投稿日 2024/11/03

客離れを防ぐ “値上げ” 術。マーケティング 4P を活用した戦略的アプローチ

#マーケティング #値上げ #4P

値上げをお客さんにどう受け入れてもらえばいいでしょうか?

顧客目線では、せっかく気に入っていた商品が値上げされると購入を躊躇したり、不満を感じたりしてしまうことがあります。一方の企業にとっては、値上げによって顧客離れや売上減少のリスクが伴います。

今回は、マーケティングの 4P を活用し、値上げの際の効果的な対応方法について考察します。

任天堂やコカ・コーラの実例を交えながら、マーケティングがどのように値上げのマイナスインパクトを最小限にするか、さらにお客さんとの信頼関係を築くチャンスにするか、その秘訣を探っていきましょう。

値上げは 「仕方ない」 と思ってもらう


商品の価格を変えることは、お客さんの心理や買いもの行動に直接的に影響を与えます。

では、商品の値上げをお客さんに受け入れてもらうためには、どうすればいいのでしょうか?

まずは値上げの背景として、商品を値上げをする理由をお客さんにしっかりと伝えることが重要です。価格変更の背景や理由を丁寧に説明することで、お客さんに納得してもらえることを目指します。

他に有効な手は、お客さんに複数の選択肢を提供することで、値上げが受け入れられやすくなるというのもあります。商品のラインナップを増やし、異なる価格帯の商品を用意します。

いくつか事例を見てみましょう。

[事例 1] コカ・コーラボトラーズジャパン

コカ・コーラボトラーズジャパンの2023年第3四半期の決算資料を見ると、コカ・コーラボトラーズジャパンでは、値上げのタイミングに合わせてブランドキャンペーンやコマーシャルを実施しました。

具体的には、新商品のプロモーションや既存商品のリブランディングによって、お客さんの興味を引き続けました。また、値上げの理由や商品価値の向上を訴えるコマーシャルを展開し、お客さんに値上げを納得してもらうよう努めました。

[事例 2] 任天堂の事例

もうひとつの事例は任天堂です。

任天堂は、商品のバリエーションを増やすことで、価格帯の異なる複数の選択肢を提供しています。

2017年に 「Nintendo Switch」 を発売し、その後に小型で価格を下げた 「Nintendo Switch Lite」 を2019年に加えました。そして2021年には有機 EL ディスプレーを採用し価格を上げた 「Nintendo Switch 有機 EL モデル」 を発売しました。

消費者は幅広い価格帯の選択肢から自分に適したスイッチ本体を選ぶことができます。

価格変更のマーケティング



価格変更について、マーケティングの要素を入れることによって、値上げからのマイナスのインパクトを最小限にすることができます。

マーケティングには 「4P」 という代表的なフレームワークがあります。マーケティング 4P (Product, Place, Price, Promotion) は、別名 「マーケティングミックス」 と言われるように、マーケティング活動を俯瞰して捉え、一貫性をもって展開していくための手段となるものです。

4P のひとつである価格 (Price) は、マーケティング活動のひとつの要素という位置づけです。

主従関係を逆にする

ここでマーケティングと 4P の主従関係を逆にすると、価格設定、とりわけ値上げをする際の対応を効果的に行えます。

通常の関係は、マーケティングの手段として Price や Promotion などの4つの P の要素があります。この主従関係を逆転させるとは、値上げについてお客さんに理解してもらったり受け入れてもらうために、マーケティングの考え方ややり方を値上げへの対応にうまく活用するということです。

たとえば、先ほどの任天堂のスイッチの事例では、安価なモデルと高価なモデルを段階的に増やし、合計で3つのラインナップを用意しました。

これにより、松竹梅の価格設定ができたわけです。値上げへの対応をマーケティング 4P のプロダクトの要素を使ってマーケティングを取り入れたということを意味します。

もうひとつの例にあげたコカ・コーラの事例では、値上げに伴ってブランドキャンペーンや広告を同時に展開しました。

値上げの際のマーケティングに 4P のプロモーションを組み合わせることによって、値上げの理由や商品の価値向上をお客さんに訴求することで、値上げに対する理解を促しました。

