投稿日 2024/05/28

全員がマーケターを仕組み化する 「やずや」 。ドラッカーのマーケティング理論の実践

#マーケティング #顧客起点 #ドラッカー

ピーター・ドラッカーの考えによれば、市場は企業によって創られ、1人のお客さんの獲得が重要なカギを握ります。

マーケティングとは事業全体や経営の根幹にも関わる広範囲な活動ですが、マーケティングが広告や集客に範囲を限定されがちです。全社員が 「マーケター」 となり、顧客起点で事業を推進するためにはどうすればいいのでしょうか?

今回は、通販企業の 「やずや」 の事例から、マーケティングの本質と、マーケティングを全社的に浸透させ展開する秘訣を紐解きます。

全社員マーケターになる 「やずや」 の取り組み


老舗通販企業の 「やずや」 は、通販事業で36年の歴史を持ち、既存顧客の離反を防ぎ、リピート率を高めるノウハウを蓄積しています。

マーケティングの観点で注目したいのは、やずやの全社員が担当顧客を持ち、電話や手紙などでお客さんとの直接のコミュニケーションを取っていることです。一見すると効率的とは思えないやり方ですが、それがやずやが全社的に顧客起点になる源泉になっています。

新入社員も電話応対を通して 「通信販売」 のいろはを学びます。顧客コミュニケーションにおける最重要 KPI (重要業績評価指標) は、「電話応答率」 です。電話での応答率を 90% 以上にすることを目標にしています (参考記事) 。

やずやの全社員は、電話などの顧客コミュニケーションから顧客理解を深めています。

たとえ解約を希望する離反会員に対しても、対話を通じて解約の理由や他へのニーズを探ります。やずやはお客さんからの声をデータベース化し、社内で共有して改善策を話し合う 「わくわく改善会議」 を行っているとのことです。

そして、顧客理解にもとづき、たとえばお客さんに商品を届ける際に活かしています。具体的には、同梱物の中に商品の使い方や品質、やずやの思いなどを伝えるメッセージを添えています。2回目以降の送付では、他の商品の案内もお客さんに合わせて同封します。


 「企業の目的」 と 「マーケティングの役割」 


では、やずやの 「全員がマーケター」 になる全社的な仕組みから、学べることを掘り下げていきましょう。

補助線としてご紹介したいのはピーター・ドラッカーです。

企業の目的は 「顧客の創造 (create a customer) 」 


ドラッカーは著書 現代の経営 [上] の中で、企業の目的を 「顧客の創造」 と言っています。


以下は本書からの引用です。

企業とは何かを理解するには、企業の目的から考えなければならない。

企業の目的は、それぞれの企業の外にある。事実、企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。企業の目的として有効な定義は一つしかない。すなわち、顧客の創造である。

市場は、神や自然や経済によって創造されるのではなく、企業によって創造される。

ドラッカーは企業の目的をたった一言で 「顧客の創造」 と断言しています。

ちなみにもともとの英語の原文では 「the purpose of business is to create a customer」 と表現されています。注目したいのは、顧客を customers と複数形ではなく、単数形で 「a customer」 としていることです。まずは1人のお客さんからつくっていくべきであると。

顧客の創造とは1人ひとりのお客さんを獲得し積み重ねていくことで、これが企業の目的になるとドラッカーは主張しているのです。

マーケティング活動の範囲


では、ドラッカーのマーケティングの捉え方についても見てみましょう。

企業の中でマーケティングはどのように位置づけられるかというと、ドラッカーは次のように書いています。

マーケティングは企業にとってあまりに基本的な活動である。

そのため、強力な販売部門をもち、そこにマーケティングを任せるだけでは不十分である。マーケティングは販売よりもはるかに大きな活動である。それは専門化されるべき活動ではなく、全事業に関わる活動である。

まさにマーケティングは、事業の最終成果、すなわち顧客の観点から見た全事業である。したがって、マーケティングに対する関心と責任は、企業の全領域に浸透させることが不可欠である。

ドラッカーが言っているのは、マーケティングは専門化された機能にとどまらず全社的に関わる活動だということです。


全社的に顧客起点になる仕組み


ドラッカーの主張と、前半で見たやずやの事例からは顧客起点になることへの示唆が得られます。

お客さんを見る外向き姿勢


やずやでは、全社員が担当顧客を持ち、電話などの顧客コミュニケーションから得た内容を全社で共有しています。顧客情報を重視し、全社的にお客さんの方を向いた 「外向き姿勢」 になっているわけです。

顧客起点になることの重要性は言わずもがなですが、上からのスローガンで 「お客さん目線になろう」 と言うだけでは現場には浸透しないでしょう。システムが構築され、組織や会社全体で仕組みまで整えることで、お客さんに向くことが定着する環境や習慣ができます。

お客さんの声を活かす


もう1つ注目したいのは、お客さんからの声が次の顧客コミュニケーションに活かされていることです。

やずやでは、商品を送る時期やお客さんに合わせた内容のパンフレットを商品とともに送っています。

やずやが大切にすることや商品への思いを書き、どのような企業であるかを伝える内容の同梱物も作成しています。実際にやずやの社員が生産者を訪ねて生産背景やこだわりを聞いたり、お客さんから寄せられた声を紙面で紹介しています。

また、担当者がお客さんから受けた声を反映して、同梱物を新たに企画することもあります。

箱が届いて紙1枚の商品紹介ぐらいしか入っていない一般的な通信販売とは異なり、やずやの通販での顧客体験には、商品が届いたときに 「この商品を買ってよかった」 と思ってもらえるコミュニケーションがあります。

こうした取り組みを俯瞰して捉えれば、お客さんの声を商品や同梱物に反映することで、一方通行ではなくお客さんとの双方向のコミュニケーションが実現しているのです。

老舗通販のやずやが老舗として今も人気である理由は、人対人のコミュニケーションを行い、全員がマーケターとなり顧客起点を徹底していることにあります。


まとめ


今回は通販会社の 「やずや」 の事例を取り上げ、ドラッカーのマーケティング観とつなげて、学べることを見てきました。

最後にまとめとして、マーケティングの役割、全社的にマーケティングを浸透させるポイントを整理しておきます。

  • ドラッカーは企業の目的は 「顧客の創造」 であり、市場は企業によって創られると主張した。顧客の創造は “create a customer” と単数形で表現されているように、お客さん1人ひとりを獲得し大切にする姿勢が基本になる

  • マーケティングは単に販売や広告を指すのではなく、広範な活動であり事業全体に関わるもの

  • マーケティングはマーケティング部門の人だけが行う活動ではなく、社内で 「全員がマーケター」 になる全社的な仕組みをつくることで、顧客起点での事業展開や業務遂行が浸透する


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。