれば味が POP に該当します。

一方の POD (Points of Difference) は自社商品を競合から差異化する要素です。その商品が市場においてユニークな特徴を持ち、お客さんにとって独自の価値になるので、お客さんから自社商品が選ばれる理由となります。

たとえば、他には決してないほどの高コスパ、高い技術に裏打ちされた使いやすさ、自分好みに合わせたカスタマイズ性です。

今回の事例で取り上げた 「ぴよりん」 に POP と POD を当てはめれば、POP はスイーツとしてのおいしさです。

ぴよりんの POD の要素は、

  • 愛らしいひよこがスイーツで再現されたかわいさ
  • プリンとババロアの三層構造によるユニークな食感
  • SNS で持ち帰りの難しさを楽しむ 「ぴよりんチャレンジ」 が話題になるくらいのやわらかさ
  • 様々な限定コラボ

これらが組み合わさり、ぴよりんには他のスイーツにはない POD での存在感があります。

POP があって初めて POD が活きる


POP とはカテゴリーに参入するための 「入場券」 のようなものです。

たとえば、ネット通販サービスの手数料の 「安さ」 、自動車での 「安全性」 という基本的な要求を満たさなければ、そもそも人はそのサービスや商品を買うかどうかの選択肢に入れることはないでしょう。

こうした基本的な要素である POP が満たされて初めて、POD という価値の差異化要素に目を向けてもらえるわけです。

ぴよりんはスイーツとしてのおいしさ (POP) が土台としてあるから、その上にある POD が効果を発揮します。おいしさが満たされなければ、どんなに食感がやわらかく、見た目がかわいくても、また限定コラボをしたとしても、もし食べておいしくなければ人気を呼ぶことはないでしょう。

マーケティングで見落としがちなこと


POP が備わっていなければ、商品やサービスは市場に受け入れられません。

POP があっての POD ですが、しかし、少なくないケースにおいて、POP を満たしているかの前に、差別化を追求しようとする傾向があります。

マーケティングでは商品やサービスがそのカテゴリーで最低限に求められるレベル、つまり POP を満たすかどうかの見極めが重要になります。

POP が確立された上で、POD をつくっていくことが大事であり、POP が10点満点中2点や1点の状態で POD から独自性だけを際立たせようとしても、商品全体ではバランスを欠きます。結局はお客さんから選ばれにくいものとなってしまいます。

マーケティングでは 「差異化」 に重点を置きがちですが、その前に土台にあるべき POP を見落さないように注意が必要です。POP があっての POD ということは忘れてはいけません。


まとめ


今回は、名古屋発のひよこ型スイーツ 「ぴよりん」 を取り上げ、マーケティングの概念である POP と POD を解説しました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • POP (Points of Parity) : そのカテゴリーにおいて、商品やサービスが最低限で満たすべき基本要素

  • POD (Points of Difference) : 自社商品・サービスの差異化になり、他とは違うユニークな価値になり得る要素

  • POP はカテゴリー参入への 「入場券」 のようなもの。POP というお客さんからの最低限の要求を満たし、その上で POD からの独自の価値をつくり、商品が選ばれる理由をつくる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。