#マーケティング #ZMOT #顧客理解
お客さんの心をつかむタイミングは、いつ、どこからでしょうか?
かつては店頭でのお客さんと商品との出会いが初めての決め手でした。しかし、デジタル時代ではもっと前にその機会があります。スマートフォンを手にした瞬間から、お客さんの購買行動は始まっているのです。
この変化は、マーケティングにどんな影響を与えるのでしょうか?そして、どのように適応すればよいのでしょうか?
今回は、マーケティングの概念である 「ZMOT」 というレンズから、その答えを探っていきます。
"旅マエ"をとらえる重要性
訪日外国人観光客の行動パターンが変化しています (参考記事) 。
来日時でのアピールでは遅い
ある調査によれば、訪日客の 81% が渡航前に旅の日程を決定しているとのことです。
マーケティングの観点でこの事実が意味するのは、日本に来日している旅行中のタイミングで訪日客に PR をしても、すでに遅いということです。企業は 「旅マエ」 、つまり旅行前の段階で訪日予定の観光客にアプローチすることが重要になります。
特に若い世代の訪日客の特徴として、Z 世代と呼ばれる若年層は "失敗を避けたい" という気持ちが強く、SNS などを使って事前にしっかりと情報収集を行い、行きたい場所やお店、購入したい商品をあらかじめ決めてから来日する傾向があるようです (参考記事) 。
企業の取り組み例
こうした変化に対応するため、すでにいくつかの企業は 「旅マエ」 へのコミュニケーションを展開しています (参考記事) 。
ビックカメラ
ビックカメラは、外国人が来日する航空機の機内にビジネス機会を見出しました。
中国発の日本への便を中心に、客室乗務員がクーポン冊子を直接手渡ししています。さらに、空港のリムジンバスのチケットの裏にもクーポンを印刷するなど、訪日旅行者が目的地に到着する前のタイミングで自社の認知度を高める工夫をしています。
また、SNS インフルエンサーを活用したデジタルクーポンの配布も行っており、これらの施策により、外国人客の約 40% がクーポンを使うという成果を上げました。
エディオン
エディオンは、韓国からの観光客をターゲットにした独自のアプローチを展開しています。
エディオンの大阪のなんば本店内に、韓国の旅行情報サイト 「フライング」 が運営する旅行案内所をオープンしました。案内所では、観光チケットの発券や荷物預かりなどのサービスを行っています。
また、「フライング」 のサイトで店舗で使えるクーポンを配信するなど、旅行計画段階からエディオンの店舗訪問を促します。
資生堂
資生堂は、オンラインを活用した事前アプローチを実施しています。
中国語に堪能な美容部員によるオンライン肌相談サービスを開始し、来日前に訪日客の肌の悩みや好みを聞き取り、おすすめの商品を提案します。
お客さんが来日後に、空港や店舗で提案された商品を免税価格で購入できるシステムを構築しました。さらに、中国の大手旅行サイト 「携程旅行網 (シートリップ) 」 にバナー広告を出稿するなど、旅行を計画するタイミングでの認知度向上にも力を入れています。
ZMOT から解説
ではここまで見てきた 「旅マエ」 の事例について、さらに掘り下げていきましょう。
マーケティングでは、お客さんの購買の意思決定プロセスを理解することが大事です。
Moment of Truth
ご紹介したいのは 「Moment of Truth」 という概念です。直訳をすれば 「真実の瞬間」 です。
Moment of Truth にはいくつかの種類が存在します。それぞれ First や Second を付け、「First Moment of Truth (FMOT) 」 や 「Second Moment of Truth (SMOT) 」 、「Third Moment of Truth (TMOT) 」 とします。ちなみに FMOTは日本語では 「エフモット」 と呼びます。
FMOT は店頭でお客さんが商品と出会う瞬間、SMOT は買った商品を使う瞬間、TMOT はリピート購入をする瞬間を指します。
Moment of Truth にはもうひとつあり、デジタル時代の到来により、お客さんがお店で商品と出会う FMOT の前に 「Zero Moment of Truth (ZMOT) 」 という重要な瞬間があります。
ZMOT とは
ZMOTとは、人が実際にお店や EC サイトで商品を手に取る前のオンライン上での情報収集での大切な瞬間のことです。
この段階では、人は口コミ、レビュー、比較サイトなどを通じて製品やサービスについて調べ、買うかどうかを判断します。ZMOT は、お店やウェブサイトでの実際の購買行動よりももっと前の段階で発生し、お客さんの購入への選択に影響を与えます。
訪日客争奪戦における ZMOT の重要性
では、訪日外国人観光客のインバウンド市場において、ZMOT の概念を当てはめてみましょう。
