投稿日 2024/11/06

商品を 「雇う」 発想で顧客理解を深める。ジョブ理論で解き明かすお客さんの深層心理

#マーケティング #ジョブ理論 #顧客理解

スーパーでなんとなく手に取った商品、ついポチってしまった衝動買い。私たちは、一体なぜ 「その商品」 を選んでいるのでしょうか?

機能やスペック、価格はもちろん、別の理由が隠されているかもしれません。

 「ジョブ理論」 は、そんな人の購買心理の謎を解き明かすカギとなります。ジョブをとらえることで、商品そのものではなく、その奥にあるお客さんの真のニーズを理解することできます。

では、ジョブとは具体的にどのようなものなのでしょうか?そして、どのようにマーケティングに活用すればいいのでしょうか?

ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

ジョブ理論


ジョブ理論とは、マーケティングにおいて 「お客さんが特定の状況で達成したい進歩や解決したい課題」 に焦点を当てる考え方です。

ジョブの定義は 「ある特定の状況で人が遂げたい進歩 (procress) 」 で、もともとの定義では、次のように表現されました。

    the progress that the customer is trying to make in a given circumstance — what the customer hopes to accomplish. This is what we’ve come to call the job to be done.

    ある状況において顧客が行おうとしている進歩、つまり顧客が達成したいと考えていること。これが、私たちが 「やるべき仕事 (job to be done) 」 と呼ぶようになったものだ。


英語の Jobs to be done を日本語に訳すと 「済ませたい用事」 や 「片付けたい仕事」 となります。

商品はジョブを完了する "ワーカー" 

ジョブ理論で特徴的なのは、商品やサービスとはジョブを完了するために 「雇う (hire) 」 と表現することです。商品やサービスはジョブのために働く "ワーカー" ととらえるわけです。

この考え方の根底には、お客さんが商品やサービスを購入する本当の理由は、その商品やサービスが欲しいからではなく、商品を使って達成したい進歩や解決をするためという視点があります。

たとえば、人がホームセンターでドリルを購入するのはドリルそのものが欲しいからというよりも、ドリルを使って自宅の部屋の壁や家具に穴を開けて、DIY を完了させたいからです。ドリルは 「穴を開ける」 というジョブを完了するためにワーカーとして雇われる存在です。

このように、商品やサービスのことをお客さんのジョブを達成するための手段として捉えることが、ジョブ理論のポイントです。

ジョブが生じる 「状況」 も理解する

ジョブ理論を実践する上で重要なのは、ジョブそのものだけでなく、そのジョブが生じる背景となる 「状況」 も理解することです。

お客さんがどのような状況に置かれているからそのジョブが生じているのかを理解することで、お客さんがなぜそのジョブを遂行したいのか、その背景にある動機やニーズを深く掘り下げることができます。

たとえば、ある人が、健康的な食生活を送りたいというジョブを持っているとしましょう。その背景には、健康診断の結果が悪かったことや、自分だけではなく家族の健康も良くしたいという気持ちがあるかもしれません。

状況を理解するためには、日常生活やライフスタイル、価値観、困りごとなどを詳細に観察し、分析から洞察を得ます。お客さんが直面している具体的な問題点や、解決にあたって課題を対処するためにどんな方法を模索しているのかが明らかになります。

こうした顧客理解をもとに、お客さんのジョブをより効果的に達成できる商品やサービスを提供することが可能となるわけです。

ヨーグルトでジョブ理論を解説


では、ヨーグルトの例を用いてジョブ理論をさらに深掘りしてみましょう。

ジョブは?

