#マーケティング #DX #組織変革
デジタルトランスフォーメーション (DX) という言葉をよく耳にしますが、企業にとって DX は避けて通れない課題です。しかし、どのように DX という変革を進めればいいのか、多くの企業が悩むところでしょう。
一時的な効率化や収益改善だけでなく、本当に定着する DX を実現するには、泥臭い愚直な取り組みが欠かせません。
今回は、コスモエネルギーホールディングスの全社的な DX への取り組み事例をご紹介します。
この事例からは、人材育成と組織文化の変革を重視する DX 推進の秘訣が見えてきます。事例を 「八段階の変革プロセス」 に当てはめることで、多くの企業にとって貴重な示唆となるはずです。
DX の D とは "泥臭い" 取り組み
「ココロも満タンに」 のコピーで知られる、コスモエネルギーホールディングス (HD) 。近年は、脱炭素社会の実現に向けて、風力などのグリーンエネルギーの他、SAF (持続可能な航空燃料) や水素といった次世代エネルギーへの取り組みも積極的に進めています。
こうした中、DX の推進を加速させるため、2021年11月に招聘されたのが、現・常務執行役員 CDO (Chief Digital Officer: 最高デジタル責任者) のルゾンカ典子氏です。
目指している DX は、一時的な効率化や収益改善にとどまらず、人を育て定着する DX です。
ルゾンカ氏のとらえ方で興味深かったのは、CDO の D を "泥臭い" としていることです (参考記事) 。
ご自身の肩書である CDO とは、「チーフ "泥臭い" オフィサー」 であると。その心は、DX には地道な努力が必要で、DX の実現に近道はないというものです。
コスモエネルギーホールディングスの DX の取り組み
では、コスモエネルギー HD は泥臭い愚直な取り組みから、どのように DX を実現しているのでしょうか?
詳しく見ていきましょう (参考情報: コスモの DX の取り組み, ルゾンカ氏の基調講演事) 。
ビジョンの策定
コスモエネルギー HD の DX は全社的なビジョンである 「Cosmo’s Vision House」 にもとづいています。
このビジョンを策定するため、コスモは約4ヶ月にわたりコアメンバーと密な議論を重ねました。現場の意見を吸い上げ、会社全体の方向性と一致させるために、何度もフィードバックと調整を繰り返したとのことです。
コスモエネルギー HD はこうした地道なプロセスを通じて、皆が納得し共感できるビジョンをつくり上げました。
経営戦略との連携
DX の推進を成功させるためには、経営戦略との整合性が不可欠です。
コスモエネルギー HD は、経営陣と現場メンバーの定期的なミーティングによって、DX の進捗や課題を共有し、経営戦略と共通認識を持つよう努めました。経営層の理解と支援を得るために、専門用語を使わずにわかりやすく説明する工夫をし、共通言語を持つことを重視しました。
組織体制や人材配置
コスモエネルギー HD は、DX 推進チームに 「社内の人材や組織のことがわかる人」 「経営戦略の方向性が見える人」 「マーケティングと IT がわかる人」 を配置するようにしました。
適材適所での人材配置が実現し、効果的なチーム運営につながりました。また、DX の中心となる人材の育成にも力を入れ、データ活用のコア人材を育てるための教育プログラムも導入しています。
文化醸成
コスモエネルギー HD は、DX 推進のための文化醸成にも力を入れています。
社員には、挑戦を恐れず失敗から学ぶ姿勢を持つよう奨励しました。また、クイックウィン (短期で得られる成功体験) を重視し、小さな成功体験を積み重ねることで、社員のモチベーションを高めました。
具体的には、BI ツール 「DOMO」 の導入により業務の効率化を実現。現場での迅速な成功体験を生みだしました。
データ基盤整備やツール導入
コスモエネルギー HD は、データ基盤の整備を進める際に、まず既存のデータの状況を徹底的に洗い出しました。
各部門に散在するデータを一元化するため、データの共有や活用が分断している状態をなくし、リアルタイムでのデータアクセスを可能にする基盤を構築したのです。
先ほど触れた 「DOMO」 という BI ツールを導入し、エクセルでのデータ管理から脱却。現場のデータ整備をサポートしつつ、自動化の仕組みを整えることで、業務の効率化を図りました。
このような地道な取り組みにより、データの正確性とスピード感が向上しました。
また、リアルタイムでのデータ活用によって、経営層や現場の意思決定が迅速に行えるようになりました。マーケットの変動や顧客ニーズの変化にも適応できる体制を整えています。
外部パートナーとの連携
外部パートナーとの連携を強化するため、コスモエネルギー HD は自社の取り組みを積極的に外部に発信し、パートナーシップを築きました。
それまでの 「自社の取り組みを当たり前と考え発信しない」 という姿勢を変えるため、外部の視点を取り入れることの重要性を社員に伝えました。外部からの提案や連携が増え、ウィンウィンの関係を築いています。
八段階の変革プロセスに沿った DX
ところで、書籍 「企業変革力 (John P. Kotter) 」 という本に、八段階の変革プロセスが書かれています。
✓ 八段階の変革プロセス
- 危機意識を高める
- 推進チームをつくる
- ビジョンと戦略を立てる
- ビジョンを周知する
- メンバーが行動しやすい環境を整える
- 短期的な成果を生む
- さらなる変革を進める
- 新しい方法を文化として根づかせる
なお、ペンギンを主人公にした小説 「カモメになったペンギン」 に組織変革の8つのプロセスがわかりやすく書かれています。こちらもおすすめです。
