投稿日 2024/11/21

雪肌精のリブランディング。リニューアル時に配慮すべき 「顧客の安心感」 とは?

#マーケティング #ブランド #安心感

お客さんに長年愛されてきた商品をリニューアルする時、何を一番に考えますか?

新しさや変化を打ち出すことでしょうか。それとも、昔からのファンを失望させないよう、ブランドを守ることでしょうか。

これは多くの企業が直面する普遍的な課題です。時代の変化に対応しながら、お客さんからの信頼を維持し、ブランドを成長させ続けるには、繊細なバランス感覚が求められます。

化粧品ブランド 「雪肌精」 のリブランディング事例は、この難題に真正面から向き合い、見事に成功を収めました。

変化を恐れず変えていき、しかし大切なものは守る―。その姿勢には学ぶべき教訓が詰まっています。今回は、雪肌精から得られる学びについて解説します。

雪肌精のリブランディング



2024年3月、コーセーは、ロングセラー化粧水の 「薬用 雪肌精」 を1985年の発売以来で初めてリブランディングをしました。

雪肌精のリニューアルのポイントは次のとおりです (参考記事) 。

  • 約16年かけて開発した 「甘草 (カンゾウ) 」 由来の美白有効成分を新たに配合
  • 雪肌精の特徴である 「みずみずしい感触」 は維持しつつ、保湿力を強化し美白効果もアピール
  • 従来のデザインを踏襲しながらも、若年層にも訴求するよう細部を変更
  • 男女問わず幅広い年齢層から意見を集め、慎重に検証を重ねた
  • 羽生結弦さんと髙橋藍 (らん) さんを起用した大々的なプロモーションを実施


リニューアル後の売上は前年比約2.5倍とのことです。特に男性客や10代 ~ 30代の若年層が増加したようです。

雪肌精の長年のブランド価値を維持しつつ、新たな顧客層を取り込むことに成功した事例と言えます。

顧客が安心できるリニューアル


雪肌精の今回のリニューアルでこだわったのは、「お客さんから安心できること」 でした。

塩島氏 (引用者注: コーセー 戦略ブランド事業部 クリーンブランド事業室 商品企画課 雪肌精ブランドマネージャー 塩島瞳氏) は、このリニューアルを進める上で最も悩んだ点として、「既存品の印象をどこまで踏襲するか」 だったと明かす。

クリアウェルネス (引用者注: パッケージでシンプルさを押し出した新シリーズ 「雪肌精 クリアウェルネス」 ) のときに意識したのは、「いかに新しく見えるか」 。今回は、それとは異なり、新しく見えるかよりも、古くさく見えないかに注意した。

さらに、調査で顧客から返ってきた回答の中で、「安心感があるか」 という項目も特に重要視した。

ロングセラー商品をニューアルする際に最もメーカーが恐れるのは、長年愛用してくれていた既存顧客が離反してしまうこと。リニューアル後のパッケージが全く違う物に見えてしまえば、離反する可能性が高まる。長期愛用者からすれば、ずっと使用してきた商品がなくなることを不安に思うだろう。

パワーアップさせるべき部分は変えつつも、もともと持っていた価値を残したことを感じてもらうために、パッケージにあえて大きな変更を加えなかった。そのため、「既存顧客が安心感を持てるかどうか」 が、外せないポイントだったのだ。


 "安心できる気持ち" とは?

ここから掘り下げたいのは、お客さんがこれまで使っていた商品のリニューアルに対して、「安心できる気持ちとは何か」 です。

ここで言う 「安心」 とは具体的にどのような感情なのでしょうか?

お客さんからの安心感、あるいはその逆の不安な気持ちを具体的に言語化してみると、次のような心理や気持ちです。

✓ ブランドへの信頼と愛着
  • 長年にわたって雪肌精を愛用してきたお客さんは、雪肌精の美容効果や品質を信用し、愛着を持っている
  • リニューアルによって、それらが損なわれるのではないかという不安を抱える可能性がある

✓ 変わらないことへの安心
  • 変わらず同じものには安心感がある。したがって、とりわけ長く使ってきた愛用品が変わることへの抵抗感も想定される
  • パッケージや雰囲気が大きく変わると、いつも使っていた商品がなくなってしまったという喪失感、自分に合わなくなるのではという不安を覚えるかもしれない

✓ 品質への懸念
  • リニューアルされたということは、品質や機能まで変わり、自分の肌への効果や使用感が変わるのではないかという心配も生まれる
  • 例えば敏感肌の人などは、これまでのように安心して使えなくなるのではと懸念するかもしれない

