投稿日 2024/05/20

冷凍食品レストランに学ぶイノベーションを生み出すカギ。既成概念に挑み、外部の視点でビジネスを変革する

#マーケティング #イノベーション

実は豊富な経験と知識が、新たな可能性を阻んでいるかもしれません。

では、どうすればその枠を超えて、ユニークなアイデアや、革新的なソリューションをつくることができるのでしょうか?

今回は、冷凍食品のレストランというユニークな飲食店ビジネスの事例から、既成概念に挑み、イノベーションを促すための秘訣を探ります。

冷凍食品が食べ放題のレストラン


ユニークな飲食店の事例を2つご紹介します。

期間限定 「チン!するレストラン」 


出典: 食品新聞

冷凍食品とアイスクリームが食べ放題のレストラン 「チン!するレストラン」 が、期間限定でオープンしていました (2022年10月8日 ~ 23日) 。

場所は東京・秋葉原のヨドバシカメラマルチメディア Akiba で、8階のレストラン街でした。

約40メーカーが約200品目 (冷凍食品約150種類, アイスクリーム約50種類) を提供し、チャーハン、麺類、ハンバーグ、グラタン、から揚げなどを制限時間内に好きなだけチンして食べられるというレストランでした。

出典: ITmedia

午前11時 ~ 午後5時はランチタイムで90分制、午後5時 ~ 9時まではディナータイムで120分制でした。料金はランチタイム1人1500円、ディナータイムは1人2500円でした (小学生以下は無料, 中高生は半額) 。

期間限定での 「チン!するレストラン」 を主催したのは日本アクセスです。食品の卸売業を手掛けている総合食品商社で、チルド品や冷凍食品を幅広く扱っています。

2013年から冷凍食品とアイスクリームの人気ナンバーワンを決める 「フローズン・アワード」 を開催していたり、公式サイトでは各商品のこだわりや開発の思いを動画で配信しているユニークな会社です。

CCC のレンチン食堂


日本アクセスが開催した 「チン!するレストラン」 は2週間の期間限定でしたが、常設店としてやってもニーズはあると思っていました。

我が意を得たりと思ったのは、TSUTAYA や T ポイント、他には蔦屋 (つたや) 家電を生み出したカルチュア・コンビニエンス・クラブ (CCC) が新規事業として、2023年12月に 「レンチン食堂」 を大阪市にオープンしました。冷凍食品の食べ放題の飲食店です。


冷凍食品は200種類以上あり、中堅規模の食品スーパーと同程度の品ぞろえを冷凍食品で用意しています。

利用は時間制で45分です。料金は通常プランの場合、ソフトドリンクの飲み放題も込みで1200円で、45分の制限時間を超えると、15分ごとに600円がかかります。アルコール飲み放題になる1450円のプランもあります (15分ごとの超過料金は725円) 。

パスタやチャーハンのような主食から、唐揚げのようなサイドディッシュ、あるいはお酒のおつまみになるものなど、豊富な種類の冷凍食品を好きなだけ食べられます。気になったり食べたいと思う冷凍食品をセルフで選び、利用者自身が電子レンジで加熱調理します。

冷凍食品に加えて、コンビニやスーパーで売られているアイスも食べられます。


イノベーションへの学び


日本アクセスの 「チン!するレストラン」 、CCC の 「レンチン食堂」 は、冷凍食品だけ、それもスーパーやコンビニなどで売られている冷凍食品の商品を中心に料理メニューを提供しています。こうしたスタイルは、今までありそうでなかったユニークなお店です。

あらためて興味深いのは、日本アクセスという卸業の会社や CCC という飲食業界とは全く異業種の企業が、冷凍食品の飲食店を展開したことです。

冷凍食品を食べ放題とする 「チン!するレストラン」 と 「レンチン食堂」 は、飲食業界におけるイノベーションの事例として捉えることができます。

外側の世界から生まれるイノベーション


伝統的なレストラン業界の枠組みを超え、お客さんに新たな食体験を提供することで、新しい顧客価値を生み出しています。

イノベーションは、業界の外側、いわば 「辺境の地」 からもたらされることがあり、業界の経験や既成概念に縛られない新鮮な視点が、既存のビジネスモデルを変えていくことを示しています。

ご紹介した 「チン!するレストラン」 と 「レンチン食堂」 の事例から学べるのは、業界の常識にとらわれず、お客さんが直面している問題やニーズを根本から解決する方法を模索することが大事だということです。

顧客課題と社会課題の両方を見増える


2つの冷凍食品の飲食店では、忙しい現代人が求める手軽さと早さ、そして多様性を兼ね備えた食事の提供方法を見出しました。

単に冷凍食品を食べ放題にしただけではなく、お客さん自身が選んだ冷凍食品をチンすることで、食事の準備というプロセスにおいても一種の楽しみや参加感を生み出しています。こうした顧客参加型の仕組みが顧客体験を豊かにするとともに、運営側のコスト削減や効率化にも寄与しています。

また、冷凍食品のレストランは、持続可能性という観点からも示唆を与えてくれます。

冷凍食品は保存が利き、廃棄率を低下させることができるため、飲食店にとってコストの削減にも貢献します。また、お客さん自身が調理を行うことで、ホールスタッフを少くできるという人件費の削減にもつながります。

冷凍食品の食べ放題レストランは、食品ロス削減という社会的課題に対する実践的な解決策を提供するものであり、ビジネスが社会的責任を果たしながら、新たな顧客価値を生み出しているのです。

既存の枠組みから抜け出す


今回の2つの事例からの学びを一般化すると、業界における常識や既存の枠組みに挑戦し、新しい視点でビジネスモデルを再考することの重要性です。既存の枠組みから抜け出すという思考の 「Out of the box」 です。

経験や知識が豊富であることは、ビジネスにおいてはアドバンテージですが、同時に新しい可能性を見出すことを妨げる要因にもなり得ます。よって、外部からの刺激や異分野・異業種からのアイデアを積極的に取り入れることが、イノベーションを生み出すカギとなるでしょう。

冷凍食品を中心とした食べ放題レストランは、ビジネスの可能性を広げるためには従来の考え方にとらわれず、顧客ニーズや社会的課題に対して新しい解決を示すというイノベーションの観点から学びがあります。


まとめ


今回は、冷凍食品をチンする食べ放題のレストランの事例から、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • イノベーションは、業界の外側の 「辺境の地」 からもたらされることがあり、業界の経験や既成概念に縛られない新鮮な視点が、既存のビジネスモデルを変える

  • その業界での経験や知識、ノウハウが豊富にあることは、ビジネスにおいて強みだが、同時に新しい可能性を見出すことを妨げる要因にもなり得る

  • 業界の常識にとらわれず、お客さんが直面している困りごとやニーズを根本から解決する方法を模索することが大事。外部からの刺激や異業種からのアイデアを積極的に取り入れるといい

  • 業界における常識や既存の枠組みに挑戦し、新しい視点でビジネスモデルを再考することで、イノベーションを生み出そう


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。