今回のテーマは 「ブランド構築」 です。
英語のある格言を入口に、独自ブランド資産をつくるためのポイントと秘訣を解説します。
Fake it till you make it
英語のフレーズで 「Fake it till you make it」 という言葉があります。
直訳すると 「それを成し遂げるまで偽り続ける」 となりますが、意味するニュアンスは直訳からは少し違います。
平たく言えば 「うまくいくまでは、うまくいっているフリをしろ」 です。まだ自信がなかったり経験が不足している状況で、できるようになるまでは自信があるかのように振る舞うことを意味します。
期待される能力や知見を実際に持っていなくても、それを持っているかのように立ち振る舞うことで、その間に経験を積み実力がつき、最終的にその能力や状態を手に入れることができるという考え方です。
Fake it till you make it では、自己効力感の向上やポジティブな思考を促すという捉えられ方がされます。ただし、文脈によっては、不誠実な行動や虚偽的な振る舞いを助長すると批判されることもあります。このようにフレーズは状況に応じて複数の解釈が可能ですが、一般的には肯定的な意味で使われます。
ではここからは、Fake it till you make it をマーケティングに当てはめ、ブランディングへの応用を考察していきます。
独自ブランド資産 (Distinctive Brand Asset)
マーケティングにおけるブランド構築は、「独自ブランド資産」 の創造と強化がカギを握ります。
独自ブランド資産とは?
独自のブランド資産について補足をすると、独自ブランド資産とは、ブランドが他のブランドと区別され、容易に識別されるための独自の特性のことです。
ブランド資産には、ブランド名、ロゴ、スローガンやメッセージ、パッケージデザイン、色、音、キャラクター、店舗デザイン、その企業に所属する従業員の言動やイメージなど、ブランドを連想したり特定するために人が関連付けるさまざまな要素を含みます。
自社のブランドが強力な独自ブランド資産を持っていることで、もし他社がそのブランド資産をマネしても、人は他社ブランドではなく自社ブランドを想起します。自分たちの独自ブランド資産がますます優位になるという構図です。
スターバックスの独自ブランド資産
独自のブランド資産の理解を深めるために、スターバックスを例に独自ブランド資産を考えてみましょう。
スターバックスでは以下の要素が挙げられます。
- ロゴ: スターバックスのロゴは、緑色の背景に白い海の女神のイラストが特徴的。ロゴは人々に広く認識されており、スターバックスの店舗や商品を瞬時に識別させる
- カラースキーム: スターバックスの緑色。特徴的な緑色は、他のコーヒーショップや飲食店との視覚的な違いを生み出している
- ブランド名: 「Starbucks」 という名前自体が強力なブランド資産。コーヒーショップとしての高品質なイメージや、快適な空間を提供するカフェとしての印象を持たせる
- 店舗デザインや店内の雰囲気: スターバックスの店舗は、一貫した内装デザインや快適な座席配置がされている。独特の雰囲気が、リラックスできるコーヒー体験と結びついている
- 店舗スタッフ: スターバックスの店舗スタッフの接客時の振る舞い。親切でホスピタリティがあり親近感のある対応により、スターバックスにしかない顧客体験をもたらす
- 商品パッケージ: 独特のカップデザインや商品のパッケージは、スターバックスを識別する要素
これらの資産は、消費者にスターバックスのブランドを強く印象付け、他とは明確に区別される要因になっています。
独自ブランド資産のつくられ方
では、独自ブランド資産はどのようにつくられていくのかを詳しく見ていきましょう。
ブランド連想
ブランド資産は 「ブランド連想」 を通じて形成されます。ブランド連想とは、人々の記憶の中にあるブランドに関連する認識や印象が想起されたり思い出されていくプロセスです。
人の記憶ネットワークの中でブランドにひもづく認識、印象、解釈、体験したことの連想イメージが強化されていくことで、独自ブランド資産が人の頭の中でできあがっていきます。
独自ブランド資産に一貫性があればブランド連想は強化され、お客さんはブランドを容易に思い出すことができるようになるわけです。
ブランド連想には二方向があります。
- 文脈からブランドへの連想 (文脈 → ブランド)
- ブランドから文脈の連想 (ブランド → 文脈)
前者はそのシチュエーションという特定の顧客文脈でブランドが想起されることです。シチュエーションがあり、ブランドが連想され、欲しいと思うという流れです。
たとえば、外出中にちょっとコーヒーを飲みたい、少しお店で時間をつぶしたい、休みたいとと思ったときにスターバックスを思い浮かべ、スタバのお店に行きたいと思うのが文脈からブランドの連想です。
