投稿日 2024/11/08

NTT データがカプセルホテル事業に参入。目的と手段を逆転させる発想法

#マーケティング #目的と手段

ビジネスにおいて、「常識」 にとらわれていないでしょうか?

従来の枠組みや固定観念に縛られることなく、新たな視点から捉え直すことで、新しいチャンスが生まれます。

今回は、NTT データのカプセルホテル事業という一風変わった取り組みをご紹介します。なぜ IT 企業である NTT データが宿泊業に参入したのか、その狙いとは何か?

事例から、マーケティングに活かせる学びを紐解きます。

NTT データがカプセルホテル事業に参入


出典: NTT DATA

NTT データは、IT ソリューション企業です。そんな NTT データが、新たにカプセルホテル事業に参入しました。

 「ナインアワーズ品川駅スリープラボ Powered by NTT DATA」 は、JR 品川駅近くに2024年8月9日にオープンしました。

狙いは睡眠データの収集

カプセルホテルでは宿泊者の睡眠データを取得し、解析することを目的としています。

70床の男性専用のカプセルホテルで、宿泊者の 「睡眠解析」 を行うための様々なセンサーが備えられています。赤外線カメラ、集音マイク、体動センサーを利用して、宿泊者の睡眠時間や寝返り、心拍数、呼吸停止時間などのデータを取得します。

宿泊者は専用機器を装着することなく、普通のカプセルホテルと同じように宿泊するだけですが、NTT データは宿泊者の睡眠データを各種センサーによって得ることができます。宿泊者は、自身の睡眠状況をチェックし、生活習慣の改善を意識するようになれたり、医療機関を受診する必要性に気づけます。

事前の PoC と将来構想

NTT データはカプセルホテル事業に参入するにあたって、社員をモニターとして PoC (Proof of Concept コンセプト実証 (試作開発に入る前段階の検証プロセス) ) を実施しました。

PoC から、NTT データはカプセルホテル宿泊者の意識と行動の変化、そして収集データの有用性を確認しました。今後は、医療機関や寝具メーカー、食品メーカーなどと連携し、睡眠データを活用した新たなビジネス機会を模索するとのことです。

NTT データは2030年までにヘルスケア関連で300億円の売上を見込んでおり、2027年にはグローバルで1000万人のデータ取得を目指しています。

NTT データからの学び


では NTT データのカプセルホテル事業参入の話から、学べることを掘り下げていきましょう。

主従関係を逆にしたビジネスモデル

ビジネスではお客さんの情報を集め、顧客情報を活用することは一般的な手法です。

通常のビジネスにおいては、顧客情報は売上拡大や事業成長のための手段と位置づけられています。つまり、主従関係で言えば顧客情報の収集が 「従」 、ビジネスの成長がメインとなる 「主」 となります。

しかし、NTT データのカプセルホテル事業は、この一般的な主従関係を逆転させているという点で興味深い事例です。

NTT データは、生活者の睡眠データの収集を目的とし、その手段としてカプセルホテル事業に参入したわけです。特定のデータを収集すること自体を目的とした、新たなビジネスモデルを構築しようという試みです。

過去の失敗の教訓を活かす

睡眠データを集めたいのであれば、一般消費者向けの睡眠トラッキングアプリを開発し、リリースするという選択肢も考えられます。

しかし、NTT データはこのアプローチは選びませんでした。

過去に食事データ収集を目的としたアプリでの失敗経験があったからです。以前の食事データ収集では、ユーザーがアプリに毎日食事内容を記録することの手間や、意識が高い人以外には広がりにくいというハードルを乗り越えられませんでした。

この失敗を踏まえ、NTT データはユーザーが意識せずに自然とデータを提供する仕組みを目指しました。それがカプセルホテルという事業に構想が行き着き、カプセルホテル事業を通じて、宿泊という日常の行動の中での睡眠データを取得する方法をとったのです。

宿泊者は特別な行為をする必要はなく、普通にカプセルホテルに泊まるだけです。

将来を見据えての布石

NTT データがカプセルホテル事業に参入するというアプローチを選んだ意図は、睡眠データを活用するビジネスの可能性を大きく描いていることも挙げられます。

NTT データは、健康、ゲノム、食事、血糖値、購買などのデータを統合・分析するプラットフォームを構築し、食品メーカーや製薬会社との協業ビジネスを目指しています。先ほども触れたように2027年までにグローバルで1000万人分のデータ取得、2030年までにヘルスケア関連で300億円の売上を目標としています。

今の AI 時代において、AI に学習させるデータの量と質が重要です。

NTT データの取り組みは、こうした将来を見据えてのデータ活用のための布石と言えます。

目的と手段を入れ替えてみる


この事例から学べるのは、目的と手段をあえて入れ替えてみることで、常識にとらわれない着想が生まれる可能性があるということです。

新しい着想

一般的には、ビジネスの目的を達成するために必要な手段を考えるのが自然な発想です。

しかし NTT データのように、目的と手段を意図的に逆転させることで、新しい視点の転換ができます。これまでは手掛けてこなかったビジネスチャンスを生み出し、既存のビジネスモデルにとらわれない発想につながります。

他のビジネスへの応用例

このような考え方は、他のビジネス領域にも応用できるでしょう。

たとえば、環境データの収集を目的として、エコフレンドリーな製品の開発を進めることで、持続可能なビジネスモデルを構築するというふうにです。

また、教育データを集めることを目的に、オンライン教育プラットフォームを展開するというのもあるでしょう。教育の質の向上とともに新しい機会をつくり出すことを目指します。

NTT データのカプセルホテル事業から学べることは、目的と手段をあえて逆転させることによって、新たなビジネスチャンスを見出すことができるという点です。

このような発想の転換は、ビジネスを進化させることを促進し、持続可能な成長を実現するためのヒントにつながります。

まとめ


今回は、NTT データがカプセルホテル事業へ参入した事例から、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 通常、顧客情報の収集はビジネスの成長のための手段と位置づけられるが、NTT データは特定のデータ収集自体を目的とした新たなビジネスモデルを構築しようとしている

  • NTT データのカプセルホテル事業は、一般的なカプセルホテルのビジネスモデルとは異なり、睡眠データの収集を主目的としている。その手段としてホテル事業に参入するという、主従関係を逆転させた発想がある

  • NTT データは、過去に食事データ収集アプリで失敗した経験から、ユーザーが手間がかからずデータを提供する仕組みの重要性を認識していた。カプセルホテル事業では、宿泊という自然な行動の中で睡眠データを取得する仕組みをつくった

  • AI 時代において、質の高いデータを大量に収集することは将来の競争力の源泉となる。NTT データの取り組みは、長期的な視点に立ったデータ活用戦略の一環と見ることができる。マーケティングにおいても短期的な成果だけでなく、将来を見据えたデータの蓄積と活用が重要


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。