#マーケティング #戦場 #勝ち筋
新しい商品を開発する際、あなたならどのような戦略をとりますか?
全く新しい市場を開拓するのか、それとも既存の市場で勝負するのか。いずれの場合も、もしかしたら 「新しさ」 にこだわるあまり、過度なリスクを負うことになるかもしれません。
ビジネスで重要なのは、「どこで戦うか」 という戦場の見極めです。
今回は、旅行や出張のお土産の定番菓子であるバターサンドに新しい風を吹き込んだ 「プレスバターサンド」 を取り上げます。この事例から、新商品開発における "市場の選択" と "勝ち筋の追求" の重要性を解説します。
プレスバターサンド
新幹線の駅などのお土産屋さんでは、色鮮やかな箱菓子が積み上げられている光景が一般的です。
そんなイメージとはかけ離れた、スタイリッシュな店舗とお土産商品を展開するのが、BAKE (ベイク) が手掛ける 「PRESS BUTTER SAND (プレスバターサンド) 」 です。
商品の特徴
プレスバターサンドは、普通のバターサンドとは一線を画す特徴を持っています。
バターサンドといえばレーズンが入っているのが通常ですが、プレスバターサンドはレーズンが入っていません。代わりに、バタークリームとキャラメルを使います。レーズンの味が苦手な人にも食べやすく、より多くの人に好まれる味わいを目指しました。
レーズンを使わないもうひとつのメリットは、賞味期限を2週間に設定でき長くなることです。
他にも特徴があり、食べるときにバタークリームがはみ出して手がベタつくことを避けるため、クッキーを 「コの字形」 に設計しています。これにより常温で持ち運べる、プレスバターサンドは手軽なお土産品に仕上がっています。
パッケージの特徴
プレスバターサンドのパッケージは、お土産品によくある明るく可愛らしいイメージとは真逆です。シンプルでスタイリッシュなデザインが特徴的です。
プレスバターサンドはグレーを基調とし、ワンポイントで蛍光オレンジの差し色を入れた見た目なので、ビジネスパーソンがスーツ姿で出張先や帰りの同僚へのお土産として持っていても、違和感のないたたずまいになります。
色使いには、プレスバターサンドのものづくりのイメージを反映したとのことです。グレーはインダストリアルな工場や鉄のプレス機を、蛍光オレンジは鉄を熱する際の炎をイメージしています。シンプルな中にも、ブランドのアイデンティティが感じられる洗練されたパッケージです。
学べること
ではプレスバターサンドから、学べることを掘り下げていきましょう。
この事例から学べるのは、新商品をどのカテゴリーに参入するかの見極め方です。
10人中8人が知っているカテゴリーで勝負
プレスバターサンドは、新製品の開発において、10人中8人が知っているカテゴリーで勝負する方針をとりました (参考記事) 。
8割の人が知っている定番カテゴリーを選ぶことで、全く新しいカテゴリーを自分たちだけでつくりにいくリスクを避けています。すでに存在する土俵を選び、その中でいかに自分たちが選ばれるのかの勝ち筋をつくることを優先するというアプローチです。
新しいカテゴリーを自分たちで開拓するのは、ハイリスクハイリターンです。仮にリターンが得られたとしても、手間や時間がかかります。
プレスバターサンドの場合、もしバターサンドという既存のカテゴリーではなく、全く新しいカテゴリーを打ち出したとすれば、そのカテゴリー自体の認知や興味を新たにつくり出さなければいけません。カテゴリーへの認知が整って、その後に商品を訴求するという二段階のマーケティングが必要になります。
プレスバターサンドはそうはしませんでした。すでに8割の人が知っているお土産のお菓子の定番カテゴリーのひとつであるバターサンドを選びました。
バターサンドであればすでに多くの人が知っているので、カテゴリーの新規開拓は不要です。最初からカテゴリー内での商品レベルでの勝負に入っていけます。
まずは "戦場" を決める
プレスバターサンドの事例からの示唆は、「どうやって戦うか」 の前に 「どこで戦うか」 という戦う場所を定めることの重要性です。
ビジネスにおいて、どこで戦うのかという戦場を選ぶのは戦略の前提になります。戦う場所を定める際には、すでに一定数の人が知っていたり、使っているカテゴリーを選べば、その中でいかに戦い方を展開するかをすぐに考えはじめられます。
次に "どう戦うか" を決める
プレスバターサンドは、既存の人気カテゴリーに入り込み、そこで独自の工夫を加えることで差異化を図りました。
バターサンドというカテゴリー自体は広く知られており、消費者にとって親しみやすいものです。そこで、バターサンドの定番であるレーズンを抜き、バタークリームとキャラメルを使った新しい味わいにしました。このアプローチにより、既存のカテゴリー内でありながら新鮮な驚きを提供することができたのです。
また、パッケージデザインにも工夫を凝らしました。シンプルでスタイリッシュなパッケージにより、従来のお土産品のイメージを刷新しました。消費者に新しい体験をもたらすとともに、ブランドの個性を強調します。
戦場と勝ち筋
プレスバターサンドの事例から学べるのは、新商品を開発する際の 「戦う場所」 を選ぶ大切さです。
絶対的な正解はありませんが、すでに一定の認知度があるカテゴリーを選び、その中での勝ち筋を追求するというのは有効な手です。
勝ち筋には、製品だけでなく、店舗設計やパッケージデザイン、価格設定など、トータルでの顧客体験設計を考えることが求められます。
このようなアプローチは、他のビジネスシーンでも応用可能です。
新しい市場に参入する際には、既存の市場の中で勝負するのか、それとも新しい市場を開拓するのかを見極めることが大事です。そして、選んだ市場でいかにして戦うか、あるいは戦わないかを追求することで、お客さんへの価値につなげ、お客さんから選ばれる存在になれるかが成功のカギを握ります。
まとめ
今回は BAKE のお土産菓子 「プレスバターサンド」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ビジネスにおいて重要なのは 「戦う場所」 、つまり市場を選ぶこと。どう戦うか (How to win) の前に、どこで戦うか (where to play) を決める
- 新商品開発では、戦う場所を見極め、その戦場での勝ち筋を見出すことが大事
- たとえば、多くの人が知っているカテゴリーを選べば、その中でいかに戦うかをすぐに考えはじめられる。製品だけでなく、店舗やパッケージ、価格設定などトータルな顧客体験の設計を通じて勝ち筋を追求する
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