もう1つの連想のされ方は、ブランドのロゴや広告を見たときに利用シーンやシチュエーションなどの文脈が思い出されます。ブランドを見たり聞いて、シチュエーションが思い浮かび、そのシーンになりたいという気持ちになります。
スターバックスの例では、スタバのロゴや他の人がスタバでテイクアウトしたコーヒーを飲んでいるのを見たときに、スタバのお店で休みたい、スタバのコーヒーの香りでリラックスしたいという気持ちを思い起こすことです。
錯覚資産から本物の独自資産へ
独自ブランド資産とブランド連想をつくっていくために、特に初期段階では Fake it till you make it の考え方がヒントになります。
最初は確かに張りぼてやハッタリをかましている状況かもしれませんが、あたかも強力な独自ブランド資産が既に存在するかのように振る舞うことで、先に錯覚資産 (人が持つ自分にとって都合のいい印象やイメージなどの思考の錯覚) をつくります。
その後に成果や実力を上げて実態に伴う独自ブランド資産に仕上げていくのです。
雑貨ショップの例
たとえば、ある雑貨ショップが 「ここでしかできない雑貨に出会える体験」 というイメージを構築したい場合、初期段階ではそのイメージが十分に確立されていないかもしれません。
しかし 「Fake it till you make it」 にもとづいて、店舗のデザイン、販売する商品ラインナップ、従業員の態度や服装などを通じて、まるですでにそのイメージが確立されているかのように振る舞います。
最初は錯覚資産だったかもしれませんが、お客さんの心の中に次第に独自のブランド資産が形成され、結果としてそのイメージが現実のものとなっていくことでしょう。
独自ブランド資産構築の難しさと克服方法
独自ブランド資産の構築は企業にとって重要ですが、同時に多くの困難や挑戦を伴います。
最後に、この過程で直面する主な課題と、それらを克服する方法について見ていきましょう。
✓ 差異化の難しさ
- 競合が多い市場では似たような商品やサービスが存在する中、独自性を持たせることは容易ではない
- 独自ブランド資産を構築するためには、まず何が自社を他と異なるものにしてかを明確に定義することが重要。たとえば、ブランドの物語性、価値観、デザイン、サービスなど
✓ 消費者の認知と関心の獲得
- 新しいブランドから独自性を打ち出す際には、消費者や未顧客からの関心を引き、ブランドを覚えてもらったり他と違うと認識してもらう
- あらゆる人の全員に訴求するのではなく、特定のターゲット顧客を見つけて焦点を当てる
✓ 一貫性の維持
- ブランドイメージを一貫させることは、時間が経つにつれて難しくなっていく。市場の変化、競合の動向、消費者の嗜好や価値観の変化などにより、ブランドの一貫性をいかに保つかは挑戦的なテーマ
- 何を変えて、何を変えないのかを注意深く定め、一貫したメッセージとブランドアイデンティティを保つことで、消費者の心にブランドイメージが定着することを目指す
✓ 継続的な評価と調整
- 市場の変化に合わせて定期的にブランド戦略を評価し、必要に応じて顧客文脈に合うようにブランドの再解釈や見直しを行う
- 独自ブランド資産についても、市場や顧客からのフィードバックをもとにを最適化していく
独自ブランド資産の構築は、一朝一夕に成し遂げられるものではありません。だからこそ、これらの視点から着実に取り組むことで、長期的なブランド価値を築き上げることができるでしょう。
まとめ
今回は 「独自ブランド資産」 をキーワードに、ブランドについて解説しました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 「Fake it till you make it」 とは、初めてのことなどでまだ自信がない状況でも、できるまで堂々と振る舞うことで、その間に経験を積み実力がつき、最終的にその能力や状態を手に入れることができるという考え方。ブランディングにおいても、はじめは 「錯覚資産」 を積み上げ、次第に本物の 「独自ブランド資産」 に変えていく
- 独自ブランド資産とは、ブランドが他ブランドと区別され容易に識別されるための独自の特性のこと。ブランド名、ロゴ、スローガンやメッセージ、パッケージデザイン、色、音、キャラクター、店舗デザイン、その企業に所属する従業員の言動やイメージなど
- ブランド資産は 「ブランド連想」 を通じて形成される。ブランド連想とは、人の記憶の中にあるブランドに関連する認識や印象が思い出されていくプロセス
- ブランド連想には二方向があり、① 文脈からブランドへの連想 (文脈 → ブランド) 、② ブランドから文脈の連想 (ブランド → 文脈) 。人の記憶ネットワークの中にブランドにひもづく認識、印象、解釈、体験したことの連想イメージが強化され、独自ブランド資産が人の頭の中でできあがっていく
- 独自ブランド資産を効果的に利用することで、競合からの差異化やお客さんから記憶に残り思い出されやすいブランドになる
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