受動的ではなく能動的な値上げ

事例からの示唆は、受け身ではなく積極的な値上げ戦略が大事だということです。

  • 提供価値の向上: 値上げの際には、ただ価格を上げるだけではなく、お客さんに対する提供価値を高めることに重点を置く

  • 積極的な背景説明: 受け身の姿勢ではなく、積極的に値上げを行い、その理由や背景をしっかりと伝える。お客さんに納得感を感じてもらいやすくなる


値上げをする際に、ただ単に値段を上げたり、あるいは値下げの場合にもお客さんに知らせることなく値段を下げるだけでは、必ずしも十分ではありません。

特に値上げの際には、丁寧なお客さんへのコミュニケーションが大事になってきます。

コミュニケーションの中にマーケティングの要素を効果的に取り入れることによって、値上げへのマイナスの影響を最小限にできます。お客さんに価値を伝えることによって、値上げを受け入れてもらうことを目指すわけです。

値上げとマーケティングミックス

実際に値上げを行う際には、マーケティングミックスの Price 以外の3つの要素 (Product, Place, Promotion) も効果的に組み合わせることが重要です。

たとえば、プロダクトの観点では、値上げと同時に商品の品質を向上させたり、パッケージをリニューアルすることで、お客さんに価値を感じてもらうことができます。

また、値上げ後も手に取りやすい価格帯の商品を用意し、購入しやすいチャネルを増やすことで、お客さんの利便性を高めます。

さらに、プロモーションの観点では、値上げの理由を説明し、商品の魅力を伝えるキャンペーンを実施したり、キャッシュバックの施策をすることで、お客さんとのコミュニケーションから値上げへの受け入れを促すことができます。

このように、値上げを行う際には、マーケティングミックス (4P) の要素を効果的に組み合わせ、お客さんとのコミュニケーションを丁寧に行うことが大事です。これにより、値上げへの理解を得ながら、お客さんとの関係性を維持し強化することができるのです。

セグメンテーション

マーケティング 4P の前の論点として、値上げを行う際には、お客さんのセグメンテーションも大切な視点です。

同じ商品やサービスでも、人によって値上げに対する感度は異なります。値上げに敏感なセグメントへは値上げ幅を抑えたり、他の商品やサービスを組み合わせて提供したりするなど、きめ細かな対応をします。

一方、値上げに柔軟な姿勢があり、影響が相対的に大きくないセグメントに対しては、値上げ幅をやや大きくしたり、プレミアム感のある商品やサービスを提供したりすることで、収益性を高めることができます。

マーケターの役割

マーケターには、商品やサービスの価値を最大化し、お客さんとの関係性を築くことが求められます。値上げは、その関係性を試される局面でもあります。

マーケティングを効果的に活用することで、値上げをチャンスに変えることができるはずです。お客さんに価値を伝え、理解を得ることで、企業とお客さんの絆をつくることができるでしょう。

値上げは、企業にとって重要な事業判断のひとつです。だからこそ、お客さんとの関係性を損なわないように、マーケティングの考え方を活用することが大切です。

セグメント設計とマーケティングミックスを効果的に組み合わせ、商品展開やお客さんとのコミュニケーションを丁寧に行うことで、値上げを成功に導くことができるのです。

まとめ


今回は値上げについて、マーケティングの観点でどうすればお客さんに納得してもらえ、受け入れられるか考察をしました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 値上げは受動的ではなく能動的に行うといい。値上げの際には提供価値の向上に重点を置くなど、ただ価格を上げるだけでなく、お客さんに対する価値を高める施策を行うことが重要。積極的に背景説明を行い、値上げの理由や背景をしっかり伝えることでお客さんからの納得感を得やすくなる

  • 商品の値上げをする時には、4P のひとつである Price だけでなく、他の要素も効果的に組み合わせることで、値上げのマイナスインパクトを最小限にすることができる

  • マーケティングと 4P の主従関係を逆にする、すなわち 4P のひとつである値上げ対応にマーケティングを取り入れる

  • 具体的には、商品の品質向上やパッケージリニューアル、商品ラインナップの追加 (Product) 、購入しやすいチャネルの増設 (Place) 、そしてプロモーション活動などの丁寧なコミュニケーション (Promotion) を通じて、お客さんからの値上げへの理解と受け入れを促す


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。