#マーケティング #顧客文脈 #提供価値への言い換え
自社の商品やサービスが優れているのに、なかなかお客さんに響かないと感じたことはないでしょうか?
実は、少なくない企業がこの課題に直面しています。問題の本質は、お客さんの視点に立てていないことかもしれません。では、どうすればお客さんの心に響くマーケティングができるのでしょうか?
今回は、ある起業支援サービスの成功事例から、効果的なマーケティングの全体像と、お客さんの心をつかむ6つのステップを解説します。
弥生の起業支援サービスとブランディング施策
弥生株式会社は、バックオフィス業務をサポートする 「弥生シリーズ」 で知られる企業です。
起業家向けのサービス拡充に力を入れており、2017年に 「弥生のかんたん会社設立」 を、2021年には 「起業・開業ナビ」 をリリースしました。これらのサービスは、起業にともなう準備や手続きをワンストップで進められる便利なツールとして提供されています。
弥生の課題感
弥生のかつての課題は、これらの起業支援サービスの認知度が十分ではないことでした。
業務支援領域では 「弥生会計」 をはじめとする製品が広く知られていましたが、起業支援サービスにおける弥生の認知度はまだまだでした (参考記事) 。
ターゲット顧客と顧客文脈
弥生はこの課題に取り組むため、広告代理店の Hakuhodo DY ONE と組んで、ブランディング戦略の立案に着手しました。リサーチを行い、ターゲットとなる顧客像を分析しました。
ターゲット顧客として狙ったのは 「『起業』という言葉にあまりピンとこない人」 です。
この洞察にもとづき、弥生は 「起業」 ではなく 「独立」 という言葉を中心に価値提案をする方針を採用しました。
「起業をして一発当てたいと考えるアグレッシブな人よりは、「自己実現を目指したい」 や 「公私ともに充実させたい」 と考えている人を想定し、そうした人たちの顧客文脈によりフィットするのは 「独立」 という判断からです。
Web CM 「ブルー、独立する。」
この方向性を具体化するため、弥生は2023年に初のブランディング施策として Web CM 「ブルー、独立する。」 を制作し、公開しました。
この CM のストーリーは、戦隊ヒーローの 「ブルー」 が主人公として起業を志すという内容です。
CM は、戦隊ヒーローを模した主人公 (ブルー) が、他のメンバーとともに日夜正義のために戦う傍ら、独立を志す場面からスタートします。
ブルーは、起業から独立する方法について書籍などで知識を得ますが、実際の事業計画書の作成や創業融資といった場面で知らないことの連続に、心が折れそうになります。そんな時、起業をサポートする弥生の各種サービスと出会い、自分の夢であった独立開業を叶えるといったストーリーになっています。
弥生が戦隊ヒーローのブルーを選んだ理由は、戦隊ヒーローの中でブルーのキャラクターが担う真面目や信頼などのイメージが、弥生ブランドイメージと重なるからでした。また、青色は弥生のブランドカラーとも一致しており、視覚的な一貫性もあります。
CM の成果
CM は成果を上げました。Web CM の公開から2ヶ月で3,000万回の再生を達成。76% という高い視聴完了率を記録しました。
さらに 「起業 = 弥生」 や 「弥生の起業支援サービスは信頼に足る」 という認知を獲得でき、サービスへの興味関心や利用意向も高まったとのことです (参考記事) 。
学べること
では弥生の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
マーケティングは商品やサービスを売るための手法としてだけではなく、お客さんが直面する問題やニーズに対して、最適な解決策から価値を提供する全体的なプロセスです。
この文脈で、弥生が展開した 「ブルー、独立する。」 の Web CM は、マーケティングがどのようにお客さんからの期待を高め、実際の行動を促すかという点で示唆に富んでいます。
顧客のペルソナを明確にする
弥生の事例では、まず独立を志す個人をターゲット顧客として設定しました。
