#マーケティング #顧客インサイト #パーセプションチェンジ
マーケティングの効果が思うように上がらないと感じることはないでしょうか?
お客さんのニーズを捉えきれていない、商品の魅力が伝わっていない、そんな悩みを抱えていませんか?
今回ご紹介するサッポロビールの 「WITH BEER」 の事例は、これらの悩みを解決するヒントを与えてくれます。
若年層のお客さんの本音まで理解し、そこから生まれた斬新な商品。そして、組織改革まで含めた包括的なアプローチ。サッポロビールのケースから、マーケティングで大事なことを学ぶことができます。
サッポロビール 「WITH BEER」
サッポロビールは、若者にビールの魅力を伝えるための新ブランド 「WITH BEER」 を発売しました。
WITH BEER は、現役大学生へのインタビューから得た声をもとに開発され、苦みを抑えたフルーティーな味わいが特徴です。オレンジピールとコリアンダーシードを使用した 「WITH BEER ホワイトエール」 を数量限定で発売。アルコール度数は 4.5% で、コンビニでの販売価格は約225円です。
組織体制の変更
若年層のアルコールへの関わり方や飲み方は変化しており、飲み会の場で 「とりあえずビール」 という習慣は一般的ではなくなりつつあります。
サッポロビールはこのような消費者の変化を受けて、消費者の潜在的なニーズに対応するために組織体制を変更しました。新たに 「顧客体験デザイン部」 を設立し、商品開発から販促までを一貫して行うという体制です。
開発の経緯
新商品の開発にあたって、サッポロビールのマーケティング部、営業部、人事部から若手社員6人が選抜されました (参考記事) 。
ビールに関心がない若者をターゲット顧客として想定し、現役大学生へのインタビューから商品コンセプトを探りました。
月に1 ~ 2回、開発メンバーは集まり、中身やパッケージ案を出し合いました。味にはホワイトエールを選定し、ビールの苦みを我慢しなくても飲んだ瞬間からおいしく感じられるようなビールを目指したとのことです。また、パッケージのベースカラー 「リニューブルー」 は、思わず手に取りたくなる色味として選ばれました。
こうして、サッポロビールは約1年かけて 「WITH BEER」 を開発しました。
マーケティングコミュニケーション
マーケティングコミュニケーションでもサッポロビールは新しい取り組みを進めています。
マーケティング本部の 「ビールに対する憧れを創り出す」 という方針のもと、2024年6月には、アーティストの Novelbright (ノーベルブライト) とのコラボレーションを通じて、若年層に訴求する楽曲の配信を開始しました。日常の何気ない時間の大事さを感じさせるミュージックビデオの中に WITH BEER を登場させるなど、特に20代前半のビール無関心層に訴求する内容です。
ビール系飲料全体の市場は縮小傾向のなか、減税の恩恵もあり狭義のビールには追い風が吹いています。サッポロビールは、今こそビールの価値を再評価してもらい、将来のサッポロファンに育てることを目指します。
WITH BEER のマーケティング
ではサッポロビールの 「WITH BEER」 から、学べることを掘り下げていきましょう。
ターゲット顧客の本音を汲み取る
サッポロビール WITH BEER は、若年層の 「ビールを飲まないことへの心理的な要因」 を掘り下げたことが、新商品の開発につながった事例です。
WITH BEER は、ビールに関心が高くない若者をターゲット顧客にした新ブランドです。
ターゲット層である若者の心理を理解するために、現役大学生へのインタビューを実施しました。インタビューからは、次のような若者のビールへの認識が明らかになりました。
- ビールはがんばって飲めるようにならないといけないお酒
- ビールには飲み慣れるまでに訓練しなければいけないイメージがある
こうした若年層の声から、若者がビール特有の苦みを苦手としていることが浮き彫りになりました。
その一方で、若者からは 「社会人としてビールは飲めた方が得」 「コミュニケーションツールのひとつ」 とビールを肯定的に捉えている声も聞かれました。
俯瞰すれば、ビールへの苦手意識や敷居の高さはあるものの、ビールを飲むことのポジティブな意義も持っているということです。そこでサッポロビールは、ビールへの心理的なハードルを払拭することを目指しました。
ビールの価値イメージのアップデート
サッポロビールは、ビールの苦さを我慢せずに楽しめる商品を開発することで、ビールの価値イメージを変えることを狙いました。
具体的には、次のような特徴を持つ 「WITH BEER ホワイトエール」 を開発しました。
- オレンジピールとコリアンダーシードを使ってフルーティーな味わいに
- アルコール度数 4.5%
- 苦みが少ない小麦麦芽を使用
ビールを飲み慣れていない若者でも、飲んだ瞬間から美味しく感じられるビールという位置づけにしました。
成功するマーケティング
