投稿日 2024/05/27

市場での 「取り残された人たち」 にビジネス機会を見出したガラケー型スマホ。顧客課題と提供価値

#マーケティング #顧客課題 #提供価値

今回はユニークな携帯電話を取り上げます。

技術の最新トレンドに遅れがちな 「ラガード層」 に焦点を当て、新たなビジネスチャンスを見出した事例です。

マーケティングへの学びとして 「顧客課題と提供価値」 というテーマに解説します。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

ガラケー型スマホ


出典: Mode 1

2023年10月に発売された携帯電話の 「Mode1 RETRO II MD-06P」 は、ガラケー型スマホです。

見た目はフィーチャーフォンタイプのガラケーで、折りたたみ型でテンキー付きです。しかし中身はスマートフォンという、スマホがスタンダードな今となってはめずらしいタイプの携帯電話です。OS は Android 13 を搭載し、スマートフォン向けのアプリが利用できます。

ガラケー型スマホの 「Mode1 RETRO II MD-06P」 の位置づけは、まだフィーチャーフォンを使い続けている人が、次はスマートフォンに移行するときの 「橋渡し」 を支援するハイブリッドスマートフォンとしての役割を担っています。

携帯電話の物理キー (物理ボタン) の機能強化、サイズ感の最適化、バッテリーの改善をへて誕生しました。フィーチャーフォンユーザーにも配慮された使いやすさを追求した設計がされているのが特徴です。

✓ Mode1 RETRO II MD-06P の特徴
  • 折りたたみ型でテンキー付きの端末
  • Android 13 を搭載、Google Play で配信されているアプリが利用可能
  • 物理ボタンとタッチ操作の両方ができる
  • 戻る, ホーム, タスクボタンを物理キーとして搭載
  • サイズ感を重視し、重さは約 145g と軽量
  • バッテリー容量は 2500mAh (ミリアンペアアワー) とし前モデルから増量
  • 指紋認証機能を搭載しセキュリティを強化。セキュリティ更新をユーザーの同意を得て行う
  • フィーチャーフォンユーザーが違和感なく使えるシンプルモードがある
  • インカメラは約1300万画素。自撮りもできる
  • テザリング機能を搭載
  • FM ラジオ機能を内蔵し、イヤフォンなしで聴ける


ビジネスモデルに学べること


Mode1 RETRO II MD-06P がビジネスモデルの視点で興味深いのは、次の2つです。

  • アーリーアダプターやマジョリティでなく最後まで取り残されているラガードを想定顧客にしている
  • ビジネス機会は一時的なものであり、ゆくゆくは市場がなくなる領域に参入

この2つはいずれも一般的な新規ビジネスでよくされる考え方とは逆の発想です。

詳しく見ていきましょう。

ガラケー型スマホの顧客設定


普通ならラガードのような最後まで新しいものを取り入れない層には目を向けなかったり、近い将来になくなるであろう市場には参入しようとは思いにくいものです。

一般的に、新規ビジネスは市場の成長性や拡大性に着目し、「アーリーアダプター」 から 「マジョリティ」 をターゲットにします。

これに対して、Mode1 RETRO II MD-06P は、スマホという携帯電話のトレンドや主流にまだ乗っていない人たちという 「ラガード層」 をターゲットに据えています。ラガードの人たちは、新しい技術や製品の採用は非常に消極的であるために、ターゲット顧客としては見てもらいにくく、よって彼ら・彼女らのニーズやペインポイントは見過ごされがちです。

しかし、Mode1 はここに注目しました。携帯電話のラガード層が直面するであろう困りごと、つまりフィーチャーフォンからスマートフォンへの移行の難しさをビジネスの機会とし、解決策としてガラケー型スマホである 「Mode1 RETRO II」 を開発したわけです。

 "橋渡し" としての存在意義


携帯電話の形式でスマートフォンが当たり前になっている状況においても、一定数の人が折りたたみ式の携帯電話を使い続けています。

こうした人たちもいずれはスマホに移行すると考えられますが、最後までフィーチャフォンを使い続けてきた人にとって、いきなりスマホを使うことへの利用のハードルは思いのほか高いはずです。

だからこそフィーチャーフォンとスマホの段差の高さにおいて、階段の踊り場となるような場所を提供し、フィーチャーフォンからスマホへの橋渡しとなる役割を果たすことに存在意義があるわけです。

一過性のビジネス機会への挑戦


また、Mode1 RETRO II のビジネスが興味深いのは、そのビジネス機会が一時的なものであるという自覚のもとに展開されているであろう点です。

フィーチャーフォンからスマホに移行する人は世の中のマジョリティではもはやないので、この市場のニーズが永続的ではないことを理解しつつも、その一時的なニーズを満たすことで利益を生み出すという戦略です。ビジネスの持続可能性に関する一般的な観点から見ると挑戦的です。

一見すると参入する市場の将来性がなくても、現時点でビジネスの起点になってる 「想定するお客さんの困りごと (ペインポイント) 」 があり、他の誰も解決を図ろうとしていないと判断できれば、自社にとってはチャンスとなります。

他社が見過ごしていた隠れた市場を発見し、自分たちのビジネス機会と捉え、果敢にチャレンジしたのです。

ビジネスの起点は 「お客さんの困りごと」 


ガラケー型スマホの事例からの学びを一般化すると、ビジネスを成功させるためには、市場の成長性や将来性だけでなく、お客さんの具体的な困りごとや悩みに注目し、それらを解決することによって価値を提供することが重要であるということです。

Mode1 RETRO II は市場の隙間を見つけ、そこに存在する特定の顧客層のニーズに応えることで、ビジネスチャンスを捉えにいく好例と言えるでしょう。

  • 自分たちのビジネスは、誰の具体的にどんな困りごとを解決するのか
  • 悩みや困りごとをどのように解決するか
  • 解決によってお客さんにもたされる本質的な価値は何か

これらを明確にすることの重要性を学べる事例です。


まとめ


今回はガラケー型スマホの 「Mode1 RETRO II MD-06P」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ガラケー型スマホはラガード層という、新しいものを取り入れずその市場で最後まで残っている層にビジネス機会を見出し、ターゲット顧客にしている

  • フィーチャーフォンからスマホに移行する橋渡しとして、ユーザーが新しい技術をスムーズに採用できるためのサポート的な役割を果たす

  • マーケティングにおける学びとして、想定するお客さんの具体的な悩みや困りごとを捉え、自分たちならではの問題解決によってお客さんに価値を提供することが重要


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。