先ほど触れたようように、訪日客の 81% が渡航前に日本での旅行や観光の日程を決めていという状況は、日本に到着する前の段階で、多くの訪日客が消費行動も考え始めていることを示唆します。
これは ZMOT の重要性を示しています。
ビックカメラの事例では、航空機内でのクーポン配布により能動的に ZMOT をつくり出しています。日本到着前のこの時点で、ビックカメラは自社の存在と価値提案を訪日客の記憶に刻み込もうとしているわけです。SNS のインフルエンサーを活用したデジタルクーポンの配布も同様です。訪日客の購買意思決定プロセスに早いタイミングから入り込み、実際の店舗訪問につなげる狙いです。
エディオンの取り組みも、ZMOT を意識したものです。韓国の旅行情報サイトとの連携から、韓国からの訪日客が旅行計画を立てるという ZMOT の時点で、エディオンの存在を認知してもらいます。サイト内の旅行案内所の設置は、オンラインでの情報収集 (ZMOT) と実際の店舗体験 (FMOT) をスムーズにつなげる試みです。
資生堂のオンラインでの肌相談サービスも、ZMOT をとらえる活動です。来日前にオンラインで個別相談を受けてもらうことで、訪日客の ZMOT を生みだし、資生堂製品への興味を喚起します。
学びの一般化
では最後のパートでは、マーケティングへの学びとして、ZMOT をどのように活用するかを考察します。
デジタルプレゼンスの強化とコンテンツの充実
ZMOT の多くがオンライン上で発生することを踏まえると、ネット上での存在感 (プレゼンス) を高めることが重要です。
たとえば SEO 対策、ソーシャルメディアを使ったマーケティング、コンテンツマーケティングなどによって、お客さんが情報を探す場所に確実に自分たちが存在することが大事です。
ZMOT では、お客さんはさまざまな情報源から情報を収集します。製品やサービスに関する豊富で質の高い情報を提供することが、競争優位性を獲得するカギとなるでしょう。
口コミやレビューなどのユーザー生成コンテンツ (UGC) は、ZMOT での影響力を持ちます。ポジティブな口コミだけではなくネガティブな意見に適切に対応することで、お客さんからの信用を獲得し、購買意欲を高めることにつながります。
カスタマージャーニーの最適化とパーソナライゼーション
ZMOT はカスタマージャーニーの重要な一部です。
お客さんの情報収集から購買決定までのプロセスを理解し、各段階で適切なお客さんとの接点 (タッチポイント) を設けることが必要になります。たとえば、資生堂の事例が示すように、ZMOT の段階からお客さん一人ひとりのニーズに合わせたパーソナライズされた体験を提供するというふうにです。
このようなアプローチは、お客さんとの深い関係を構築します。また、お客さんのニーズをより正確に把握することで、製品やサービスの改善にもつながり、長期的な企業成長に寄与します。
クロスチャネルマーケティングと先行的ブランド構築
ビックカメラやエディオンの事例は、オンラインとオフラインのチャネルを効果的に組み合わせることの重要性も示しています。
ZMOT から実際の購買まで、シームレスな顧客体験を提供することが大切です。お客さんの購買意思決定プロセス全体をサポートし、スムーズな購買行動を促進することができます。
同時に、ZMOT の段階でブランドイメージを訴求するといいでしょう。ブランドからの価値提案をしっかりと伝え、信頼を醸成することが重要になります。
このように、ZMOT をとらえるマーケティングによって、お客さんとの関係性を深め、長期的な成功につなげられます。ZMOT の重要性を認識し、戦略的にアプローチすることで競争優位性を獲得し、持続可能な成長を実現することができるでしょう。
まとめ
今回は、インバウンドの訪日観光客の消費トレンドから、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ZMOT (Zero Moment of Truth) は、デジタル時代の顧客購買プロセスを理解する上で重要な概念。FMOT (店頭で出会う瞬間) や SMOT (商品を使う瞬間) に先立ち、オンラインでの情報収集段階が ZMOT
- マーケティングにおいて ZMOT を活用するためには、デジタルでの存在感 (プレゼンス) の強化が重要
- SEO 対策や SNS マーケティング、コンテンツマーケティングから、見込み顧客が情報を探す際に自社商品やブランドの存在を知って、興味を持ってもらう
- また、ユーザー生成コンテンツ (UGC) を活用し、ポジティブな口コミを増やし、ネガティブな意見にも適切に対応することで信用を得て、購買意欲を高めることを狙う
- カスタマージャーニーをとらえ、お客さんの情報収集から購買までのプロセスを理解し、各段階で適切な顧客接点を設ける。オンラインとオフラインで体験を途切れさせることなくシームレスな連携により、顧客体験をより良くする
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