#マーケティング #顧客設定 #提供価値
自社商品やサービスのお客さんについて、全て一括りにしてしまっていないでしょうか?もしかすると、今のマーケティングにはそこに課題が潜んでいるのかもしれません。
お客さんが求める価値や使い方は一人ひとりで必ずしも同じではありません。もしそれに気づかないままでは、本当の顧客ニーズに応えることは難しいのです。
今回は、ユニークな子ども向けの商品事例から、どうすればお客さんのニーズに応えることができるのかを見ていきます。
野菜栽培キット 「ユニコーンラボ」
スタートアップ企業の UNICORN PoPo が開発し販売しているのが 「ユニコーンラボ」 という子ども向けの野菜栽培キットです。
子どもが "収入" を得られる仕組み
ユニコーンラボは、5歳から15歳の子どもを対象にしており、価格は約3万円です。
特徴的なのは、子どもたちが家庭内で 「経営体験」 を通じて自立心や創意工夫を育むことを目的としている点にあります。
ユニコーンラボは、家庭内で野菜を栽培するキットと専用アプリをセットにしており、子どもたちが自分が栽培した野菜を、親や祖父母に売ることで収入を得る仕組みになっています。子どもへのお小遣い制ではなく、野菜の販売で収入を得ることを目指すものです。
ちなみに金融広報中央委員会の調査 (2015年) によると、子どもへのお小遣いの金額は、小学校の低学年で月平均1004円、中学年で864円、高学年で1000円です。ユニコーンラボの実証実験では、ユニコーンラボの野菜栽培からは子どもは月平均2200円の利益を出したとのことで、これは平均のお小遣いの2倍ほどになったということです (参考記事) 。
親にとっては、出費が増えるだけなのかというとそうでもありません。
子どもから野菜を 「購入」 しても、お小遣いの負担はなくなります。仮に月のお小遣いが1000円だとしたら、年間1万2000円ほどの支出が減ります。また、子どもから買う野菜が、たとえばいつも行くスーパーの野菜より安ければ、野菜代がゼロになるというわけではないものの、野菜代の節約になります。
また、家庭内の 「ビジネスサイクル」 は、野菜の栽培から販売、収益の管理までを専用アプリで行い、子どもたちは経営の基本的な流れを学ぶことができます。
例えば、野菜の販売価格を親と交渉し、QR コード決済を通じて家族内で売買が行われるなど、家族間での 「経済活動」 が行われます。
サービス開始の背景
ユニコーンラボのアイデアは、UNICORN PoPo の社長である永野天実さんの幼少期の経験から生まれました。
永野さんはご自身が子どもの頃、お小遣いをもらわずに自分で作ったお菓子を家族に売っていたという経験から、ユニコーンラボのアイデアを思いつきました。
学べること
では子どもが "経営者" になる野菜栽培キット 「ユニコーンラボ」 の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
この事例から学べるのは、お客さんをひとまとめにするのではなく、それぞれのニーズや使い方にもとづいてお客さんを分けて捉えることの重要性です。
ユニコーンラボの場合は、お客さんは 「子ども」 と 「親」 の2つに分けられますが、両者のニーズや商品に期待する役割は同じではありません。
まずは、子どもというお客さんに注目して見てみましょう。
[顧客 1] 子ども
ユニコーンラボからの子どもへの提供価値は大きく2つあり、収入の増加、経営体験による経験・学びの獲得です。
子どもたちにとって、ユニコーンラボは野菜を栽培するだけにとどまらない体験をもたらします。子どもは野菜栽培キットを使って自分の手で野菜を育て、収穫した野菜を家族に販売し収入を得られます。
野菜の種を買い (仕入れ) 、キットでの野菜の栽培、親に販売し、専用アプリを使って収益管理までを自分で行うことでリアルな経営活動を体験でき、自然とビジネスの基本的な仕組みを学べます。擬似的な経営活動によって子どもたちは自分の頭で考え、行動する力を育むことができるわけです。
そして、子どもは自分が栽培した野菜を親や祖父母に販売することで、従来のお小遣いのやり方とは異なる方法で収入を得られます。
[顧客 2] 親
一方、親にとってのユニコーンラボの価値は、子どもの成長支援と家計への貢献です。
親は、子どもが野菜栽培と販売、収益管理までの経営体験を通じて、子どもへの学びを促せます。ユニコーンラボを使えば、子どもに自ら収入を得るきっかけを与えることができ、子どもにお金の価値や管理の重要性を学ぶ機会をつくれます。
他には、子どもに植物を観察したり育てる環境も与えられます。レタスなどの野菜を種から自分で撒いて、水やりをし、日々の成長度合いを見ながら植物を育てて、頃合いを見て収穫するという、普段はなかなかできない体験を子どもにもたらすことができます。
また、家計における副次的なメリットもあります。子どもからの野菜の購入が結果的に家計の節約につながれば、親にとっても魅力的な選択肢となります。
顧客設定と顧客価値
ユニコーンラボは、子どもと親という2つのお客さんにそれぞれ価値をもたらしています。
この事例は、お客さんを大雑把にひとまとめにするのではなく、求めるニーズや商品・サービスの使い方、得られる顧客価値の違いなどのこうした切り口から、お客さんを分けることの重要性を示しています。
それぞれのお客さんが何を求めているのか、その背景にはどんな顧客文脈があるのか、そしてどのように商品を使い価値を得るのかを理解し、お客さんの文脈に合わせた提案をすることが大事です。
そして、お客さんを細分化し、それぞれの視点に立って商品やサービスの価値を考えることで、より効果的なマーケティングや商品開発が可能になるのです。
まとめ
今回は、子どもが "経営者" になれる野菜栽培キットの 「ユニコーンラボ」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ユニコーンラボの事例は、お客さんをひとまとめにせず、背景やニーズ、使用方法にもとづいてお客さんを分ける重要性を示す
- お客さんの置かれた状況、何に価値を見出すかの価値観、置かれた状況や価値観から生じる求めるニーズ、習慣や行動などをそれぞれのお客さんに対して理解を深める
- そして、見極めた顧客文脈に合った商品をつくり、マーケティング活動を展開し、お客さんに価値を提供する
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