では、コスモエネルギー HD の DX 推進事例について、八段階の変革プロセスに当てはめて見ていきましょう。
[Step 1] 危機意識を高める
コスモエネルギー HD のは、2015年の持ち株会社体制への移行を機に、石油以外のビジネスへの取り組みの必要性を認識しました。
エネルギー産業の変革と脱炭素化の潮流の中で、デジタル技術を活用した事業変革の重要性を経営陣が強く認識し、2021年に CDO (最高デジタル責任者) としてルゾンカ典子氏を招聘。この決定自体が、会社全体に DX の重要性と危機意識を伝える強力なメッセージとなりました。
[Step 2] 推進チームをつくる
ルゾンカ氏は就任直後、DX 推進のためのコアチームを編成しました。
チームには、社内の人材や組織がわかる人、経営戦略の方向性が見える人、マーケティングと IT がわかる人を中心に、多角的な視点を持つチームが形成されました。
さらに、「イネイブラー」 と呼ばれる役割を設定し、現場と DX チームを橋渡しする人材も配置しました。
[Step 3] ビジョンと戦略を立てる
コアチームとともに4ヶ月かけて 「Cosmo's Vision House」 を策定しました。
このビジョンは単なるスローガンではなく、デジタルケイパビリティーの向上とチェンジマネジメントの推進を柱とする具体的な戦略です。
また、第7次連結中期経営計画では、DX を重要な変革の柱として位置付け、全社的な戦略との整合性をとっています。
[Step 4] ビジョンを周知する
ルゾンカ氏は、策定したビジョンと戦略を社内外に積極的に発信しました。
経営陣との頻繁なコミュニケーション、各事業部門の責任者との密な連携、社内プログラムを活用してのアイデア共有など、様々なアプローチからビジョンの浸透を図りました。
また、「コスモの 5C」 (Chance, Challenge, Change, Communicate, Commit) という行動指針を設定し、DX に向けた具体的な行動規範を示しました。
[Step 5] メンバーが行動しやすい環境を整える
コスモエネルギー HD はデータ活用を促進するため、データ基盤の整備やツールの導入を進めました。BI ツールの導入はその一例です。
また、2025年度末までに900人の 「データ活用コア人材」 を育成する計画を立て、データストラテジスト、データサイエンティスト、データエンジニアの3種類の教育プログラムを用意しました。社員が DX に参加しやすい環境を整えています。
[Step 6] 短期的な成果を生む
ルゾンカ氏は 「クイックウィン」 を意識し、短期的な成果をまず上げることを重視しました。
たとえばツールの導入による業務効率化によって、社内で DX が着実に進んでいることを示しました。リアルタイムでのデータ活用の推進により、意思決定の迅速化や顧客サービスの向上など、具体的な成果を打ち出しました。
[Step 7] さらなる変革を進める
コスモエネルギー HD では初期の成功を受けて、より広範囲な DX 施策を展開しました。
外部パートナーとの連携を強化し、新しいデジタルサービスの開発や既存業務のさらなるデジタル化を進めています。また、データのリアルタイム活用範囲を拡大し、より多くの業務プロセスに DX を適用していきました。
[Step 8] 新しい方法を文化として根づかせる
コスモエネルギー HD は、DX を一時的なプロジェクトとするのではなく、持続的な取り組みとして定着させるため、組織文化の変革に注力しました。
具体的には 「失敗事例共有会」 の開催や、チャレンジを奨励する風土づくりなどによって、デジタルを活用した業務改善や意思決定を日常的に行う文化の醸成に努めています。
また、継続的な人材育成プログラムの実施により、DX スキルを持つ人材を常に供給し、組織全体のデジタル能力を高め続ける仕組みを構築しました。
このように、コスモエネルギー HD の DX 推進は、「八段階の変革プロセス」 に沿って体系的に進められていることがわかります。各段階で 「泥臭い」 取り組みを重ねることで、着実な成果を上げているのです。
CDO のルゾンカ氏のリーダーシップのもと、コスモエネルギー HD では技術導入だけでなく人材育成と組織文化の変革を重視したアプローチは、長期的かつ持続可能な DX の実現を目指す例として参考になります。
まとめ
今回はコスモエネルギー HD の DX の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 危機意識を高める: コスモモエネルギー HD は石油以外の事業として、エネルギー産業の変革と脱炭素化の必要性を認識
- 推進チームをつくる: CDO を中心に多様な人材で構成されたコアチームを編成
- ビジョンと戦略を立てる: 「Cosmo’s Vision House」 を策定し、全社的な戦略との整合性を確保
- ビジョンを周知する: 経営陣とのコミュニケーション、社内プログラムなども活用し社内と社外へ積極的にビジョンを発信
- メンバーが行動しやすい環境を整える: データ基盤とツールを整備し、人材育成にも注力
- 短期的な成果を生む: ツール導入で業務効率化。意思決定を迅速化し、顧客サービスの向上
- さらなる変革を進める: 広範囲な DX 施策と外部連携を推進
- 新しい方法を文化として根づかせる: 失敗事例共有会、チャレンジ奨励、継続的な人材育成など、持続的な DX と文化醸成を促進
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