これは単なる漠然とした顧客層の選定ではなく、詳細なリサーチと分析にもとづいた決定でした。実際に起業を考えている人や起業経験者へのインタビュー、第三者機関の調査、社内の起業プロジェクトメンバーの意見など、多角的な視点から顧客像を描き出しています。
マーケティングへの方針としてポイントになったのは、「起業」 という言葉が持つ重みやプレッシャーを感じさせずに、もっと身近で現実的な 「独立」 という言葉を選んだ点です。ターゲット顧客が自分の状況をどのように捉えているかを理解し、顧客文脈に合わせたコミュニケーションを行うことが成功へのカギとなります。
顧客が抱える問題や課題を洗い出す
次に重要なのは、そのお客さんの置かれた状況や抱えている問題、課題感を見極めることです。
弥生の事例では、ターゲット顧客として想定した人たちが 「起業」 という言葉に対して感じる違和感や不安に着目しました。
独立を考える人は、新たなスタートに際して多くの不安や手続きの煩雑さに直面します。弥生はこれらの課題を把握し、一連の手続きをスムーズに進めるサポートを提供することで、お客さんの不安を軽減することを目指しました。
顧客の問題解決に寄り添う顧客価値の定義
洞察にもとづいて、弥生はお客さんの問題を解決する方法を考案しました。具体的には 「起業」 という言葉ではなく、「独立」 という言葉を中心に据えたコミュニケーションを採用しました。
独立という言葉は、想定するお客さんにとって起業よりもより身近で、堅実なイメージを持つものです。独立と表現することでお客さんの心理的なハードルを下げつつ、弥生のサービスが持つ安心感や信頼感というブランドイメージとも合致させることを意図しました。
弥生のマーケティングの中心には、お客さんが直面する問題を解決するという明確な価値提案があります。
弥生の場合、「独立を支援する存在」 として自社を位置づけました。これは事務手続きの支援にとどまらず、大切なお客さんの新たな人生の一歩を後押しする心強い味方となる価値提案です。
顧客の心に響くコミュニケーションの展開
こうした顧客価値をお客さんに伝えるために、お客さんが感じる不安や期待に直接訴えかけるメッセージに落とし込みました。Web CM では 「ブルー、独立する。」 というストーリーを通じて、独立のプロセスを支援し頼れるパートナーとしてのイメージを強化しました。
戦隊ヒーローの 「ブルー」 というキャラクターを主人公にし、お客さんが抱える孤独感や不安を和らげると同時に、独立という大きな一歩を踏み出す際の心強い存在として弥生のサービスを位置づけました。
ブルーという色には弥生のブランドカラーに合致するだけでなく、信頼と安心の象徴という意味も込められています。同じヒーロー像でも強いリーダータイプのレッドではなく、ブルーを選んだのは興味深いです。
マーケティングの全体像
弥生からの学びを汎用化すると、マーケティングの全体像が見えてきます。
- 想定するお客さんを決める
- お客さんの置かれた状況や抱えている問題、課題感を見極める
- お客さんの問題を解決するために、課題に対処する方法をつくる
- 自分たちの商品やサービスがお客さんにもたらす価値を定義する
- その価値をお客さんの文脈に沿った言い方やメッセージに変えて顧客価値を訴求する
- お客さんに自社商品を選んでもらい、顧客価値を実現する
このように、お客さんからの期待醸成と実際の行動をつなげるためには、お客さんの抱える具体的な状況と課題を理解し、顧客文脈に合った 「価値定義」 、「価値訴求」 、そして 「価値実現」 とつなげていくことが大事です。
まとめ
今回は、弥生の独立支援サービスの事例から、学べることを見てきました。
最後にポイントのまとめとして、マーケティングの全体像です。
- 想定するお客さんを決める (ターゲット顧客設定)
- お客さんの置かれた状況、抱えている問題、課題感を見極める
- その問題を解決し、課題に対処する方法をつくる
- 商品やサービスがお客さんにもたらす価値を定義する
- 顧客価値をお客さんの文脈に沿った言い方やメッセージに変えて、魅力となるように訴求する
- お客さんに自社商品を選んでもらい、顧客価値を実現する
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