#マーケティング #顧客インサイト #マーケティングリサーチ
顧客の声を丁寧に集めても、きれいにまとめた瞬間に、大事な本音が消えてしまうことがあります。
サンスターの子ども向けブランド 「SODATECO」 (ソダテコ) は、N1 調査で一人ひとりの声を掘り下げ、ブランドの意味を見直しました。
この事例から、顧客インサイトの見つけ方と活かし方を解説します。
サンスター 「SODATECO」
出典: PR TIMES
ブランドの背景と課題
SODATECO は、腸内フローラが大体 3 歳頃までにほぼ決まるという知見をもとに、おくち・おはだ・おなかの 3 領域のケアに着目した子ども向けブランドです。2020 年に誕生しました。
サンスターには 「おくちの健康を増進することが全身の健康を増進することにつながる」 という創業の想いがあります。その考えを子どもの時期から実践していこうというのが、このブランドの根幹です。
SODATECO は順調に商品ラインアップを拡充していきましたが、その過程で 「誰に、何を届けるブランドなのか」 を改めて問い直す必要が出てきました。それまでの 「おくちとおなかの健康を通じて、子どもの健全な発育と成長を叶える」 という SODATECO のブランドとしての方向性は、社内では異論が出ないものの、お母さんの心を強く動かす言葉にはなっていませんでした。
N1 調査で何を明らかにしようとしたのか
サンスターは、表面的なニーズの確認ではなく、お母さんたちの行動の背景にある本音や価値観を捉えるために、インサイト調査の専門家と組んで N1 調査を実施しました (参考情報) 。
具体的には 「イマージョン」 と呼ばれる手法で、対象者に事前に宿題を出し、自分自身の行動や考えを振り返ってもらったうえでインタビューに臨んでもらうアプローチです。
一人ひとりの具体的な生活や感情を掘り下げ、「本当に向き合うべき顧客像 (Who) 」 と 「その人に響く価値 (What) 」 を見つけようとしました。
顧客インサイトとは何か
インサイトとは
インサイト (Insight) とは 「中 (in) を見る (sight) 」 が語源で、ビジネスでは 「データや情報、観察を通じて得られる対象への深い理解や洞察のこと」 を意味します。
顧客インサイトとは
インサイトに 「顧客」 をつけるのが 「顧客インサイト」 です。顧客インサイトとは、お客さんの中を見ることなので、「お客さんを動かす隠れた気持ち」 が顧客インサイトです。
表面的な言動からはうかがい知れない、お客さんの奥にある心理を指します。普段は本人も意識していませんが、何かのきっかけで刺激されると、思わず買いたくなる行動につながる 「心のスイッチ」 のようなものです。
「子どもの健康を守りたい」 と言うお母さんの奥には、「自分の過去を乗り越えるように、子どもにはもっと良い未来を渡したい」 という深い気持ちが隠れていました。
調査で見えてきたのは、将来のためにがんばっているのではなく、お母さん自身の過去の経験や後悔が、今の子育て行動を動かしているという構図です。
良い顧客インサイトの 5 つの条件
ビジネスとして機能する顧客インサイトには、5 つの条件があります。
1つ目は、聞き手がハッとする発見があることです。SODATECO では、「将来のため」 ではなく 「過去の経験が行動を動かしている」 という気づきがありました。お母さんは未来を見ているようで、実は自分の過去と向き合っていた。この視点の転換こそが、チームに新しい方向性を開いたのです。
2つ目は、発想を広げるインスピレーションがあること。サンスターは母親の心理への発見から、商品訴求を 「親から子への贈り物」 という文脈に広げられました。
3つ目の良い顧客インサイトの条件は、担当者自身が心から腑に落ちていることです。自分たちでインタビューを行い、お母さんの言葉を直接聞いたことが、チームの納得感につながりました。
4つ目は、1 行で言い表せる明確な言葉にできていることです。「今しかできない贈り物。一生ものの贈り物。」 というメッセージは、顧客インサイトを誰にでも伝わる一行に落とし込んだものです。
5つ目のポイントは、人間らしさがあることです。親が自分の過去を子どもに重ね、子どもには自分以上になってほしいと願う。この気持ちは理屈ではなく、子を持つ親なら思わずうなずいてしまう感情です。人間の本質に触れているからこそ、聞いた人の心が動くのです。
顧客インサイトを発掘するポイント
顧客インサイトを発掘するのはそう簡単ではなく、魔法の杖のようなものは存在しません。
思い込みを手放し、お客さんに深く向き合う
企業の中にいると、どうしても 「自社カテゴリが一番大切なはず」 という思い込みが生まれやすくなります。SODATECO でも、「サンスターだからおくち」 というメーカー視点が無意識の前提になっていました。
