#マーケティング #パーセプションチェンジ #ジョブ理論
売上を伸ばすためには、何をすればいいと思いますか? 新しい商品を開発したり、大規模なプロモーションを展開したりと、様々な施策が思い浮かぶのではないでしょうか。
新商品の投入は有効な手ですが、既存商品の利用用途を増やすことでも、売上の増加につなげられます。でも、具体的にはどうすればいいのでしょうか?
味の素の 「Cook Do オイスターソース」 の事例は、成功例として参考になります。その背景にはジョブ理論を活用した巧みなマーケティングが隠されていました。
ジョブ理論を理解し、活用することで、商品やサービスの価値を最大限に引き出すことができます。ぜひ一緒に、その秘訣を探っていきましょう。
売上を増やすには?
売上を上げるためには 「客数を増やす」 か 「お客さん1人当たりの客単価を上げる」 という大きく2つのアプローチがあります。
では、2つのいずれか、または両方を実現するためにはどうすればいいのでしょうか?
1つの有効な方法は、「既存商品の利用用途を増やすこと」 です。
この観点で、味の素の 「Cook Do オイスターソース」 の事例が参考になります。
Cook Do オイスターソース
味の素の 「Cook Do オイスターソース」 は1995年に発売されたロングセラー商品です。家庭での中華料理に使われ、長年にわたって支持されてきました。
味の素の 「Cook Do オイスターソース」 は発売以来、エスビー食品の 「李錦記 (りきんき) オイスターソース」 に先行され、長年シェア2位以下に甘んじていました。しかし、2023年に売上を前年比2桁パーセント増と伸ばし、ついにトップシェアを獲得しました。この躍進の背景には、戦略的なマーケティング施策がありました。
以前の課題
シェアが2位だったときにあった味の素の課題感は、Cook Do オイスターソースは中華料理専用というイメージが強かったことです。
これ自体は決して悪いわけではありませんが、多くの消費者が 「Cook Do オイスターソースは中華料理をつくるときに使うもの」 と認識していたため、中華以外の普段使いの調味料としてのイメージは持たられていなかったわけです。
環境変化をきっかけにした再検証
その当時、世の中の状況がコロナ禍で、家庭料理への関心が高まっていた状況でした。味の素は消費者のこうした関心の高まりをきっかけに、Cook Do オイスターソースのポテンシャルを再検証しました。
社内では事業部とマーケティング部が一体となり、初期段階から緊密に連携。Cook Do オイスターソースへの既存の商品イメージを書き換えるという強い目的意識のもと、従来の 「商品の特徴やブランドメッセージ重視」 から、徹底的に生活者視点に立つマーケティング方針を策定し、施策を次々と展開していきました。
ヘビーユーザーの間では、オイスターソースを肉野菜炒めに入れたり、おでんや煮物、煮込み料理に加えたりするなど、普段使いの調味料として利用することが浸透していました。こうしたヘビーユーザーの使いかた (Cook Do オイスターソースの普段使いの調味料としての活用) をとらえ、これをヒントにオイスターソースを 「中華専用」 から 「普段使いの万能調味料」 へとイメージチェンジを図ったのです。
コミュニケーション施策
俳優の藤原竜也さんを起用した CM では、レタスや卵かけご飯などに Cook Do オイスターソースをかける様子を映し、「信じるか信じないかはあなた次第」 というメッセージで視聴者の興味を喚起しました。
また、「瞬間消滅レタス」 というレシピを軸に、レタスの主要産地の新聞に全面広告を掲載。藤原竜也さんの顔が印刷された 「レタス保存用新聞」 は大きな話題となりました。
出典: PR TIMES
全ての施策が大成功というわけではなかったようですが、新商品や大規模なリニューアルに頼らず、味の素は Cook Do オイスターソースにおいて、既存商品のテコ入れからの活性化による事業成長を実証したのです。
パーセプションチェンジ
味の素の Cook Do オイスターソースの事例は、マーケティングの 「パーセプションチェンジ」 という観点で学びがあります。
価値イメージを変える
パーセプションチェンジとは、マーケティングの文脈においては、お客さんが持っている特定のブランドや商品のイメージや認識 (パーセプション) を意図的に変えることを指します。新たな価値をお客さんに伝えたり、既存の固定されたイメージをつくり変えるためのアプローチです。
Cook Do オイスターソースに当てはめると、従来のパーセプション (商品への認識やイメージ) は、中華料理をつくるときに使う 「中華専用の調味料」 というものでした。それに対して新たに狙ったパーセプションチェンジは、中華だけではなくいろいろな料理に使え、「普段使いができる万能調味料」 です。
入口を増やす
これが意味するのは、利用用途を意図的に増やすことで、商品を使う 「入口」 をたくさん用意したということです。
それにより中華料理を家で作らない人も Cook Do オイスターソースを手に取るという新規顧客の獲得、また Cook Do オイスターソースを中華料理用に使っていた人が、他のメニューにも使用することで1人あたりの使用量が増え、ひいては客単価が上がることを狙ったというわけです。
Cook Do オイスターソースの事例はパーセプションチェンジを起こし、商品への入口 (エントリーポイント) を増やし、客数の増加と客単価の向上という両方を期待できる事例です。
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では、パーセプションチェンジを起こすためにはどうすればいいのでしょうか?
