投稿日 2022/07/26

e スポーツでの英会話レッスンに学ぶ、「ドリルではなく穴」 での価値のつくり方


今回のテーマは価値のつくり方です。「ドリルではなく穴」 になるサービス設計をし、価値を提供しようという話です。

おもしろいと思ったオンライン英会話サービスを取り上げ、マーケティングに学べることを見ていきます。

✓ この記事でわかること
  • e スポーツを使う 「オンライン英会話塾」 
  • 学びと実践がセットになったレッスン
  • 「目的の手段化」 からの価値提供
  • マーケティングの格言 「ドリルと穴」 との共通点

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

ゲームをしながらの英会話レッスン


ご紹介したいのはゲシピの 「オンライン英会話塾」 です。

オンラインでのゲーム (e スポーツ) をしながら英会話レッスンを受けらます (公式サイトはこちら) 。

フォートナイトでの英会話レッスン (出典: Diamond Signal

小学生を中心に人気に


以下は日経新聞からの引用です。

e スポーツイベント運営のゲシピ (東京・千代田) が手がける 「オンライン英会話塾」 が利用者を増やしている。

小学生を中心に初級から上級までコースを用意。夏には高校生以上向けを拡充し、発音練習のメニューも増やす。e スポーツの普及に合わせ事業拡大を狙う。

レッスンの中身


実際のレッスンの様子を紹介する動画はこちらです。


ゲームをプレイしながらなので子どもが自分から受けたくなる英会話レッスンです。


オンライン英会話塾のレッスンの中身を詳しく見てみると、

生徒には事前に簡単なフレーズを記載したテキストで勉強してもらう。レッスンではまず、オンライン対戦ゲーム 「フォートナイト」 や 「エーペックスレジェンズ」 で講師1人と生徒3人が1組となってプレーする。

その間は、ゲーム利用者向け SNS (交流サイト) 「ディスコード」 のボイスチャットを通じて英語で会話する。ゲームで武器などのアイテムを集めたり、敵と戦ったりする中で 「Can I have ~ (~ をもらっていい?) 」 「Do you have ~ (~ を持っている?) 」 といったフレーズを練習する。

レッスンでは1プレーで15分ほど遊び、英語の復習をしてからまた遊ぶという流れです。

授業は1回80分で月に4回、料金は月額8800円です。

学びと実践のセット


ゲシピの 「オンライン英会話塾」 が良いと思うのは、学びと実践がはじめからセットになっていることです。英会話のフレーズや習った単語をすぐに使える仕組みができています。

一般的な話として、何かを学んで知っているからと言って実際に使える状態とは限らないですよね。つまり 「知っている」 と 「できる」 にはギャップがあるわけです。

英会話に当てはめれば、学校などで習った英語を外国人との実際のコミュニケーションで使えるとは限りません。

オンライン英会話塾は習った英語や知っている言い回しをゲーム中のコミュニケーションで使うことで、「知っている」 を 「できる」 にする英会話レッスンです。


マーケティングへの示唆


目的の手段化


ゲシピのオンライン英会話塾の本質は 「目的の手段化」 と見ました。

よく言われる 「手段の目的化」 とは逆の発想です。

ここで言う 「目的の手段化」 を順番に説明すると、ゲシピにとっての目的は英会話レッスンを提供して売上を得ることです。一方のレッスンの生徒 (子ども) がオンライン英会話塾を受けるのは、気持ちとしては英語の勉強のためというよりもゲームをしたいからが本音のはずです。

つまり子どもにとって英語とはゲーム内でコミュニケーションをして楽しく遊ぶための 「手段」 なわけです。英語ができればフォートナイトなどのオンラインゲームで世界中の人と一緒にプレイできますよね。

これが 「目的の手段化」 です。売り手の目的を 「お客さんにとっての手段にする」 という意味です。

格言 「ドリルと穴」 との共通点


ここまで見てきた 「目的の手段化」 は、マーケティングで有名な格言である 「お客さんが買ったのはドリルではなく穴である」 に通じます。

顧客が欲しいのは 4 分の 1 インチのドリルではなく、4 分の 1 インチの穴を空けることである。
People don't want to buy a quarter-inch drill. They want a quarter-inch hole.


この格言が言わんとしているのは 「売り手と買い手の認識のギャップ」 です。

売り手は商品 (ドリル) を売ったと捉えます。しかし買い手は家の壁や棚に穴をあける目的のために手段としてドリルを買いました。

オンライン英会話塾に当てはめると、サービス提供者のゲシピは表面的には英会話レッスンを売っていますが、お客さん (生徒) が買っているのは英会話レッスンという 「ドリル」 ではありません。

ゲームをプレイする仲間とコミュニケーションする方法であり、ゲームの体験や時間をより良いものにする価値を買っています。オンライン英会話塾ははじめから提供サービスの英会話を 「手段」 に位置づけているわけです。


まとめ


今回は e スポーツを使ったオンライン英会話レッスンを取り上げ、マーケティングに学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ 目的の手段化
  • マーケティングの格言 「お客が買ったのはドリルではなく穴である」 の意味は、売り手と買い手の認識のギャップ
  • 売り手は商品 (ドリル) を売ったと捉えるが、買い手は家の壁や棚に穴をあける目的のために手段としてドリルを買った
  • 提供者にとっての目的を 「買い手が価値を得る手段」 と捉えてみよう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。