以前の調査では 「おくちの健康と全身の健康、どちらが大事ですか?」 と聞いて 「どちらも大事」 という回答を得ていました。これを見るとお口への重要度が高いように見えます。
しかし、「今、お子さんの健康で何が一番気になっていますか?」 と訊き方を変えたところ、お口の話はほとんど出てきませんでした。真っ先に出てきたのは、風邪をひく、ぐずって食べない、寝てくれないといった子育てへの日常の困りごとです。10 人中 9 人が全身の健康に関する話をしていました。
思い込みではなく、実在するお客さんがどう感じ、どう行動しているのかにリアルに接することが顧客インサイト発掘の出発点になります。
N1 の具体的なストーリーを安易にまとめない
今回の事例で示唆的なのは、調査を伴走した専門家が 「違う人の話を安易にまとめようとしてはダメ」 と強調していた点です。
マーケターは、複数のお客さんの声を整理し、二軸でまとめたりマトリクスにしたりしたくなります。しかし、それを急ぐと一人ひとりの固有の感情が抜け落ちてしまいます。
たとえば 「子どもが歯みがきを嫌がるのを押さえつけて、達成感もあると同時に罪悪感でしんどい」 という声があったとしましょう。これを 「仕上げ磨きは大変」 とひとまとめにした途端、罪悪感、達成感、焦り、迷いといった切実な感情が消えてしまいます。確かに 「大変」 ではあるのですが、それでは 「お母さんの苦労を和らげます」 という、今までと何も変わらない商品しか生まれません。
顧客インサイトを見出すヒントは、平均値ではなく、個々のストーリーの中に埋まっています。そのストーリーはときには外れ値のようなところにあったりします。
一人ひとりのエピソードに留まり、そこに何があるのかを見つめるという姿勢が、既存の概念を超えた発見につながるのです。
愚直に掘り下げた先にインサイトがある
顧客インサイトは、一回の調査で簡単に見つかるものではありません。インタビュー中にすぐ答えが出ることは稀で、後から発言録の記録を見返したりチームで議論したりする中で、はっと見えてきます。
サンスターの SODATECO でも、事前設計、宿題、インタビュー、分析というプロセスを丁寧に積み重ねる中で、少しずつ見えてきました。泥臭くても、自分たちでお客さんに向き合い続けることで、解像度の高い顧客インサイトを掘り起こせます。
顧客インサイトからの価値提案
見出した顧客インサイトに響くような商品の魅力を、価値として提案します。ここにマーケティングを成功させるカギがあります。
インサイトを顧客設定と提供価値の設計につなげる
サンスターの SODATECO では、N1 調査を通じて 「自分の過去を重ねながら、子どもにより良い未来を贈りたいと願う母親」 という注力顧客像が見えてきました。顧客定義の解像度が上がったことで、訴求する価値も健康機能の訴求にとどまらず、親の想いを支える価値へと変わりました。
インサイトを商品価値やブランドの意味に反映する
SODATECO のもともとのブランドパーパス (社会的な存在価値) は 「おくちとおなかの健康を通じて、子どもの健全な発育と成長を叶える」 でした。正しいけれど無難で、誰も反対しない代わりに、心を揺さぶったり動かすほどのインパクトは持ち合わせていませんでした。
そこから 「今しかできない贈り物。一生ものの贈り物。」 へ変えたことによって、SODATECO は親の願いを託せるブランドへと変わりました。サンスター社内でもすぐに支持が集まったそうです。背景にあるお母さんのリアルなインサイトが、関わるメンバーにとって納得できるものだったからです。
お客さんの切実な声にもとづく顧客インサイトは、部署を超えた共通言語になります。マーケティング部門だけでなく、商品開発、営業、コミュニケーションが同じ方向を向くための土台になるのです。
コミュニケーションにも一貫して反映する
良い顧客インサイトが見つかっても、売り場や広告、パッケージ、発信内容に落ちていなければ、お客さんには届きません。
SODATECO でも、顧客インサイトをどう広げていくかにはまだ課題が残っていました。一方で、売上が伸びている商品も出てきており、少しずつ手応えも感じているとのことです。
顧客インサイトに導かれた価値提案を一貫して届け続けることが、お客さんから長く選ばれる理由をつくっていきます。
まとめ
- 顧客インサイトとは、お客さんを動かしている隠れた気持ち。表面的な言動ではなく、行動の奥にある 「心のスイッチボタン」 を見つけにいく
- お客さん一人ひとりの声を安易にまとめず、個々の具体的なエピソードや感情に目を向けることで、既存の概念を超えた発見が生まれる
- 見つけた顧客インサイトは、顧客設定と提供価値の設計からブランドパーパス (ブランドの社会的な存在価値) 、コミュニケーションまで一貫して反映してこそ力を発揮する
