投稿日 2024/11/18

桃鉄 教育版。学校の教育現場から生まれた、開発者とユーザーの価値共創

#マーケティング #お客さんの使い方 #価値共創

商品やサービスの価値は、売り手が一方的に決めるのではなく、買い手との相互作用の中で生まれるものです。

しかし、実際にそれを実現するのは簡単ではありません。企業は自社商品のことに自信を持っているがゆえに、「お客さんが本当に求めているもの」 が見えなくなることがあるからです。

今回取り上げたいのは、コナミデジタルエンタテインメントの 「桃太郎電鉄 教育版」 です。

売り手の想定外の使われ方から生まれた、新しい価値とは一体どのようなものなのでしょうか?

ゲーム開発者と教育現場との対話から生まれた顧客価値の過程を追ってみると、私たちビジネスパーソンも学べることが見えてきます。

桃太郎電鉄 教育版


出典: Konami

 「桃太郎電鉄」 シリーズは、もともと1988年にファミコンソフトとして発売されたすごろく型のゲームです。プレーヤーはサイコロを振って鉄道網を進みながら、各地の名産品や物件を購入し、最終的な資産の合計で勝敗を競います。

コナミデジタルエンタテインメントの 「桃太郎電鉄 教育版 ~ 日本っておもしろい!~ 」 は、ゲームシリーズ 「桃鉄」 をベースに、教育目的にカスタマイズされたブラウザゲームです。

もともとはある小学校教諭からの 「桃鉄を授業で使いたい」 という要望がきっかけで開発がスタートした教育版です。4 ~ 6年生の社会科授業での活用が多く、地理や特産物の暗記に役立てられています。

無償提供の波及効果

2023年初頭から無償提供が開始され、1年間で約4000校 (全国の小学校の約 20%) が利用するほどに、小学校教育の場で急速に普及しています。


桃鉄教育版を通じてシリーズ全体の認知度が向上し、ゲームの桃鉄の販売数も増加したとのことです (参考記事) 。

教育版の無償提供は直接の売上にはつながりませんが、子どもたちが授業で触れることで、中には桃鉄という存在を初めて知ったり、もとのゲームに関心を持つなど、認知や興味喚起から製品版の売れ行きが伸びるなど、プロモーション効果が生まれているわけです。

35年の歴史を持つ 「桃太郎電鉄」 シリーズにとって、従来の CM を使った広告とは異なる新しい顧客開拓の手段となっています。

社会の授業で暗記をサポート

4年生以降の社会科の授業では、日本全国の都道府県や特産物の暗記が必要になりますが、暗記に苦手意識を感じる子どもたちも少なくありません。

そこで桃鉄教育版を使うことで、ゲームを通じて楽しみながら自然に知識を身につけることができます。地理や特産物の暗記を助けるツールとして役立っています (参考記事) 。

1 ~ 3年生の社会の授業では、大きな地図として桃鉄教育版が活用されています。マップ上の駅やランドマークに虫眼鏡を合わせると、その場所の詳細な情報が表示される 「虫メガネで解説」 機能を使い、地域の特性を学べます。

歴史の授業においても桃鉄教育版は活躍しています。たとえば、「桃鉄で歴史のある場所を調べよう」 というテーマを設定し、児童に日本各地のお城を見つけてもらう授業が行われています。

児童が西日本には東日本よりも歴史的名所が多いことに気づくと、「それはなぜだろう?」 と子どもたちに問いかけ、そこから歴史の授業が展開されるというふうにです。

国語や算数にも創意工夫

 「桃鉄教育版」 は、当初は小学4 ~ 6年生の社会科で使われることが多かったようですが、学校の教育現場で使われ始めると、開発者側が想定していなかった利用方法が次々と生まれました。社会の地理だけではなく、歴史、さらには社会科を超えて、国語や算数など、先生が様々な活用法を編み出しています。

また、すべての漢字にふりがなを付けたバージョンも追加され、低学年の子どもでも読みやすくなっています。これを利用して、国語の授業で 「難しい漢字を使った地名を見つけてみよう」 という試みも行われているようです。

ほかには算数の授業でも桃鉄教育版は役立っています。

ゲーム内で購入した物件の収益が勝敗を分けるゲームの特性を利用し、小学3年生が 「万」 や 「億」 といった大きな数字や概数を学ぶきっかけとして、また、上の学年では 「割合」 や 「パーセント」 の感覚をつかむために使われています。

さらに、中学生では食育や金融教育にも桃鉄教育版が利用されているようです。

ここまで見てきた色々な使われ方は、開発者側の予想を超えたものであり、教育現場の先生たちの創意工夫によって生まれました。

この事例は、売り手であるコナミデジタルエンタテインメントと、ユーザーである教育現場との間で起きている 「価値共創」 の好例と言えます。

開発者とユーザーの価値共創


ここまで見てきた教育現場での創意工夫や先生たちのアイデアが、桃鉄教育版のバージョンアップや新機能の追加につながり、さらに多様な教育現場での活用が広がっています。

たとえば、2023年12月には 「物件編集機能」 のベータ版が追加されました。

物件データの CSV ファイルを入力し、桃鉄教育版にロードすることで、物件名や物件価格、収益率を編集することができるようになりました。家の周りを調べるような使い方が想定されています。

また、自分の町を桃鉄教育版のマップ上に追加する機能も開発中で、地元の物件などをゲーム内に反映させることが可能になる予定です。

このように、桃鉄教育版は教育現場と開発チームの密なコミュニケーションによって進化し続けています。

現場からのリクエストを受けて新たな機能を追加し、それがさらに多様な教育用途に利用される。さらに、作り手の考えもしなかった使い方をお客さんが見つけ出し、利用の "現場" からの声を吸い上げる。ゲーム開発に活かすという好循環が起きているのです。

桃鉄教育版は、開発者とユーザーが一体となって新しい価値を創り出すという、価値共創の具体例です。

まとめ


今回はゲームの桃鉄から派生して生まれた 「桃鉄教育版」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 「桃太郎電鉄 教育版」 は、ゲームの桃鉄をもとに、教育目的でカスタマイズされたブラウザゲーム。桃鉄教育版は、地理だけでなく歴史、国語、算数など多様な授業で創意工夫がされている

  • 教育現場からのフィードバックを受けて、桃鉄教育版のゲームの改良が続けられている。ユーザーからの声を製品開発に活かすことで、さらなる活用シーンが生まれるという好循環が起きている。作り手と使い手がともに価値を生み出す価値共創の成功例


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。