✓ 自分らしさ (アイデンティティ) の喪失
  • 長く使っている愛用品は、もはや自分の一部と感じるような存在でもある
  • アイデンティティとも言える存在がリニューアルによって変わることで、自分の存在自体が何か否定されたり脅かされるような感覚を覚える可能性

雪肌精のお客さんへの感情的配慮

雪肌精は、こうした感情を慮り 「既存顧客が安心できるリニューアル」 を目指しました。

具体的には、パッケージデザインは雪肌精らしさを残しつつ、大胆すぎない変更に留めました。

化粧品として使用感も 「みずみずしい感触」 など評価の高い点は維持しました。処方では美白効果など新たな価値を加えつつ、肌へのやさしさは従来通りとしています。

このように、雪肌精はリニューアルでは、長年の信用と愛着を裏切ることなく変化への抵抗感を和らげ、それでいて品質への期待に応える姿勢を打ち出しました。お客さんへ 「雪肌精とともにあり、自分らしさを維持できる」 というメッセージを伝えることで、お客さんの安心感を得ようとしたのです。

雪肌精のリニューアルから学ぶビジネスの教訓


では雪肌精のリニューアル事例から、ビジネスパーソンが学べる汎用的な教訓を整理しておきましょう。

変化と継続のバランス

長年愛されてきた自社商品やサービスをリニューアルする際は、変化と継続のバランスが重要です。お客さんに新鮮味を感じてもらいつつ、ブランドの核となる価値は守ることが大事です。

雪肌精は、パッケージデザインや使用感など、変えるべきところと守るべきところを見極めました。バランスを取ることで、お客さんの信頼を損ねることなくリニューアルを成功させたのです。

お客さんの感情への配慮

商品やサービスの変更は、お客さんの感情に影響を与えます。特に長年愛用してきたお客さんは、ブランドへの愛着や信頼が強く、変化に不安を感じやすいものです。

商品やブランドのリニューアルの際は、お客さんの心理や感情を深く理解し、配慮することが求められます。雪肌精は 「安心感」 という感情的価値を重視し、お客さんの不安を和らげる工夫を随所に施しました。

綿密な調査と検証

お客さんのニーズや感情を理解するには、綿密な調査と検証が欠かせません。雪肌精は、男女問わず幅広い年齢層から意見を集め、リニューアル案を何度も検証しました。

お客さんの声に真摯に耳を傾け、それを商品やサービスに反映させる姿勢がリニューアルの成功につながったのです。

新規顧客の獲得と既存顧客の維持

ビジネスの成長には、新規顧客の獲得と既存顧客の維持、この両方が必要です。

雪肌精は、若年層への訴求を強化しつつ、既存のお客さんの安心感も損ねないよう細心の注意を払いました。新しいお客さんを取り込みながら、長年の支持者も大切にする。その両立こそが、ブランドの持続的な成長を可能にします。

ブランドの資産を活用する

長く愛されてきたブランドには、大きな価値があります。

 「雪肌精らしさ」 というブランドの核となる資産を大切にし、それを活かしてリニューアルを進めたことが、お客さんの共感と支持を得ることにつながったのです。

雪肌精のリニューアルの事例は、変化の時代におけるブランドの在り方を考えさせてくれます。

変化を恐れず、変えるところは変え、大切なものは守る。お客さんの感情に寄り添い、ブランドの価値を再定義する。こうした姿勢は、業界や業種を問わず、ビジネスパーソンが学べる教訓となります。

まとめ


今回は、雪肌精のリニューアル事例から学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 変化と継続のバランス: 変化と継続のバランスを意識し、お客さんに新鮮味を感じてもらいつつ、ブランドの核となる価値を守る

  • 顧客の感情への配慮: 商品やサービスを変更する際は、お客さんの心理や感情を深く理解し、不安を和らげる工夫を施すなどの配慮をする

  • 綿密な調査と検証: お客さんのニーズや感情を理解するには、調査と検証が欠かせない。お客さんの声に真摯に耳を傾け、商品やサービスに反映させる

  • 新規顧客の獲得と既存顧客の維持: 新しいお客さんを常に取り込みながら、長年の支持者も大切にする。新規顧客の獲得と既存顧客の維持の両方が大事

  • ブランドの資産を活用する: 長く愛されてきたブランドの核となる資産を大切にし、ブランド資産を活かしてリニューアルを進める


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。