ヨーグルトがとらえるジョブのひとつに、「お通じをよくする」 があります。

このジョブが生じる背景となる状況は、たとえば食事制限をしていて食事量を減らしたことで便秘気味になっていることが考えられます。

この状況に対して、消費者はお通じをよくするために何らかの解決策を求めます。

既存のワーカーの "不" は何か

ヨーグルトはワーカーとして雇われる可能性がありますが、他にも野菜ジュースや便秘薬といったワーカーが雇用の選択肢に入ってきます。

ジョブ理論では、お客さんがジョブを解決するための現在の方法が機能しているかに注目します。現在の方法として既存のワーカーがその役割を十分に果たしていない場合、それはなぜなのかを見極めることが大事です。

たとえば、「以前は便秘薬を使っていたけれど、今はあまり使っていない」 という人がいたとしましょう。その理由が 「便秘薬はお腹が痛くなるから」 だとすると、ここに新しいワーカーとして雇ってもらうためのヒントがあります。

より良いワーカーの条件 (これを 「ジョブスペック」 と言います) としては、食品から食物繊維を摂取できお通じを良くしつつ、お腹が痛くならないことが求められます。

便秘薬以外の他のワーカーの候補としては、食物繊維を多く含む野菜をたくさん食べるという選択肢があるでしょう。しかし 「大量の野菜を毎日食べるのは大変」 という別の困りごとがある場合、これを解決するワーカーが選ばれる可能性が高いわけです。

このように、ジョブの観点から状況と望んでいること、避けたいことなどの顧客文脈を理解することで、自社商品やカテゴリーだけの狭い視点から離れ、俯瞰的にお客さんが本当に求めていることを見出すことができます。

ジョブ理論の有効活用


一般的には、商品やサービスの特性や特徴に焦点を当てることが多いですが、ジョブ理論ではお客さんの視点からその選択の背景を、「状況」 と 「ジョブ」 というレンズを通して深く掘り下げます。

お客さんの本当のニーズや望む進歩は何かを理解し、顧客理解に応じた価値を提供することを目指します。

商品開発やマーケティングへの活用

ジョブ理論を活用することで、より効果的な商品開発やマーケティング戦略を立てることができます。

そのためには、まずはお客さんのジョブを理解することからです。お客さんが直面している具体的な問題点、対処したい課題、そのときの状況を理解することで、解決策としてどのような商品やサービスが求められているのか、つまり雇われるワーカーの条件が見えてきます。

ジョブを解決するためにはどうすればいいかという顧客目線になれ、お客さんの望みに直接応える商品を開発することができます。

顧客関係構築と市場変化への適応

このようなジョブ理論を活用するアプローチは、お客さんに対して価値を提供するだけにとどまらず、お客さんとの関係を深めることにも貢献します。

また、ジョブ理論を実践することで、市場の変化に柔軟に対応することができます。

お客さんのジョブや状況は時とともに変化するものです。ジョブ理論のアプローチを取り入れることで、お客さんの新しいニーズや状況を把握し、それに応じた商品やサービスを提供することができるでしょう。

ジョブ理論は、お客さんの真のニーズを理解し、顧客理解にもとづいた価値をもたらすための強力なツールです。

お客さんのジョブを中心に考えることで、自社の商品やサービスによって、お客さんが求める "進歩" を支援することが可能になるわけです。それにより、顧客満足度を高め、長期的な関係を築けるでしょう。

ジョブ理論を活用することで、企業はよりお客さんに寄り添った商品開発やマーケティングを展開し、市場での競争優位性を確立することができます。

まとめ


今回は、マーケティングの概念である 「ジョブ理論」 を解説しました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ジョブとは 「人がある特定の状況で遂げたい進歩 (progress) 」 。ジョブ理論で特徴的なのは、商品やサービスのことをジョブを完了するために 「雇う (hire) 」 と表現すること。商品やサービスはジョブのために働く "ワーカー" ととらえる

  • ジョブ理論を実践する上で重要なのは、ジョブそのものだけでなく、そのジョブが生じる背景となる 「状況」 も理解すること。状況を把握することで、お客さんがなぜそのジョブを遂行したいのかを理解できる

  • ジョブ理論を活用することで、お客さんの真のニーズをジョブの視点で理解でき、顧客視点に立った商品開発・マーケティング、長期的な顧客関係の構築、そして市場での競争優位性の確立につながる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。