以下の最後のパートではこの論点を掘り下げていきます。
ヒントは 「ジョブ理論」 にあり
そのヒントはジョブ理論にあります。
ジョブ理論とは
ジョブ理論 (Jobs to Be Done) は、クレイトン・クリステンセンによって提唱された理論です。
ジョブの定義は 「人がある特定の状況で遂げたい進歩 (progress) 」 です。ジョブとは人が片付けたい用事や達成したいタスクのことを指します。
ジョブ理論で特徴的なのは、製品やサービスのことをお客さんのジョブを達成するために 「雇われる存在」 という視点にあります。つまり、お客さんは製品のことを、自分のジョブを片付けるために働いてくれる 「ワーカー」 として雇用し選び、利用するのです。
スペシャリストからジェネラリストへ
利用用途を増やすということをジョブ理論に当てはめると、お客さんが持っている今までとは違うジョブを完了させようとすることです。
Cook Do の場合は、これまでは 「家で本格的な中華料理を食べたい」 というジョブのために Cook Do オイスターソースが最適なワーカーとして選ばれていた状況でした。いわば中華料理という仕事を片付けるための 「スペシャリスト」 という存在だったわけです。
味の素が狙ったパーセプションチェンジは、「中華だけではなくいろいろな料理に使え、普段使いができる調味料」 でした。
ジョブ理論のレンズを通して見れば、とらえようとした消費者のジョブとは、たとえば、「家でつくる料理を簡単にでき、それでいて本格的なおいしい料理にしたい」 、「家族のために少しでもおいしい料理をつくりたい」 です。
このジョブへのワーカーとして雇ってもらうためには、今までの中華料理のスペシャリストから、さまざまな料理に対応できる万能な 「ジェネラリスト」 になることが必要です。中華料理のスペシャリストでありつつ、ジェネラリストへの転身を図ろうというわけです。
ジェネラリストとして認めてもらうために
とはいえ、自分たち売り手がジェネラリストになれると信じたとしても、買い手であるお客さんからそう思われなければ、ジェネラリストとしてお客さんから雇われることはありません。
そこで味の素が展開したのが、先ほど見た次のようなマーケティング施策でした。
- 生活者視点の導入: 味の素は 「中華専用」 から 「普段使い」 の調味料へと認識を変えるため、生活者の視点に立ったレタスの保存方法やレシピ情報を積極的に発信
- 広告の展開: 俳優の藤原竜也さんを起用し、Cook Do オイスターソースの多様な使い方を紹介する CM を放映。新聞広告などでは 「瞬間消滅レタス」 を提案した
アプローチとしては、まずは関心を持ってもらい、おもしろ半分でもいいのでまずは Cook Do オイスターソース を中華料理以外にもとりあえず試してもらうというものです。
逆に言えば、一度でも使ってもらえれば Cook Do オイスターソースの汎用的な使い勝手の良さ、ジョブ理論で言えば 「料理へのジェネラリストとしてお客さんのジョブを完了できる」 という確信が味の素にはあったのでしょう。
お客さんのジョブに雇われるための施策
ジョブ理論の観点で味の素がやったことを整理すると、
- お客さんが中華料理をつくる以外の料理へのさまざまなジョブの見極め
- そのジョブを済ませるために必要な要素 (ジョブスペック) を持つ存在として Cook Do を再定義
- 「中華のスペシャリスト」 から 「中華スペシャリスト + ジェネラリスト」 として雇ってもらえる施策を訴求
このようにジョブ理論をうまく活用することで、Cook Do オイスターソースはお客さんからの商品へのパーセプションチェンジを起こし、客数増加と客単価向上のダブルで売上に貢献したのです。
まとめ
今回は、味の素の 「Cook Do オイスターソース」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
✓ ジョブ理論とは- ジョブ理論 (Jobs to Be Done) のジョブとは、「人が特定の状況で遂げたい進歩」
- 商品やサービスはお客さんがジョブを達成するために 「雇われるもの」 と捉える
- お客さんは、自分のジョブを片付けるために最適な 「ワーカー」 として商品を選ぶ
- ジョブ理論を味の素の Cook Do の事例に当てはめると、オイスターソースはこれまでは 「自宅で本格的な中華料理を作って食べたい」 というジョブを達成するための 「スペシャリスト」 として選ばれ雇用されていた
- 味の素はパーセプションチェンジ (商品の価値イメージの変化) を狙い、Cook Do のことを 「中華だけではなく、いろいろな料理に使える万能調味料」 として再定義した
- 消費者がさまざまな料理で Cook Do を使いたいと考える 「ジェネラリスト」 への転身を図った
- ジョブ理論を活用し、お客さんの 「ジョブスイッチ」 を促す
- 想定するお客さんのジョブを見極め、そのジョブを達成するための最適な 「ワーカー」 として商品を再定義する
- お客さんにジョブを思い出してもらうシーンを再現し、そのシチュエーションで実際に商品を試してもらうなどのコミュニケーションをとることで、お客さんに 「これなら自分のジョブを完了できる」 と期待を持ってもらえ雇用されることを目指す