サッポロビールの WITH BEER の事例から学べるマーケティングのポイントは次の通りです。
- ターゲット顧客を明確にする
- お客さんが抱えている困りごとや奥にある本音、課題感、買ったり使うことへの物理的・心理的障壁を理解する
- その顧客理解にもとづいて、商品の顧客価値を定義する
- もたらしたい顧客体験をコンセプトにした商品を、魅力的を伝えるメッセージとして言語化する
- お客さんへのコミュニケーションから商品を訴求し、自社商品を選んでもらう
- お客さんに使ってもらい価値をもたらす
では順番に詳しく見ていきましょう。
ターゲット顧客の明確化
サッポロビールの WITH BEER の開発では、具体的なターゲット顧客を明確にしました。
ビールを苦手に思っている若者を顧客像に描くことで、製品開発とマーケティングの焦点を絞ることができました。
顧客理解
次に、サッポロビールはターゲット顧客が抱えている困りごとや奥にある本音を深く理解しようと努めました。
現役大学生へのインタビュー調査を通じて、若者がビールに対して 「がんばって飲めるようにならないといけないお酒」 「ビールは飲み慣れるまでに訓練しなければいけない」 というイメージを持っていることが明らかになりました。
ビールの苦みに対する苦手意識という、心理的なビールを飲まない障壁を浮き彫りにしたのです。それと同時に、「社会人としてビールは飲めた方が得」 や 「コミュニケーションツールのひとつ」 などと、ビールへの好意的な印象も見出しました。
価値定義
顧客理解にもとづき、サッポロビールは新しい商品への顧客価値を定義しました。
WITH BEER からのお客さんへの価値提案は、「ビール特有の苦さを我慢しなくても、飲んだ瞬間からおいしく感じられる」 というビールを飲めるという顧客体験コンセプトです。一般的なビールへのイメージを変えようとするコンセプトです。
価値訴求
そして、新しい価値提案を魅力的に伝えるため、WITH BEER では様々な工夫を凝らしました。
パッケージデザインでは 「リニューブルー」 という色を採用し、手に取りやすさを重視。また、人気アーティストとのコラボレーションでは、日常を題材にしたミュージックビデオの中に WITH BEER のビールを登場させるなど、若者からの共感を得やすいアプローチで商品をアピールしています。
価値実現
マーケティングで目指すのは、お客さんに商品を選んでもらい、使ってもらい、顧客価値を商品がもたらすことです。
WITH BEER は、ビールの特有の苦みを苦手だと感じていた若年層に新たなビール体験を提供し、将来的にはサッポロビールのファンに育てることを狙っています。
マーケティングの全体像
あらためてサッポロビールが WITH BEER でやったことは、成功するマーケティングとして示唆的です。
- ターゲット顧客を明確にする
- お客さんが抱えている困りごとや奥にある本音、課題感、買ったり使うことへの物理的・心理的障壁を理解する
- その顧客理解にもとづいて、商品の顧客価値を定義する
- もたらしたい顧客体験をコンセプトにした商品を、魅力的を伝えるメッセージとして言語化する
- お客さんへのコミュニケーションから商品を訴求し、自社商品を選んでもらう
- お客さんに使ってもらい価値をもたらす
これらのステップで進めることで、お客さんのニーズに本当に応える商品開発とマーケティングになります。
組織は戦略に従う
サッポロビールの WITH BEER の事例は、組織の在り方にも示唆を与えてくれます。
サッポロビールは 「顧客体験デザイン部」 を新設し、商品開発から販促までを一貫して担う組織体制にしました。顧客理解、未来志向、イノベーションという課題に組織的に取り組むための組織変革です。
さらに、若手社員を中心とした開発チームを結成したことも興味深いです。ターゲットとする若者の視点をより直接的に商品開発に反映させることを狙ってのことです。
マーケティングの成功には、顧客理解を起点とした取り組みが不可欠です。ただ商品を作って売るのではなく、お客さんの潜在的なニーズを掘り起こし、顧客ニーズに応える価値を再定義し、顧客価値を効果的に伝えることが重要です。
そして、戦略を実行する組織体制となり、顧客起点を貫けるかが成功のカギを握ります。
まとめ
今回はサッポロビールの新ブランド 「WITH BEER」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ターゲット顧客を明確にする
- お客さんが抱えている困りごとや奥にある本音、課題感、買ったり使うことへの物理的・心理的障壁を理解する
- その顧客理解にもとづいて、商品の顧客価値を定義する
- もたらしたい顧客体験をコンセプトにした商品を、魅力的を伝えるメッセージとして言語化する
- お客さんへのコミュニケーションから商品を訴求し、自社商品を選んでもらう
- お客さんに使ってもらい価値をもたらす
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